並行世界



(ここはどこなのだろう)
ふと気付くと、いつもとは違う家並みの中にいた。
 
 
 
その日は少し熱っぽかったので保健室で休んでいたが、熱は下がりそうもなかったので、早退することにした。
いつもは歩かない時間帯にいつもの通学路を歩いていると、不思議な感じがする。見慣れた風景も違って見える…が、今、俺が見ている景色はそんな次元の話ではない。
熱の所為で、道を曲がり損ねたとしても、地元の土地感で、今自分のいる所の見当は付く。が、ここは俺の知る街とは到底思えなかった。
 
来た道を戻ってみても、迷路にはまり込んだみたいに、記憶にある家並みに出会う事はなかった。
電柱に記された番地は確かに俺の住む街のものである…が、目に見えるのは、決して俺の街ではなかった。
 
逆行を続けていけば、振り出しに戻る。番地の並びだけ見れば、俺は道を間違えた訳ではない。その先の角を曲がれば、正面に校門と四階建の校舎の壁面がある…
筈なのだが、そこには有刺鉄線の柵で囲まれた空き地が広がっているだけだった。
 
 
 
もう一度、家に向かって歩きだした。
学校に向かった時と同じように、景色に惑わされることなく、地図に記された道を辿るようにして進んでいった。
 
「西野」と俺の家の表札があった。
が、その家は「俺」の家とは違っていた。くたびれた木造二階建、茶色のペンキで塗り込めたような陰気な家はそこにはなかった。
鉄骨三階建、白い外壁には洒落たデザインの文様が浮き出ている。一階は玄関と車庫があり、車庫には水色のワゴンが置かれていた。
どうみても「俺」の家ではないが、郵便受けに書かれた両親の名前は、そこが目的地に間違いない事を告げていた。
が、本来「俺」の名前があるべき所には「真子」の名前が書き込まれていた。
 
俺の名前は「西野真人」である。「人」を「子」と書き間違える事があるのだろうか?そもそも「真子」など女の子の名前としか思えない。
この家は俺なのか否か…
俺が迷い佇んでいると、
カチャリ
と玄関のドアが開いた。
 
出てきたのは女の子だった。
彼女は家の前に立っていた「俺」に気付くと、大きく瞳を見開いて固まってしまった。
 
そして、彼女は大きく三度、深呼吸すると「俺」に言った。
「な、何であんたがココにいるの?」
その言葉で判った事がある。
彼女は「俺」を知っている。
彼女は俺が陥っているこの事象に何らかの関わりを持っている。
どうやら、その推理は当たっているようだった。
 
「とにかく、中に入って頂戴。」
と俺を家に上げると、玄関に脱いだ俺の靴をレジ袋に入れて一緒に持ってきてしまった。
 
三階の一番奥が彼女の部屋らしかった。
女の子の部屋になど入った事のない俺は、あたりをキョロキョロと見回した。ベッドに並べられたぬいぐるみ。壁には男性アイドルのポスターが貼られ、その隣に女子校の制服が掛かっていた。
「あ、あんまり見ないでよ…と言っても無理か。あんたはあたしなんだものね。」
「あんたが俺?どういう事だ…いや、とにかく、何がどうなっているのか説明してくれないか?」
「それはそうよね。」
彼女は俺を椅子に座らせると、自分はベッドの上に座った。
 
「あたしは元々あなただったの…」
彼女は話始めた。
彼女は別世界の俺自身であり、本来の性別も「男」であった。ふとした事から、「世界」を改変する魔法を手にしてしまったという事だった。
試しに「俺」の世界を改変してみた。改変の結果を判りやすくするために自分自身を「女」にしてみたというのだ。
そのまま改変が進めば「俺」は女にされ、何の疑問も持たずに女としてこの世界で暮らしていけた筈だったのだ。
しかし、彼女は改変の成果を確認するために、この世界に自身を投影していた。その瞬間、この世界に「俺」が二人存在してしまった。そして「俺」に対する改変が彼女に向けられてしまったのだ。
彼女は世界の改変と伴に「女」となり、「俺」は改変から取り残されてしまったのだ。
 
「元に戻せないのか?」
「五分五分ね。いえ、もっと少ないかも。あたしのできるのは世界の改変でしかないの。元に戻すと言っても、もう一度逆方向の改変をすると言うだけで、100%元に戻るという保証はどこにもないわ。」
「それでもやってみないか?」
「どうなっても知らないわよ。」
「ああ。」
 
俺がそう言うと、俺の目の前からフッと彼女の姿が欠き消えた。
クラッと眩暈がする。
これは熱の所為などではない。彼女が世界を改変しようとしているのに違いない…
 
俺はそのまま意識を失っていた。
 
 
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