鉢の花



−3−
 
 ハンドバックを手に街を歩いていると、幾度となく呼び止められた。
 みんな若い男達である。
 今、僕はナンパされる側にいるんだ。
 
 適当にあしらっていたが、中に執っこい奴がいた。
 早足に立ち去ろうとしてもその先に回り込んでくる。
 かと言って、走って逃げようにも初めて履いた厚底靴では思うに任せない。
「いいかげんにしてください!!」
 声を荒らげても一向に堪えない。かえって僕の声を聞こうと、更に執こさを増してくる。
 幾分か嫌になった所で、
「やまないか。彼女が迷惑がっているだろう。」
 と、僕と奴の間に割り込んできた奴がいる。
 その後ろ姿だけでも正義の味方のように格好良い。
 執こかった奴も尻尾を巻いて去っていった。
「大丈夫かい?」
 男が僕に向いて言った。
 白い歯と真っ黒な瞳がキラリと輝いたようだ。
「大丈夫?」
 彼がもう一度聞くまで、僕はボーっと彼の顔に見とれていた。
「は、はいっ!!大丈夫でスゥ!!」
 思い切り素っ頓狂な声を上げてしまった。
 顔が真っ赤に染まる。
「あまり大丈夫なようには見えないなぁ。そこの喫茶店ででも入って落ち着きますか?」
「はい!!」
 
 棒のようになった足を交互に出して、僕は彼の後に続いて店に入っていった。
「ミルクで良いかな?」
 店の中で恥ずかしくないように、僕は首を縦に振った。
「じゃぁ、彼女にホットミルクを。ボクはキリマンジャロで。」
 ウェイトレスに注文する姿も格好良い。
 
 …しばらくの沈黙…
 
 その優しさが心地好い。
 彼を見つめながら、次第に気分がほぐれてゆくのがわかった。
 
 しばらくすると、普通に喋れるようになった。
 他愛もない会話が交わされる。
 僕は彼のジョークにコロコロと笑っていた。
 
 
 
 そのまま食事に誘われた。
 断る理由もなく、僕は彼にエスコートされてゆく。
 
 レストランで美味しい料理を堪能した。
 
 ホテルの最上階のラウンジでカクテルを傾ける。
 
 …
 
 僕はベッドの上にいた。
 着ていた服が1枚1枚、彼の手で剥ぎ取られてゆく。
 今、ブラジャーのフックが外された。
 ストラップが肩を滑り落ちる。
「その手を退けて。」
 胸に当てた手がブラジャーと一緒に取り除かれる。
 小振りなバストが露になる。
 彼の唇がその先端を覆った。
 堅くなった乳首が彼の舌で弄ばれる。
 そのまま、二人の身体がベッドの上に倒れ込む。
 その間にも、彼の手は巧みにショーツを剥ぎ取ってゆく。
 彼の口が僕の胸から離れ、首筋を上に伝ってくる。
 唇が塞がれた。
 舌が入ってくる。
 彼の腕が僕を抱き締める……
 
 
 
 
 目覚めると、部屋には僕独りだった。
 テーブルの上にメモが置かれていた。
「先に出ます。会計も済んでいます。」
 
 シャワーを浴びて昨夜の汚れを洗い流した。
 ついでに化粧も全て落とした。
 下着を付け、スカートを穿く。
 昨日は化粧をしていたので大人っぽく見えたが、今はそれほどでもない。
 昨日と同じ服を着ても感じが違う。
 それは化粧のせいだけでもないようだ。
 
 ブラジャーのカップに隙間が出来ていた。
 小振りの胸でも、確かにあったバストが平らになっていた。
 
 慌てて身繕いを整える。
 フェイスタオルをカップに詰めて形を整えた。
 
 今度は乳首が消失したようだ。
 あたふたとホテルを後にする。
 
 股間がむずむずする。
 徐々に谷間が埋まっていっているのだろう。
 
 僕の部屋に続く階段を昇ってゆく。
 ショーツの布地を膨らませているものがある。
 
 ドアを開く。
 
 ストンッと復元したタマが袋に納まった。
 
 
 〜ヒラリ〜
 
 
 窓辺に置いた鉢から、白い花びらの最後の一枚が落ちていった。
 
 クローゼットの鏡に自分を写した。
 ミニスカートを無様に穿いた『男の』僕がそこにいた…
 
 
 
 
 

鉢の中では、次ぎの蕾が新たな出番を待っていた。

 
 
−了−


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