囚われの姫

    前編


 もう、あと一歩の所だった。
 俺達は魔王を追い詰めていた。が、魔王は囚われの姫とともに隠し戸から逃げ落ちようとしていた。
「俺を魔王の所に飛ばせないか?」相棒の魔法使いに言った。「この機会を逃したら再び魔王を見つけ出すのにどれくらいの苦労が掛かると思う?」
 俺は魔法使いを背に魔王への道に立ちふさがる既死人の兵士達を切り捨てていった。
「忘れるな。俺達の目的は姫を取り戻すことだぞ。とは言っても魔王と伴にあればそうも言ってはいられないか。」
「時間がない。早くしろ。」魔王は扉の外にある縄梯子に手を掛けていた。
「人一人を飛ばすなんて直ぐには無理だ。」
 最後のチャンスだった。俺は全てを賭けて剣を投げつけた。
「はう!!」魔王の声が上がった。足が止まる。が、剣は僅かに急所を逸れていた。
「ここまでか?」俺は絶望の雄叫びをあげる。
「いや、これなら行ける。飛ばすぞ!!」と魔法使い。
 一瞬の浮遊感の後、俺の目の前に剣の柄があった。魔王に投げつけた俺の剣だ。その先に魔王がいる。
 俺は咄嗟に柄を握った。
 急所に向かってもう一突きする。
「ぐぐ、ぐわっ!!」
 魔王は口から血飛沫をあげながら仰向けに倒れていった。その先は城の外である。深い堀の底に魔王の屍が小さく消えていった。
 
 
 振り返ると広間には既死人の兵士達が崩れ落ちていた。
 その中に二人の男が立っていた。一人は魔法使いだ。そしてもう一人は……俺、だった。
「善くやったな。だが、少し詰めが甘かったな。」
『俺』が言った。その脇で魔法使いが驚愕の表情を浮かべている。『俺』は魔法使いから剣を奪っていた。
「お前らの冒険はこれでジ・エンドだ。」
 上段から振り降ろされた剣が魔法使いを文字通り真っ二つにした。
「よく鍛え上げているじゃないか。この身体なかなか気に入ったぞ。」
「お、お前は魔王なのか?」
「まぁ、そういう事になるかな? お前の投げた剣はかなりヤバいものだった。わしは咄嗟に魂を手近な場所に退避させた。が、それと同時に魔法使いの術が働いたようだ。お前は首尾よくその身体に飛ばされ、わしを仕留めた。その替わりにわしがお前の身体に飛ばされていたとは魔法使いも想像していなかっただろう。」
(この身体?)
 ここに来てようやく俺は自分の身体の事に思い至った。魔王の返り血を受けた白い手袋に包まれた腕は何とも華奢にできている。視線を身体に向ける。俺はドレスを着ていた。開かれた胸元には豊満な乳房が艶かしい谷間を作っている。それよりも、このドレスは魔王の返り血で紅く染まっているが、囚われの姫が着ていたものに違いない。
「さぁ、姫!! こちらに来なさい。」
 魔王が呼びかけてくる。俺の身体はその言葉に反応した。俺の意志を離れ、勝手に動き出す。
「どうだ? その身体はわしの言葉に逆らえないようになっているのだ。そうだろう?姫。」
「はい♪」俺の口が勝手に返事をしていた。
「では、魔王も倒した事だし『勇者様』は凱旋するとしようか。」
「ど、どうするつもりだ?」俺の身体は魔王となった『俺』に寄り添うように立っていた。その肩に魔王の手が伸びる。
「お前達の所為でこの城はもう使い物にならない。新しい城が欲しいが、1から作り直すのには手間がかかる。それに、この姫にはもれなく城が付いている。くれるものなら貰ってやろうじゃないか?」
「どういう事だ?」
「知っているだろう?姫を助けた『勇者』は姫と結婚してこの国の王となれるのだ。」
「しかし『姫』は…」
「ここにいるじゃないか。それともわしの妻になるのは厭か?」
「俺は男だ!!」
「大丈夫。ここにいる間にその身体は充分に開発しておいた。直ぐにそんな事は気にならなくなる。」
「そ、そんな事って…」
 
 
『俺』の顔が近付いて来た。
 唇が重ねられる。奴の指先がうなじを弄る。一瞬、身体の力が抜けた。その瞬間を狙って奴の舌が割り込んでくる。
(止めろ!!)と叫ぼうにも声が出せない。俺は指一本動かせずに奴に抱かれていた。
 気が遠くなってゆく。ジュッと漏れ出てくるものがあった。脚の付け根が熱くなる。
「どうだ?」と奴。その手が俺の股間に伸びてくる。「濡れたであろう?」スカートの上から指を立ててきた。既に俺は自分自身の脚では立っていられなかった。奴の支えがなくなるとその場に跪くように落ちていった。
「ついでだ。わしにご奉仕してみろ。」
 目の前に『俺』の股間があった。ズボンが降ろされると『俺』のモノが勢いよく飛び出してきた。こんな角度から見た事はなかったが、改めてみるとかなりグロテスクなものである。
「今夜からはコレで悦ばしてやるから、大事にしろよ。」
 俺はコクリと頷き、ソレを口の中に入れた。頭の中では必死に拒絶しているが身体が言うことを聞かない。先端に舌を這わせたり、吸い込んだりすると一気に硬さを増した。
 ドクリッ!!
 大量の精液が俺の中に放出された。俺の身体は嬉々としてそれを呑み込んでいる。
『俺』のモノは一瞬萎えたものの、直ぐにも復帰していた。
「流石に若いだけはあるが、それにしても早くはないか?」
 俺の頭の上で奴が言っている。俺の身体は再び『俺』のモノに貪り付いていた。その俺の頭を奴の腕が引き離す。
「もしかして、お前童貞なのか?」
 俺の身体は勝手に首を縦に振っていた。いや、それは間違いではない。確かに、剣の腕を上げるのに一生懸命だった俺には、女の子と付き合う暇なぞなかった。俺は脇目もふらず鍛練に没頭していた。師匠から修行の旅に出ろと言われ、漸く働かなければ食うことができないと判った。旅の途中で知り合った魔術師と賞金稼ぎのような事をしてはしばらくの糧と剣の力量を上げていった。
 今回の囚われの姫の救出もその賞金が目当てだったのだ。俺にとっては姫も女も眼中になかった。
 
 
 城まではまだ数日の距離があった。
 俺達は街道の旅籠に泊まることになった。奴が旅籠の主人と近隣の男達に囲まれ祝宴を上げているあいだ、俺は女将さんに身体を洗われ、身支度を整えさせられた。
「この辺は貧乏なんで、りっぱなドレスはないんだ。こんなんで我慢してくれ。」と女将さんが嫁入りの時に着ていた一張羅を着せられた。
 髪の毛が梳かれ、結い上げられた。村中から集められた髪飾りの中から一番上等なものが飾られる。白粉がはたかれ、口紅が塗られる。
 鏡の中には美しい娘がいた。
 
 部屋の中で待っていると、上機嫌の奴がやってきた。
「やはり、正義の味方とは気分が良いものだなぁ♪」ドアを締めるなり、俺に抱きついてきた。
「お前らもこうやって良い暮らしをしてきたんだろう?うらやましいなぁ♪」そう言いながら俺の服を剥がし始めた。
「それなのに童貞か? 勿体なかったなぁ。だが、それも今日までだ。」俺は素っ裸に剥かれベッドに放り込まれた。
「どうだい?自分で自分自身の筆降ろしをするのは?」奴も裸になって俺の上に伸し掛かってきた。奴の股間で『俺』のモノが憤り勃っていた。
 既に条件反射のように俺の股間が濡れていた。
「一気に行くぞ♪」
 前技も何もなく、一気に『俺』自身を突っ込んで来た。
「あぁん♪」艶かしい喘ぎ声が俺の喉から発せられる。俺は両脚を奴の胴に絡めていた。
 強く、深く密着させるように脚に力を入れている。奴と俺の股間の間でびちゃびちゃと愛液が音を発てている。俺の中で『俺』自身が暴れまわっている。
「あん、あん、あん♪」奴が腰を振るリズムに合わせて媚声が漏れる。
 
 いつしか、快感が目覚めていた。
 俺自身がソレを求めていた。「もっともっと♪」俺が言っている。「あぁん、あん♪」俺が喘いでいる。ベッドの上で悶えているのは俺自身に他ならなかった。
 
 
 朝、微睡みの中に目覚める。
 股間に昨夜の疼きを感じる。瞼を開くと傍らに『俺』がいた。邑楽かに鼾をかいている。
 昨夜の痴態を思い出すと更に疼きが広がるが、それをぐっと堪える。
 奴が魔王本人である事を知っているのは俺しかいないのだ。その事実に身を引き締める。『俺』の肉体とこの国の平和とを天秤に掛ければどちらに針が振れるかは明白である。
 俺は奴を起こさないようにそっとベッドを抜け出した。
 このまま得物を手に刺し違えを覚悟の攻撃も考えたが、奴がこの身体に施した呪いを考えるとそれは簡単に行きそうもない。俺が直接手を下すことはできないようになっている筈だ。
 俺は床に散らばった服を拾い隣の部屋に移動した。急いで女物の衣服を身に着ける。俺が知らずとも身体が覚えているようだ。複雑な手順で下着からドレスまでちゃんと着けていった。靴を履き、旅籠を後にする。
 不意に腕を引かれた。
 思わずヒッと声が出そうになる。見ると旅籠の女将だった。
「こちらへ。」と村外れの社に導かれた。
 
「あんた、本当の姫さんではなかろう? 大丈夫。勇者様はまだ熟睡しているよ。」
 俺は数人の女達に囲まれていた。いつもの俺であればこんな囲いなど物ともしないし、それ以前に女に掴まるようなへまはしない。が、今はこの身体である。俺は大人しく彼女らに包囲されていた。
「本物の姫さまなら、いや、この国の女ならその『服』の意味する所を知っている筈だ。あんたは何の躊躇もなくそれを着てしまった。だから、あんたは姫様じゃない。違うか?」
「そうだ。俺はあんた達のお姫様なんかじゃない。それに、奴も勇者なんかじゃない。倒されたと言っている魔王その本人なのだ。」
「どういう事?」
 俺は詳しい経緯を彼女達に話してやった。
「じゃあ、あんたが『勇者』さんなんだね?」
「魔王も倒せずに、逆に魔王の性奴隷にされてしまって『勇者』もないがね。」
「まぁ、その服は性奴隷の証そのものなんだがね。とりあえず着替えを用意してあるから。」と、社の奥に案内された。
 
 
 俺は旅支度を整え女将達に別れを言った。腰にはこの身体に丁度良い細身の剣が差してある。体力は失われてしまったが、俺にはまだ剣の技が残っていた。
「『勇者』殿はこちらで何とかしておくよ。あんたはとにかくこの場所から離れることだね。魔王を倒すにはまだ時期が早いし、あんたもその身体に慣れなければいけない。」
「判った。何から何までありがとう。恩に着るよ。」
「気にしなくて良いさ。それからこれも持って行きな♪」
 小袋が渡された。中には化粧道具が入っていた。
「今のあんたはどこから見たって『女』なんだ。それを忘れるんじゃないよ。」
 女将の言葉に俺は答える事ができなかった。が、小袋は腰帯に括り着けた。
「じゃぁな。」
 俺は社を後にした。
 
 
 
    後編


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