ブルーデイ



 僕は恐る恐るコンビニのドアを開けた。
 ここは僕の住んでいるアパートから30分近く歩いた所にある。ここならば僕を知っている人に出くわす事は無い。と判ってはいても、どこかに後ろめたさがある。
 雑誌コーナーを通りながら、目的のモノを確認する。
 奥の冷蔵庫からお茶のペットボトル、レジに近い棚からおにぎりを取ってカゴに入れた。
 スナック菓子のコーナーを通り抜け、再び雑誌コーナーに戻って来た。
 もう一度、場所を確認する。
 雑誌コーナーからレジに向かう間に、僕は目的のモノをさっと掴むとカゴに入れ、一連の動作でそのカゴをレジの机の上に置いた。
 店員が品物を掴んではバーコードを読み取らせてゆく。
 何事も無かったように袋に詰め、合計金額を読み上げる。
 僕は手に持ったお札をトレイに載せる。掌から吹き出した汗でお札が濡れている。
 再びトレイを見ると、いくらかの小銭とレシートに変わっていた。
 僕は釣り銭をポケットに入れ、ショルダーバックに渡された袋ごと品物を詰め込むと、そくさくと店を後にした。
 
 
 そして、30分かけて自分のアパートに辿り着いた。
 部屋に入り、机の前に座る。ショルダーバックからコンビニの袋を取り出す。さらに、その中から買ってきた品物を机の上に並べた。
 お茶のペットボトル、おにぎり、そして…女性の生理用品=ナプキンである。
 封を切り、ソレを取り出すと僕はユニットバスと一体となったトイレに入った。
 ズボンを脱ぎ捨て、バスタブの淵に掛ける。
 上半身はそのままで、トランクスを降ろす。
 その下には水着のサポータを穿いている。
 それも取り去る。
 サポータに赤く染みが付いていた。
 僕は股間から血を吸い取ったポケットティッシュの束を取り除いた。
 それをほぐして便器で洗い流す。
 便器に跨がり、ロールペーパーで残った汚れを拭き取った。
 買ってきたものをトランクスの内側に貼り付け、穿き直した。
 股間の不快感は変わらないが、専用の用品を手に入れた事で一安心する。
 僕はズボンを穿いて、トイレを出た。
 
 
 そう、今の僕は生理中なのだ。
 言っておくが、僕は「男」だ。
 しかし、一週間前、洋行帰りの友人からもらった怪しげなドリンク剤を飲んだ事から始まる。
 その晩、股間が急激に痛みだした。
 七転八倒した末に気絶したようだ。
 翌朝床の上で目が覚めると、痛みはすっかり引いていた。
 が、僕の股間には得体の知れない裂け目が出来ていたのだ。
 その裂け目から今朝、血が出ているのが見つかった。
 僕にはそれが「痔」ではなく「生理」である事を直感した。
 そう、僕の股間に出来た得体の知れない裂け目は女性器そのものだったのだ。
 理解すると同時に必要なモノを揃える必要を感じた。
 先ずは生理用品という事で、身支度を整えてコンビニに買い出しに言ったのである。
 男が生理用品を買うという事に後ろめたさもあり、30分も掛けて離れたコンビニに行ったのだった。
 次ぎに何をすれば良いか?
 下着が思い浮かぶ。女性ならサニタリーショーツというものがあるらしい。
 が、それを買いに行くのには勇気がいる。
 先ずはブリーフにしてみよう。
 身体にフィットしている分、トランクスよりは効果的だろう。
 とは言っても、この部屋にはトランクスしか置いていない。買い出しに行く必要がある。
 だが、さっきのように遠くに出かける必要もない。近くのスーパーで事が足りる。
 
 
 と、言う事で買ってきたブリーフに穿き代えた。
 久しぶりのブリーフの感触である。
 スーパーでは他に通販カタログも買ってきた。通販なら恥ずかしい思いもせずに女性用に売られているものを手に入れる事ができる。先ず頭に浮かんだのがサニタリーショーツである。どんな物かうかがい知る事も出来ないが、通常の下着とは別に存在するのであるからには、それなりの効用がある筈である。
 僕は机の前に座って、通販カタログをめくっていった。
 改めて見てみると、女性用の下着には色々なものがあると知らされた。
 様々なブラジャー、ショーツに体型補正のもの、ゆったりとしたもの等がカラフルに誌面を飾っていた。
 そして目的のサニタリーショーツのページに辿り着いた。
 昼用と夜用がセットになっている。夜用はぐるりと背面をカバーする構造になっていた。
 確かに寝ているうちは引力は脚ではなく、背面に掛かる。
(水は高い所から低い所に流れる)
 僕は通販カタログを見ながら、ウンウンと頷いていた。
 綴じ込みのハガキを切り離し、商品番号を書き込んだ。
 一つだけ書かれた商品番号と金額を見ていると、それだけで頼むのは心が引けるものがあった。
 ついでだから…
 と、僕は通販カタログのページを捲り返していた。
 
 
 
 気がつくと、僕の部屋は通販で購入したもので溢れかえっていた。
 最初は下着の着心地の良さに感動した。
 ズボンの下に毎日ショーツを着けていると、段々大胆になって来る。
 部屋着が女物になり、それと同時に内装が一変する。
 レースのカーテンにぬいぐるみ。部屋の中が明るくなった。
 ドレッサーに女物の服が溜まってくる。
 最初は部屋の中だけで着ていたのが、そのまま外に出たくなる。
 サンダルを買い、バッグを買い、アクセサリーも揃えていった。
 今では、この部屋を見て住んでいるのが男性だとは誰も思わないだろう。
 僕は毎日、パット入りのブラを付け、女物の服を着ている。
 この方が綺麗だし、心も落ち着く。
 通販で買った機械で脱毛した素肌はスベスベで、お化粧の載りも良い。
 今日は出かけるので、入念に化粧をした。
 髪の毛をブラッシングする。この間まで通販で買ったウィッグを付けていたが、自髪の大分伸びてきたので最近は美容院でカットしてもらっている。
 アクセサリを身につけ、姿見で出来ばえを確認していると、チャイムが鳴った。
 
 ドアの外に立っているのは、怪しげなドリンク剤をくれた友人だった。
 彼は僕の変身を楽しみにしていたのだ。
 アパートの近くで僕が女性化していくのを観察していたらしい。
 ズボンにショーツの線が見えたとか、ワイシャツの布越しにブラのストラップが確認できたとか。
 初めての女装外出も目撃されていた。
 彼は僕の一挙手一投足に注目していたのだ。
 そんな僕を彼は愛していると言う。
 僕は頭の中まで女性化してしまったのか、彼の言葉に胸がキュンとなった。
 そして今日。僕は彼のモノになるのだ。
 スカートの下には一番のお気に入りのショーツを穿いている。
 
 
 そしてその後のお楽しみ。
 楽しみは彼だけに与えられたものではない。
 僕はあのドリンク剤を通販で手に入れていた。
 それをハンドバッグにそっと忍ばせてある。
 今度は僕が彼の変身を楽しむのだ。
 
 

−了−


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