記念碑



「こんばんわ」
 男の声に目が覚めた。
「お届け物に上がりました。」
 男は鞄の中からヒモの付いた棒状の物を取り出した。
 よく見ると、それは風俗誌で良く見かけるバイブ=バイブレータ式の張形だった。
「な…」
「何なんですか、あなたは?と仰りたいのでしょう?私はただのセールスマンです。今夜は特別ご奉仕として試供品をお届けに上がった次第です。さて、コレの使い方はご存じでしょうか?ご存じない?では…」
 男はバイブを手に、俺に迫って来た。
「コレはこう使います。」
 奴は布団を捲くり上げ、俺の身体からパジャマを剥ぎ取った。
 真っ裸にされた俺の足元に陣取り、片足を抱え上げると股間にバイブを押し当てた。
 バイブはズブズブと俺の股間にめり込んでゆく。
 しかし、そこは肛門ではない。もう一つ別の穴に押し込んでいるのだ。
「では行きます。」
 奴の手がスイッチを入れるとグネグネとバイブが振動する。
 不思議な感覚が下腹部から昇ってくる。
「あ〜〜〜んU」
 俺は女のように喘いでいた。
 こんなバカな!
 コレは夢だ〜〜〜〜!
 
 
 
 ジリジリジリジリジリジリ!!
 目覚ましの音に俺はもそもそとベッドの中から這いだした。
 昨夜の事は何だったのだろう?
 部屋の中には俺一人。いつもの朝と変わりのない朝を迎えていた。
 しかし、俺は覚えている。
 下半身に得体の知れない疼きを感じている。
 
 俺は慌ててパジャマを脱いだ。いつものようにパジャマの下には何も着けていない。
 俺は床に腰を降ろし、大きく股を開いた。
 疼きの原因を探すべく、そこに触れてみた。
 ソレはペニスの付け根にあった。
 肛門とペニスの中間が、パックリと割れている。その割れ目に沿って指を這わす。
 ねっとりと指先に粘液が絡みつく。その先には昨夜の疼きが残っている。
 そろそろと指の腹で触れてみた。
 ソレはずるずると俺の指を喰え込んでいった。
 ゆっくりと指先を奥に進める。
「アッアンU」
 夢の中で感じた不思議な感覚が快感となって身体中に広がってゆく。
 指を動かすと快感が何倍にも膨れ上がっていく。
 残った掌で男性自身を愛撫してみる。
 いつにも増して敏感に感じる。
「あ〜〜んU」
 指が動く度に、俺は腰をくねらせる…
 
 ふと見ると床の上にヒモの付いた棒状のモノが転がっていた。
 夢(?)に出てきたバイブだ。
 手に取り唾液で充分に濡らした後、バイブを俺の股間の新しい穴に差し込んだ。穴はスルスルとバイブを哈わえ込んでゆく。胎の中に異物を感じるが、それは決して不愉快なものではない。
 スイッチを入れる。胎の中で蠕動を始める。そのうねりに俺は悦びを感じていた。
 今まで覚えた事のない強烈の悦感に俺の男性自身は幾度となく白液を吐きだす。が、胎内の刺激はさらに悦感の昂りを助長する。白液を出し切った俺の男性自身はやがて萎え始める。しかし、悦感は繰り返し俺を絶頂に突き上げる。俺は手にしたバイブで俺の股間の新しい穴を思う存分弄んだ。
 
 気がつくと、俺の股間から男性自身が消えていた。指先で触れると辛うじてそれと判る肉芽が残っている。左右に残された睾丸を除けば、俺の股間は女性自身と大差なくなっていた。その、残された玉も袋の上から軽くつついてやると、するりと恥骨の奥に潜り込んでしまった。
 今の俺は、髭が生え、浅黒い筋肉質の身体。分厚い胸板。外見はどこから見ても『男』だが、その股間は『女』そのものである。俺は自分の外見の一切を無視し、忘れ去り、そこにバイブを咬え、『女』の悦感にのめり込んでいった。
 
 
 
 目の端に時計が写った。既に昼近い。ゆっくりと頭の芯が覚醒してゆく。名残惜しげに股間からバイブを引き抜く。生暖かくなったバイブを手に風呂場に向かう。シャワーの栓をひねり、肉体から粘液を洗い流す。顔にクリームを塗って髭を剃る。歯を磨き、顔を洗う。さっぱりとして部屋に戻ると、机の上に今度は卵のおもちゃが置いてあった。
 俺は誘惑に抗いきれなかった。卵を掌に取る。合わせ目に沿って捻ると、思ったとおり小さく振動を始める。股間に卵を埋める。俺の下半身がうち震える。水泳用のサポータをしてその上からトランクスを穿く。ジーンズの股間に、いつもの膨らみが見えないのが心もとなかった。
 
 股間に卵を抱いたまま、俺は部屋を出た。
 電車に乗り、吊り革に掴まる。扉が締まり、電車が発車する。
「?!?!?!」電車が揺れ、隣の人の腕が半袖のTシャツから剥き出しになった俺の腕に触れる度に俺の全身から力が抜け出してゆく。俺の肌はものすごく敏感になっていた。触れられただけで感じてしまう。媚声が喉から漏れそうになる。股間は愛液で洪水のようだ。
 
 俺は息を止め我慢を続けた。電車がホームに着くと鉄砲玉のように飛びだしていった。ホームのベンチに腰を降ろす。ハアハアと肩で息をする。暫くは立ち上がれそうにない。俯いて座っていると、
「どうしました?」と、男の声がした。振り仰ぐが、男の腰の高さまでしか上がらない。目の前に男の股間があった。スラックスの上から萎びてもまだ太さの判る膨らみから目が放せなくなった。ぼーっと見つめている。俺の股間で卵が揺れいる。俺は想像していた。太くて逞しい男性自身が卵の代わりに俺の股間に入り込んでくる。俺は両脚を思い切り広げソレを迎え入れる。俺の内で暴れまわる。俺は歓喜に身悶える…
「もしもし?」
 再び男の声。俺は腕に力を入れ、上体を持ち上げた。男の胸にはネームプレート、スーツと同じ色の帽子を被っている。男はここの駅員だった。
「大丈夫です。」そう言って立ち上がろうとしたが、やはり足に力は入らず、俺はベンチの上に尻餅をついてしまった。そんな俺を駅員は微笑みながら見下ろしていた。
「事務室にベッドあります。そこでお休みになられては?お連れしますよ。」
 そう言うなり、俺の返事も待たずに男は俺の脇の下に肩まで腕を差し込んだ。必然的に俺の腕は男の首を巻く形になる。男のもう片方の腕が膝の裏をすくう。そのまま俺の身体は持ち上げられていた。少なくとも男性の平均的な体重を自負している俺が女のように軽々と持ち上げられている。俺にはかなりのショックだった。
 
 事務室の奥に扉で区切られた一室があった。中は薄暗く、シンと静まりかえっていた。硬めのベッドに寝かされる。毛布がその上から被せられる。男は無言のまま部屋を出ていった。俺は大きく深呼吸した。
 ズボンのベルトを外す。下着はぐっしょりと濡れていた。その隙間に指を差し込む。肉の割れ目を確認する。腹式呼吸で下半身に力を入れる。むにゅっとした感じで卵が出てきた。まだ、ぶるぶると震えている。ポケットからハンカチを引き出してスイッチを切った卵を包む。
 再び深呼吸すると幾分か落ちついた。が、こんな有り様ではどうにもならない。俺は一旦部屋に戻ろうと決意した。毛布をはぎ取り、ベッドの上に起き上がる。トランクスは濡れていて気持ちが悪いので、ハンカチに包んだ卵と伴にカバンの中に放り込んだ。
 素肌の上にズボンを穿き、立ち上がろうとして目眩がした。再びベッドの上に押し戻される。部屋に戻ると決めたからには急ぐ必要などどこにもない。今は体調を回復させるのが第一と考え、ベッドに横たわると毛布を引き上げた。
 俺はそのまま闇の中に落ちていった。
 
 
 
 ひそひそと男達の声が聞こえた。どうも3〜4人はいるみたいだ。何をしているのだろう?と思っているうちに足元の毛布が剥がされた。誰かの手がズボンのベルトに掛かる。俺は腕を伸ばし、その手を抑えようとした。が、すぐさま別の男に抑え込まれる。
「気がついたぞ。」男達はおおっぴらに声を発て始めた。タオルで口を塞がれる。俺は完全に覚醒していた。ベルトが外され、ボタンが取られ、チャックが降ろされる。
「おっ、ノーパンだ。」ズボンが脱がされる。男の指が俺の股間を撫で上げる。
「結構濡れているぞ。」指先が俺の胎内に突き立てられる。何が何だか判らずにも、俺はじたばたと抵抗した。が、男達の力強い腕で全ての動きを封じられた。口を塞がれ、声も出せない。既に毛布は床に落ち、Tシャツも捲くれ上がっている。俺は男達の前に裸同然の姿にされていた。男の掌が俺の胸を鷲掴む。指先で乳頭をコロコロと弄ぶ。
「?」
 肉体の変化は股間だけではなかったのか?
 男の掌にはしっかりと双つの肉塊が握られていた。その先端を弄ばれると、背筋を悦感が走ってゆく。その後で俺の頭に思いもよらなかった単語が浮かび上がってきた。
『レイプされる?』
 目の前にニュッと赤黒い棒が延びてくる。オモチャではない。本物の肉棒が俺の周りで踊っている。ついさっき、俺は想像していた。太くて逞しい男性自身が卵の代わりに俺の股間に入り込んでくる。俺は両脚を思い切り広げ迎え入れる。俺の内で暴れまわる。俺は歓喜に身悶える…
 
 それが現実となる?
 いや、これは悪い夢だ。
 俺が男に犯される?
 
 強い力で両足が広げられる。股間が露になる。両膝を抱え込むように男が近づく。男の先端が触れる。ドクドクと俺の股間から愛液が溢れ出る。男が侵入してくる。グチャグチャと皮膚と液体が擦れ合う。俺の内で本物の男が暴れまわっている。
「あ〜〜〜〜〜っU」
 俺は声にはならない嬌声を張り上げていた。
 
 
 
 ジリジリジリジリジリジリ!!
 目覚ましの音に俺はもそもそとベッドの中から這いだした。部屋の中には俺一人。いつもの朝と変わりのない朝を迎えていた。パジャマを脱ぐ。いつものようにパジャマの下には何も着けていない。上のボタンを外すと双つの肉塊が溢れ落ちる。それを手にしたブラジャーに包み込む。パンティストッキングが第二の肌となる。ピッタリとしたジーンズを穿くと、女らしい肉体の曲線が強調される。Tシャツの上にトレーナを無造作に羽織る。あの時から俺の顔には髭が生えなくなていた。
 髭を剃る代わりに化粧水を刷り込む。唇に紅を挿し、瞼に影を入れる。男達にもらった口紅をポーチにしまい、男達からもらったブランド物のバッグに放り込む。高いヒールのパンプスを履き、部屋を出る。
 もうすぐこの部屋ともお別れ、俺は男達の買ったマンションに住む。
 俺は自分を過去から切り離す。この部屋のものは全て処分するつもりだ。新しいへやのクローゼットには色とりどりのドレスで埋まるだろう。白いレースと花柄のカーテンが窓を飾り、沢山のぬいぐるみとクッションがふかふかのカーペットの床を埋め尽くす。俺は生まれ変わった。この部屋は過去のもの。今の俺にはあってはならないもの。全てを葬り去るの。
 けど、只ひとつ、あのバイブだけは手放さない。
 これはアタシの記念碑だから…
 

−了−


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