力の実



 その夜、久しぶりに訪れた叔父さんは僕の母さんの弟にあたる人で、冒険家と称して世界中を飛び回っては珍しい話を土産にやってくる。
 今回はアマゾンのジャングルを探検してきたとかで、父さんとお酒を飲みながらひとしきり冒険譚を披露してくれた。迷惑顔の両親を余所に、叔父さんの弁舌は快調を極めていた。密林の猛獣、色鮮やかな昆虫達、奇妙な動物の生態、原住民の暮らし、勇猛なアマゾネス、神秘の宝石、伝説・神話…
 僕は叔父さんの話に引き込まれていったが、
「今日はもう勘弁してくれ。」
 と、とうとう父さんが音を上げてしまった。
 こうして叔父さんの独演会はお開きとなったが、僕はどうしても叔父さんに聞いておきたい事があった。
 皆が寝室に引き上げた後、僕は叔父さんの泊まっている部屋をそっと訪れた。
 
 叔父さんはまだ起きていて、ベッドの端に腰掛けウィスキーを呑んでいた。
「なんだい、祐紀君?」
 叔父さんは快く迎えてくれたので、僕は直ぐに聞きたい事を話した。
「あの、アマゾネスの話しで出てきた『力の実』っていうの、もう一度見せてもらえるかな?」
「ああ、いいよ。」
 そう言ってリュックのポケットから封筒を取り出した。
 サイドテーブルの上にティッシュを広げ、その上に『力の実』を広げる。
「いやにこいつに興味があるね。」
 全てを見通したかのように叔父さんが問いかける。
 …これを使ってアマゾネス達は男と対等に、またはそれ以上の力で戦う事が出来る…
 さっき、叔父さんはそう言っていた。
「明日、陸上記録会があるんだ。べつに一番になりたい訳じゃない。ただ、一番ビリになりたくないんだ。僕は足が遅い…というより、スポーツ全般、何を取ってもダメなんだ。かけっこをすれば何メートルも先にみんなゴールしてしまう。長距離を走れば、僕より一周多く回ってきた人達にどんどん抜かれてゆくんだ。だから、一番じゃなくていい。みんなと同じくらいに走れるようになりたいんだ。」
 僕は胸の内を一気に吐き出した。
 幾分かすっきりした所で、叔父さんが言った。
「う〜ん。困ったな。これを使って勝ちたいと言う相談なら有無を言わさず断るんだが、そういう事なら叔父さんも何とかしてやりたいと思う。」
「えっ!貰えるの?」
 駄目もとで言ってはみたが、まさか貰えると言ってもらえるとは思ってもいなかった。
「あげても良いんだが、祐紀君にはこれは使えないんだ。」
「どうして?」
「あの話しには続きがあってね。君は子供だし、姉さんもいたから言えなかったんだ。」
 暫くの間、僕と叔父さんのにらめっこが続いた。
「そんな顔するなよ。じゃあ、続きを話してやるがこの事は姉さんには内緒だぞ。」
 叔父さんは折れた。
「まず、この『力の実』の使い方だが。これはアマゾネスにしか使えない。というより女性にしか使えないんだ。彼女達は戦いの前に聖水で身を清めた後、『力の実』を股間に入れる。そう、女性器の中に押し込むんだ。『力の実』は膣の中で溶けだし、彼女達の身体に吸収されるのだ。その間約1時間。そうすると、彼女達はアマゾネスの戦士に変わっている。彼女達はその増幅された力で戦いに向かうのだ…これは、さっき話したね。そして、戦いが終わった時、『力の実』の副作用が始まるんだ。太陽が落ち、夜になると彼女達の身体が火照りだすのだ。股間から愛液をたらしながら男性を求めずにはいられなくなるんだ。SEXに飢えた彼女達はまず捕虜として捕らえた男達に襲いかかる。彼女達の身体からは強烈なフェロモンが発せられ、その気もなくとも男達の股間は勃ってしまう。それでなくとも若く美しい女達に囲まれれば、彼らの精はいいように絞り採られるのだ。男達がダメになると彼女達は彼女達同士で愛し合い始める。この壮絶なレズビアンパーティーは丸一日続けられるんだ。」
 
 結局、僕は『力の実』を貰う事は出来なかった。
 けれど、どうしても手に入れたかった。
 僕は眠れない夜を過ごした。
 すぐにも夜は白み始め、母さんは台所で朝食の支度を初めている。
 父さんは会社が遠いので僕が学校に出る1時間も前に家を出て行く。
 洗面所で歯を磨いていると父さんの出勤時間となっていた。
「姉さん。僕も義兄さんと出るよ。たばこを買ってくる。」
 それを聞いた僕は歯磨きを中断し口を濯いだ。
 チャンスだ。
 僕は叔父さんの泊まっている部屋に忍び込んだ。
 リュックから『力の実』の入った封筒を取り出す。入っている場所は昨夜確認している。
 その中から一粒だけ『力の実』を取り出す。
 封筒を元の通りリュックに戻した。
 
 
 
 身体が軽く感じた。
 僕はみんなと一団となってゴールを通過した。
 気持ちが良かった。
「やったよ。みんなと一緒にゴールができた。」
 記録会も終わった放課後、帰り道の途中で僕は叔父さんに電話していた。
「ま、まさかアレを使ったのか?!」
 浮かれていた僕は叔父さんの剣幕にようやく無断使用の事を思い出した。
「ごめんなさい…」
「とにかく、そのまま叔父さんの家に来なさい。姉さんには僕から連絡しておくから。自動車を出すから、駅の改札で待っていてくれ。」
 そう言われ、僕は家に帰るのとは反対の方向の電車に乗った。
 叔父さんの家=母さんの実家は隣の県のほぼ中央に位置する。
 地元ではかなりの名家だったらしく、叔父さんの家は「お屋敷」と呼ぶに相応しい。
 クラスにはアパート・マンション暮らしが多い中、僕の家は一戸建てでみんなからは羨ましがられているが、叔父さんの家の広さは半端なものじゃなかった。
 長女の母さんが駆け落ち同然で父さんと一緒になったため、全てを相続した叔父さんだからこそ「冒険家」などという事をやっていられるのだろう。
 
 電車にはほぼ1時間位乗って行く。
 反対方向なので車内は空いており、BOXシートに座っているとうつらうつらしてくる。
 
 身体の奥でストーブが焚かれているかのような暑さに目を覚ました。
 下着がかなり汗ばんでいる。
 もう少しで降りる駅だ。
 次第に頭がぼーっとしてくる。
 空が夕焼けで真っ赤に染まっていた。
 アナウンスが降りる駅の名前を告げた。
 僕は席を立ち、戸口に佇む。
 電車がホームに着く。
 扉が開く。
 階段を昇って、降りて…
 改札を抜け、ふらつく身体を柱にもたれ掛けさせた。
 一息つく。
 気がつくと改札を通り過ぎて行く人達が皆僕を見てゆく。
 見た途端、直ぐに視線を背ける。
 不思議な光景に、僕は観察を続けた。
 なかに「男か…」と呟いて通り過ぎる人もいる。
 よく見ると、僕を見て行くのは男性がほとんどだった。
 歩いている人が圧倒的に男性が多かったので気がつかなかったが、女性や小学生以下の子供達は殆ど僕の事を気に掛けていない。見ていくにしても、男達が僕を見ているのに気づいてからである。
 逆に男達をよく見ると、皆一様に股間がもっこりと膨らんでいる。
(欲しい…)
 唐突にそんな想いが頭の中を過っていた。
 身体が更に暑くなる。
 体中から汗が吹き出ている。
 特に股の間に汗が溜まって気持ちが悪い。
「大丈夫かい?」
 振り向くと、そこに叔父さんが立っていた。
 
「フェロモンのせいだな。」
 自動車を運転しながら叔父さんが言った。
 僕は叔父さんの家に着くまでに、これまでの事を話していった。
 リュックから『力の実』を盗んだ事。
 昼休みにトイレで『力の実』を肛門に押し込んだ事。
 力がみなぎり、身体が軽く感じられた事。
 一等が取れそうだったけど、みんなと一緒にゴールする事を選んだ事。
 気持ち良かった事。
 そして、駅での出来事…
 その間にも、僕の視線は叔父さんの股間に吸いつけられていた。
 そして、叔父さんの股間もまた他の男達と同じに膨らんでいる。
 僕はそこに手を延ばさないように必死に堪えていた。
 その事を話すと、叔父さんの片手がハンドルを離れた。
「ひゃん!!」
 叔父さんの手が僕の股間を触った途端、強烈な刺激が脳天を突き抜けていった。
 何も考えられなくなっていた。
 叔父さんの指が僕の股間でもぞもぞと蠢くと、そこから快感が湧き出てくる。
「あ〜〜〜〜あ」
 僕は両手で叔父さんの手を抑えると、仰け反り、甲高い叫び声を発していた。
 
 
 
 予想はしていた。
 家に着くと、そのまま寝室に連れていかれた。
「脱いでみて。」
 僕は学生服のボタンを外していった。
 プンッ!!
 胸のボタンを外すと、ワイシャツのボタンが弾け飛んだ。
 上着と一緒にワイシャツも脱ぎ去る。Tシャツの下に胸の膨らみが露となる。
 ズボンも脱いで濡れたパンツを手にした。
 これは汗だけで濡れたのではない。
 パンツを脱いだ下半身にはあるべきものがなかった。
 代わりに出来た割れ目からは今も愛液が滴っている。
「頂戴U」
 僕の視線は叔父さんの股間に注がれていた。
 それはズボンの布をはち切れんばかりになっていた。
「欲しいの。」
 僕は叔父さんの前に四つん這いになっていた。
 ファスナーに手を掛ける。
 叔父さんは何も言わない。
 ボロリと巨大なペニスが現れた。
 僕は夢中でそれを口に入れた。
 
 最初の迸りを口に受ける。
 僕は白い液体を余すところなく嘗め取った。
「ベッドに行こう。」
 僕は叔父さんの腕に抱かれ、ベッドの上に降ろされた。
 叔父さんも裸になっていた。
「ああんUあんんU」
 Tシャツを捲くり上げられ、剥き出しになった乳房が揉まれる。
 敏感な乳首を刺激され、僕の喉から艶かしい喘ぎ声が漏れ出る。
 叔父さんの股間のモノが僕の内股に触れる。
(早くシテU)
 そんな想いも叔父さんの指や舌の動きに僕の肢体は悶え、喉からは嬌声が溢れるだけ。
「あ〜〜〜〜〜〜〜U」
 僕は叔父さんの手で何度も悦楽の頂きに放り上げられた。
 
 もう、どれくらい経ったのだろう?
 僕のお腹の中では僕の愛液と叔父さんの精液がぐちゃぐちゃに混ざり合っている。
 結合してからは叔父さんのペニスはずっと僕の中にある。
 快楽は止まる所を知らない。
 僕は喘ぎ、悶え続けていた。
「少し休まないか?」
 叔父さんの声に現実に引き戻される。
「これでも飲んで一息つきなさい。」
 渡されたカップスープを手にした時、不自然な事に気がついた。
 僕の中にはまだ叔父さんのモノがあるようなのに、叔父さんはベッドの脇に立っている。
 トランクスの内側には叔父さんのペニスがあるのが判る。
 慌てて股間に手をやると、何か硬いものに触れた。
「ごめん、ごめん。マジで付き合っていると僕の方がもたなかったのでね。」
 股間から引きずり出されたのはペニスを模ったバイブだった。
(僕はこれで何度もイかされていたのか?)
「そう怖い顔しないで、機嫌を直してくれよ。そうだ、気分転換に風呂に入ってくると良い。」
 僕は納得できずにいたが、叔父さんの言葉に従った。確かに、汗と体液でまみれた身体は気持ちの快いものではない。
 飲み干したカップを叔父さんに押しつけ、風呂場に向かった。
 脱衣所には大きな鏡がある。
 そこに写っていたのは女の子だった。
 それが僕自身であるのに気がつくまでしばらくかかった。
 大きく膨らんだバスト。細くくびれたウエスト。丸みを帯びた腰。神秘の股間…
 手足も幾分か細く、白くなっているようだ。
 しかし、顔の造作や髪形は確かに彼女が僕自身であることを告げていた。
「良いかい?」
 叔父さんの声で我に返る。
 僕は慌てて風呂場に入り、ガラス戸を閉めた。
「姉さんのお古だけど、ここに置いておくよ。」
 叔父さんが去った後、脱衣所を見るとハンガーに掛かったワンピースと折り畳まれた下着が置かれていた。
「ふぅ。」
 と、僕はため息をついて湯船に浸かった。
 そうなのだ。この身体では着てきた学生服は着られない。ワイシャツのボタンもとれてしまったし、Tシャツも汗でぐっしょり濡れていた。
 僕はようやく落ち着きを取り戻していた。
 湯船の中で四肢を伸ばす。
 天窓から朝日が差し込んでいた。
 
 
 
「落ち着いたかい?」
 シリアルの簡単な食事を前に叔父さんが聞いた。
 既に昨夜のようなSEXに飢えた状態は脱出していた。
「本来は夜まで狂乱状態が続くらしい。朝になって納まったのは君が男の子だったからかも知れない。」
「戻れるの?」
「それは大丈夫だと思う。けど、今日いっぱいはそのままじゃないかな。」
「そう…」
「じゃあ、気分転換に遊園地にでも行かないか?」
「え?」
「祐紀君もこのまま家に閉じこもっていては気分もめげるだろう?」
「でも、この格好で?」
 僕は胸のリボンに目を落とした。
「大丈夫。似合ってるよ。可愛い。なんなら行きがけに新しいのを買ってあげよう。」
 気がつくと、僕は叔父さんの言葉にうきうきしていた。
 
 試着室の鏡に僕が写っている。
「可愛いよ」って言った叔父さんの言葉を思い出しては笑みをこぼしている。
 叔父さんの家にあったのは母さんのお古だけあって、やはり今ふうでなかった。
 思い切って流行の超ミニのスカートを穿いてみた。
 気をつけないとショーツが丸見えになってしまうが、僕の可愛らしさを充分引き立ててくれる。
 ピンクのスニーカと黄色のベストでコーディネートした。
 
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 男の子の僕なら絶対に上げない悲鳴を思いっきり叫んでジェットコースターが回転する。
 僕は叔父さんの腕にしがみ付きながら叫び続けた。
「今度はお化け屋敷ねU」
 僕は自分でも驚くくらいはしゃいでいた。
 叔父さんの腕を引いて、あっちのアトラクション、こっちのアトラクションと巡っていった。
「もう勘弁してくれよ。」
 とうとう叔父さんが音を上げた。
「じゃあ、あそこのベンチでアイス食べよ。」
 当然の如く叔父さんに買いに行かせる。
 ベンチで待っていると、男の子が声を掛けてきた。
 これがナンパなのだろう。
 何も喋らないでいると次から次ぎにギャグを飛ばして行く。
「プッ。」
 僕は思わず吹き出してしまった。
「あ、笑った顔も可愛い。」
「『も』じゃないないだろう。『笑った方が』だろう。ボケッ!」
 スコーンと相方の後頭部が殴られる。
 もう、こうなると笑いが止まらなくなってしまう。
 そんな所に叔父さんが戻って来た。
「祐紀!」
「あっ。オジサマU」
 彼らは「えっ」と言う顔をしてすごすごと退場していった。
「またねUユウキちゃんU」
 殴られ役の子がそう言うと、再び相方の鉄拳が飛び出し、腕を引かれて人込みの中に消えていった。
「なんなんだい、あいつらは?」
「ナンパじゃないの?」
 あたしはしらっと答え、アイスクリームに口を付けた。
「おいしいU」
 女の子になって味覚も変わってしまったみたい。
 
 
 
 
 
 一夜明けると、僕は元の姿に戻っていた。
 
 昨夜、僕は自分の意志で叔父さんに抱かれた。
 叔父さんの愛撫は優しく、心地よかった。
 
「また来てもいい?」
 帰り際、僕が聞くと、
「いいよ。『力の実』はまだ沢山あるからね。」
 そう言って学生服の僕を抱き締めると、濃厚なキスをしてくれた。
 
 

−了−


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