欲 望



 夜中にドンドンと扉を叩く音が響いた。
 ウトウトとしていた俺はしっかりと目覚めてしまった。音の出所が俺の部屋の扉と判ると流石に(近所迷惑な…)と、ベッドから這い出していった。
「どなたですか?」
 声を荒めてはみたが、深夜ということで自然と声量が制限され、効果の程は期待できそうもない。覗き窓から辺りを窺ったが誰もいない。チェーンが掛かっているのを確認し、扉のロックを外した。そろりと扉を開く。辺りの雰囲気にはなにも怪しい所はない。
(それにしては扉は激しく叩かれていたのだ)
 意を決し、チェーンを外して外に出てみる。が、そこはなんの変哲もない深夜の情景があるだけであった。俺の他にこの騒ぎに気づいた住民はいないようだ。
(いつもであれば、一番端のバアさんが真先に怒鳴り込んでくる)
『幻聴』というにはあまりにもリアルな騒々しさだったが、今こうして見てみると俺の方がおかしいようだ。そもそも、俺に用があるのならば扉を叩かずともチャイムを鳴らせば良いのだ。チャイムも気づかないくらい慌てていたのならそれなりの痕跡があってしかるべきである。

 俺は無理に自分を納得させ、扉を閉めた。

 チェーンを掛け、扉のロックを下ろし、サンダルを脱いで振り向いた。
 明かりは点けたままのはずだが、目の前が真っ黒だった。
 ソコに何かがいる!!
 俺は即座に飛び退いた。が、背中は今閉めたばかりの扉に遮られている。それでも多少の距離ができたおかげで、そいつを見ることができた。俺の目の前を真っ黒にしたのは暗幕のような布であった。俗に言うところの『マント』である。なんでこんなところに『マント』があるか?それは俺の部屋に入ってきた男がまとっていたからである。
 男は日本人離れした体躯をしている。その容貌はさらに異様である。顔面に大きく突き出したカギ鼻は西洋の悪魔そのものだった。
 もちろん男は扉から入ってきたはずはない。窓もしっかり閉まっている。壁に穴の開いている様子もない。宙から湧いて出てきたようだ。
「こんばんわ」
 男が言った。俺にも理解できる。外人のくせに日本語には堪能なようだ。
「突然お邪魔いたします。」
「な、なんだようだ?」
 俺の頭の中では『何だお前は』と『何の用だ』がごっちゃになっていた。
「こちらにお邪魔したのは単なる偶然でありますが、取り合えずこちらで用を足さして頂きます。まあ、宝くじに当たったと思って下さい。べつに景品とかはありませんがね。では、寝室に案内していただけませんか?」
「な…」
「何をするつもりか。ですか?今は夜中です。寝るに決まっているでしょう?それからわたしは独りでは寝れないので一緒にお願いしますよ。」
「お、男と同じ布団にはいれるか!!」
「では…」と男は呪文のようなものを唱え始めた。
 男の呪文のせいか、俺はいつの間にか身動きが出来なくなっていた。男は呪文を唱えながら服を脱いで寝る準備を始めている。パンツ一丁で鼻唄でも歌っているように呪文をとなえながら布団の乱れを整している。
「さあ、出来ました。先程、景品はないと言いましたが、まあこれはオマケとでも思って下さい。宝くじに当たったか、野良犬に噛まれたかはあなたの感じ方ひとつですがねU」 男が布団の乱れを直し終わると同時に呪文も終わっていた。動けずにいる俺に近づくと俺の着ているパジャマを毟り取った。俺は下着を着ずにパジャマを付けている。上着が無くなると裸の胸が露となる。が、『胸』の替わりに豊かなバストが飛び出してきた。
「え?」
 呆気にとられている俺を余所に、今度はズボンの方を擦り下ろす。当然のごとく、俺の息子はどこかに消え失せてしまっていた。
「これで男同志ではなくなりましたよ。では、一緒に寝ましょね。」
 男は軽々と俺を抱き上げるとポンとベッドの上に放り投げた。
「キャッU」と俺は女のように悲鳴を上げていた。
 仰向けにベッドの上に転がされた俺の上に、奴が伸しかかってくる。
 掌が俺の首筋を優しく撫で上げる。
 その掌がしっかと俺の首を固定すると、俺は逃れようもなくなる。否応もなく、俺の唇は奴に奪われた。必死に逃れようとするが、奴は首を抑え込むだけで俺の抵抗を凌いでしまう。奴は残ったもう一方の掌で悠々と俺の身体を愛撫していった。
 とうとう、奴の愛撫が股間に達した。太股の付け根に沿って奴の指先が進入してくる。奴の指先の動きに刺激され、俺の肉体が不思議な反応を見せた。
 じわり、と肉体の奥から得体の知れないものが滲み出ていった。
「ほう、一人前に濡れているのか?」
 奴の言葉に俺の頬が紅潮する。俺の肉体はさらに俺の予想もしない反応をしていく。
 奴の指がさらに奥へと突き進んでゆく。
「アッU」
 喉の奥から艶めかしい吐息が飛びだしてきた。
 既に俺の首筋を抑えていた掌も愛撫に参加していた。
「あ〜〜んU」
 俺には抵抗する意思も、男に抱かれている嫌悪感も、不条理な奴の存在さえどうでも良くなっていた。
 奴の指が動く度に、俺は腰をくねらせている。奴が体位を変えると俺もまた両足を大きく広げていた。奴の股間には奴の息子が隆々とそそり勃っている。俺はなんのためらいもなく、それを迎え入れていた。
 強烈な快感が身体中を駆け抜けてゆく。
 始めて知る『女』の悦びに俺は打ちのめされた。
 俺は奴の胸にしがみついた。
 奴の腰が激しく動く。
 その度に快感が身体中を駆けめぐる。
「あんあんあんあんあんU」
 俺は雌犬になって吠え立てていた。
 俺はいつの間にか全てを奴に捧げる気になっていた。
 奴の存在なしに俺は在りえなかった。
 俺は肉体の中に奴の迸りを受けると同時に絶頂に達した。
 至福の悦楽に包まれたまま、俺は深い眠りに就いていた。



 ジリジリジリジリジリジリ!!
 目覚ましの音に俺はもそもそとベッドの中から這いだした。
 昨夜の事は何だったのだろう?
 部屋の中には俺一人。いつもの朝と変わりのない朝を迎えていた。
 しかし、俺は覚えている。
 奴の抱かれた至福の悦びを、奴の腕の温もりを、俺の肉体が受け入れた奴自身を。
 たしかに、下半身はまだ奴の残した疼きを感じている。
 奴の残した迸りが股間に滲み出ている?

 俺は慌ててパジャマを脱いだ。いつものようにパジャマの下には何も着けていない。
 ポンッと弾けるように豊かなバストが飛び出してきた。
 当然のごとく、俺の息子はどこかに消え失せている。
 その奥、股間からは白い粘液が滴っていた。
 そろそろと触れてみる。
 ねっとりと指先に粘液が絡みつく。その先には昨夜の疼きが残っている。
「アッU」
 アノ感覚が蘇ってくる。そこにはソレがあった。ソレはずるずると俺の指を喰え込んでいった。
 ゆっくりと指先を奥に進める。快感がそこを中心に身体中に広がってゆく。

 奴がシてくれたことを再現してみる。
「アアッU」
 快感が何倍にも膨れ上がっていく。
 ぐりぐりと指を動かす。残った掌で自分自身を愛撫してみる。
 ソコは敏感に反応する。
「あ〜〜んU」
 指が動く度に、俺は腰をくねらせる。両足を大きく広げ、奴の息子を想像する。
 彼と一体となった至福の快感が思い出される。
 一方の指で肉襞をかき分け、残りの指を2本,3本と追加する。
 あの快感を求めてさらに激しく刺激する。
「あんあんあんッ」
 しかし、思うようにボルテージが上がって行かない。
 絶頂を迎えるためには彼が必要なのだろうか?
 俺の肉体はすでにいつでも彼を迎えられる態勢にあった。が、いくら待ってもソレが現れることはない。
(欲しいのU欲しいのU欲しいのU)
 しかし、俺の想いは満たされない。刹那さがこみ上げ、俺の眼からぽろぽろと涙がこぼれ落ちてきた。

 この満たされない想いを解消するにはどうすれば良いか?
 奴はもういない。
 あとは、奴の代わりを探すしかない。
 そのためには部屋の中にいても始まらない。
 奴はご丁寧にも、女物の衣服を一式置いていってくれた。
 髪の毛も程よい長さに伸びている。
 スカートを穿き、鏡の前に立つと俺の姿はどこから見ても女の子だった。
 そのまま扉を開き、外に出る。
 と、向こうから男が一人歩いてきた。隣の部屋の加賀見明だ。奴は不思議そうに俺の方を見ている。扉の前に立った俺の前を通りすぎ、自分の部屋の前に立ち鍵を取り出す。
 ガチャリと音を立てて扉がひらく。
(!)
 俺の頭の中で蛍光灯のスイッチが入った。
 ガシャリ!俺は後ろ手に扉を閉めた。カチリと施錠する。
 くるりと振り向いた加賀見の瞳が見開かれていた。
 俺はゆうゆうとドアチェーンを降ろした。
 靴を脱ぎ、彼の脇をすり抜けて奥に入っていった。同じアパートなので造りは同じ。住んでいるのも独身男性ただ一人とくれば、部屋の中は俺の所と大差はない。
 ベッドの端に座り、俺は加賀見を見上げた。
「シてっU」
 俺が甘い声を掛けると、フラフラとやって来る。
 腰を浮かして彼の首に両手を掛け、全体重を使ってベッドの上に押し倒す。
 Tシャツをたくし上げると胸一面に剛毛が密生していた。
 ベルトを外し、ジーンズをトランクスと一緒にはぎ取った。
 既に彼の息子は勃ち上がっていた。
 俺はソイツに頬ずりし、舌で唾液を絡みつかせた。
 服を脱ぐのももどかしく、スカートを穿いたままその上に跨がった。
 ズッ!
 下半身に異物が挿入される。
(これ、これ、これッU)
 待ち望んでいた物がようやく手に入った。
 俺は悦びに腰を打ち振るっていた。



 気がつくと俺は加賀見の部屋のベッドに寝ていた。
 もそもそと腕を巡らすと、すぐ側に加賀見の体があった。掌を体の線に沿って這わしてゆく。両足の付け根でソレを探した。既に、俺は満たされていたが余韻を確かめるためにもソレに触れたかった。
 しかし、そこにあるはずのモノがなかった。
 そこは、俺の股間と同じようにしっとりとした肉の合わせ目があった。
 そこに指を這わせ、軽く圧してみる。
「あンU」
 隣で艶めかしい女の声がする。
「あきら?」
 俺は眠気を吹き飛ばし、布団を撥ね上げて起き上がると加賀見を見た。
 そこには若々しい女体が全裸で横たわっていた。
「どうした?ヨーコ」(俺は正体を隠すためヨーコと名乗っていた)
 その女は口調は加賀見そのままで答えた。
 そのまま彼女は首を傾げた。
 喉に掌を当てる。上げた腕は乳房に触れる。掌がゆっくりと下に降ろされる豊満な乳房を覆い隠す。
「???」
 彼女は声も立てられず唖然とした表情で凍りついていた。
「あきら、可愛いわよU」
 俺は優しく、彼女の手に掌を被せた。
 そのままゆっくりと乳房を揉んでゆく。耳元に息を吹きかけ、首筋に舌を這わせると乳首が硬く尖ってきた。そのまま彼女の手を下半身に導く。
 自分自身で秘所を認識させる。
 肉襞に指先が触れる。
 いつしか彼女は瞼を閉じ、甘い吐息を発していた。
 彼女の掌は快感を求め、自らの股間を彷徨う。しかし、彼女はまだ本当の快感を知ってはいない。今ここに俺自身の肉棒があれば、すぐにでも教えられるのだが、俺のモノは既に失われている。
 焦っていると、どこからともなく『奴』の呪文が聞こえてきた。
 俺の下半身が熱くなる。
 メリメリと音を立てて俺の股間から肉棒が伸びてきた。俺の股間に復活したソレに触れてみる。ビクリと脈打つ。懐かしさとともに、アノ快楽を失ってしまうのかと思うと寂しさがこみ上げてくる。
「?」
 股間は復活した。しかし、俺の胸にはまだ豊満な乳房が残っている。鏡に自分の姿を写してみる。俺は女の姿のままだった。しかし、股間には息子がその存在を主張している。さらにソレの裏側に掌を這わせると、女性自身も残っていた。
 ほっと安堵する。
 そして、俺は明に向き合った。彼女は激しく指先を動かし、いままで味わったことのない快楽に酔いしれている。
「けれど、そんなものでは済まないわよ。」
 俺は彼女の上に覆いかぶさった。
「これから、あなたを本当の『女』にしてあげるわ。」
 俺は蜜の溢れる肉洞に俺自身を押し込んでいった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜U」
 彼女の喉から甲高い嬌声が上がった。



 彼女は俺の上に跨がると衰えることを知らない俺の息子と戯れていた。口に含んだり、指先で弄ぶ。もっとも多くの時間を自分の胎内に挿入していた。そんな彼女をぼーと見ていると、自分自身の内で欲求が高まってくるのが分かった。
 自分もまたコレと戯れたいが、自分自身ではどうしようもないのである。
 不公平だ!!
 俺にも欲しい!!
「退いてっ!!」高まる欲求に、俺は上に乗っていたあきらを突き飛ばした。
 ポンッと音がして、急に股間が軽くなった。
 見ると股間から肉棒が失せていた。突き落とされたあきらはベッドの下に尻餅をついている。その開かれた太股の間に先程まで俺の股間にあったのと同じ肉棒が現れていた。
「頂戴っU」
 俺はベッドから飛び下りてあきらの股間にむしゃぶりついた。
「イヤッ!!」
 あきらが俺を突き放す。俺はしっかりと肉棒を掴んでいた。
 ポンッと再び音がする。
 俺の掌の中に双頭の張形のような肉棒が残った。
 そこにあきらがにじり寄ってくる。
 俺たちは肉棒の両端をそれぞれ口に含んだ。それは暖かさを失わず、びくびくと脈打っていた。
 無言で二人は頷いた。
 唇を肉棒から放し、ゆっくりと下に降ろす。互いににじり寄り、体を密着させる。肉棒の両端がお互いの胎内に滑り込んでゆく。抱き合い、さらに二人の肉体を密着させる。
 遠くで呪文を唱える声がした。
 肉棒は自ら蠕動を始めた。
「あ〜〜〜〜〜〜U」
 2人の『女』の嬌声が重なり合う…

−了−


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