幸せ~2



 白い指が俺の胸の上を彷徨っている。
 セシリアはそうやって情事の余韻に浸っているのだ。
 俺は頭の後ろで掌を組み、それを枕にうつらうつらしていた。
「ねえ。」セシリアの呼びかけに俺は狸寝入りを決め込んでいた。
「ねえ、こんな幸せな気持ちをあたしだけで独り占めして良いのかしら?」
 彼女は上体を起こし、俺の顔を覗き込んでいる。
「そうね、あたしがどんなに幸せか貴方には想像もつかないでしょうね。」
 人差指で俺の鼻の頭をぐりぐりと揺する。
「あ〜あ、貴方にあたしの幸せをみせてあげたいなぁ。でも、そんな事は出来る筈ないのにねぇ。」
 ふぅとセシリアは大きな溜息をついた。
「いや、私に任せて頂ければ可能ですよ。」
 唐突に男の声が割って入った。曲者?俺は傍らの剣の柄に手を伸ばし、いざとなれば曲者を叩き切ろうとした。が、曲者を叩き切るどころか、剣の柄に触れる事さえ出来ない。俺は身動き一つ出来ないでいた。
「ほんと?」
 セシリアは無邪気に男に声を掛けていた。
「はい、私の能力をもってすれば朝飯前のことでございます。しかし、悪魔を生業としております故、対価をお支払い頂く事となっております。」
 悪魔という単語に俺は戦慄を覚えたが、セシリアは何も感じていない。
「では、何を差し上げれば宜しいのでしょうか?あいにくと金貨の類は持ち合わせてございません。ああ、このサファイアの指輪と瑪瑙の腕輪で宜しいでしょうか?」
 セシリアは昨日、俺が贈った指輪を外そうとしていた。
「いえ、私どもへのお支払いは金品ではございません。」
 そう言ってセシリアを押し止める。
「私どもは、皆様のエナジーを頂ければ充分でございます。」
「して、そのエナジーとは何なのですか?」
「はい、それは貴女方の命の証でございます。中でも乙女の純潔が最高とされております。」
「困ったわ、あたしの純潔はこの方に捧げてしまっておりますもの…」
「ご心配要りません。純潔とはあくまでも精神的なものでございます。貴女様の純潔はこの方のものとなってございますが、この方の純潔であれば問題ございません。」
「どういう事ですの?」
「いずれ判ります。先ずは契約の方を宜しくお願いしたいのですが?」
 俺の事をまるで無視して話が進んで行く。しかし、指一本動かす事の出来ない俺にはどうする事も出来ない。
「判りました。」
 お前に何が判っているのか?怒鳴ろうにも声が出ない。
「ここにサインを…」
 悪魔が空中から得体の知れない文字の書かれた羊皮紙を取り出す。
「ここには血判の代わりに接吻して頂きます。」
 セシリアは躊躇いなく羊皮紙に口づける。
「これにて契約が成立致しました。それでは直ちに履行させて頂きます。」
 そう言って悪魔は俺の前に立ち、姿勢を正した。

 悪魔が俺の前で呪文を唱え始めた。と、同時に俺の身体のあちこちの筋肉がもぞもぞと勝手に動き始めた。不自然な運動に全身が痛みを訴える。しかし、筋肉ばかりか骨までミシミシと音を立て始めると痛みを訴える余裕もなくなっていた。
 俺の肉体が形を変えている。手足はそれと判るが、ほとんど形がなくなっている。それが再び形を持ち始めた。それは本来の俺の浅黒く筋肉質の四肢とは全く正反対に生白く華奢なものになっていった。胴体もまた形を変えている。分厚い胸板も引き締まったウエストも跡形もなくなっていた。
 悪魔の呪文が終わると身体中の痛みは嘘のように消えていた。心なしか皮膚の触覚が敏感になっているようだ。視覚・聴覚も多少改善されているようだ。総じていえば10歳程若返ったみたいだ。
 身体の呪縛も解かれていた。セシリアを見る。彼女の顔は驚きの表情で満たされている。俺はゆっくりと起き上がった。身体のバランスが取り辛い。鏡の前に立ち肉体の変化を確認した。

 鏡にはセシリアが写っていた。振り返ると壁際に彼女は居た。先程から一歩も動いていない。そこは鏡の死角である。だから、鏡に写っているのは彼女ではない。
 もう一度鏡を覗く。俺の姿の代わりにセシリアが写っている。俺の肉体はセシリアと瓜二つとなっていた。顔に掌を当てる。細い指先が頬に触れる。ゆっくりと手を降ろす。掌が首筋を伝う。指先にブロンドの長い髪が絡まる。やがて掌は胸元に達する。豊かなバストの先端に硬い蕾。指先でそっと摘んでみるとピクリと反応する。腕を交差させ掌を脇腹に這わせると、腕の中でバストが形を変えてゆく。
「そろそろ良いかな?」
 振り向くとそこに悪魔がいた。
「よろしければ、お支払いを頂きたいのですが?」
 一瞬、俺には何のことか判らないでいた。
(エナジーを頂ければ充分で…それは乙女の純潔が…)
 悪魔はそう言っていた。そして、その「乙女の純潔」は俺から貰うとも言っていた。その時は何の事だか判らなかったが、今は理解できる。
 俺は今、女になっている。もちろん男など知っている筈もない。奴が俺の純潔を奪うと言っても何も問題はない。
 俺が奴に犯される?!
 俺が男とSEXする!!その認識に至り、全身に鳥肌が立った。全裸となった悪魔野郎が股間のシンボルを誇示している。
 奴の瞳が光った。そして、俺は再び身体の自由を失った。奴に腕を掴まれベッドに引き戻される。仰向けに寝かされる。両脚が広げられると股間の花弁があらわとなる。そこに奴が息を吹き掛ける。ビクリと全身を得体の知れない感覚が走り抜けてゆく。奴の舌が花核に触れる。花びらの一枚一枚を舌先でなぞってゆく。俺は何もすることが出来ず、男に嬲られる屈辱に耐えていた。
 しかし、心と肉体は別物であった。奴の与える刺激は着実に俺の「オンナ」を目覚めさせていった。胎内で子宮が脈打っている。膣壁からじわりと女蜜が滲み出てくる。頬が上気し、胸の中の高なりが媚声となって喉から漏れて行く。その女の甘い吐息を聞いて、俺の中の「男」が興奮していた。
「初めての割りには感じているね?」
 奴が耳元で囁く。
「そろそろ男が欲しくなって来たんじゃないのか?」
 俺は首を振る事もできないでいた。
「欲しいんだろう?心配しないでも犯ってやるさ。だが、メインディッシュはもう少し先だ。その前にオードブルだ。」
 奴のシンボルが俺の目の前に突き出された。
「判るか?これを口の中に入れるんだ。」
 頭の中では拒んでいても、身体は素直に奴の言うなりに動いてゆく。
 起き上がり、入れ代わりにベットに寝た奴の股間に顔を埋める。舌先で先端を嘗め廻す。口を開き、押し込む。喉が詰まる。歯を立てないように唇で刺激を与える。片手で垂れてくる髪を抑え、もう一方の手で会陰部を撫であげる。指先で玉を転がす。セシリアがいつも俺にしている事と全く同じ事を俺自身がやっている。
「上手いじゃないか。」
 奴に褒められても嬉しくない。が、身体は別の反応をする。奴の身体の上に跨がり、その胸に濡れた陰部を密着させる。腰を振り、愛液を擦り付ける。奴もまた腰を上下し、息を荒らげる。
「うっ!」とうめき声を上げ、奴は俺の口の中に精液を吐き出した。俺の身体はごくりと旨そうにそれを飲み込んだ。さらに、先端に残った白いものを綺麗に嘗め取っている。
「では、ご褒美をやろう。今日のメインディッシュだぞ。」
 俺は床の上に四つん這いにされた。こんな体位はセシリアにもさせた事がない。が、俺の身体は奴に言われるより先に腰を高く上げ、奴の男根を迎えにいっていた。奴の掌が俺の腰を掴む。肉棒で俺の股間を撫で廻す。そして、狙いを定めると一気に押し入ってきた。
「ああんっU」
 痛みもあったが、それ以上の悦感が全身を駆け抜けてゆく。男には絶対に知る事のできない快感だった。俺がセシリアに与えていたのは、まさにこの感覚なのだ。女にされた屈辱感も、男に抱かれている不快感も全てが吹き飛んでしまっていた。俺は心の奥底から咆哮した。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜U」


 セシリアは言っていた。
「こんな幸せな気持ちをあたしだけで独り占めして良いのかしら?」
「あたしがどんなに幸せか貴方には想像もつかないでしょうね。」
「貴方にあたしの幸せをみせてあげたいなぁ。」
 今なら俺にも判る。この幸せな気持ちは男のままでは絶対に知る事は出来なかっただろう。
「ご満足頂けましたか?これにて契約は完了。お支払いも済ませて戴きました。それでは、これにて失礼させて戴きます。ああ、それからこれは私からのサービスです。」
 奴は簡単な呪文を唱えた後、ふっと跡形もなく消えてしまった。

 俺はセシリアを見た。壁に寄り掛かり、満足げにうっとりしている。俺達の性交に刺激され自らを慰めていたのだろう。彼女の手が股間に挟まっている。
 その手の陰に見慣れないものがあった。
 いや、見慣れたというべきか?確かにそれは男性のシンボルであった。彼女にペニスがあるということは、今度はセシリアに犯ってもらえる。そう思うとうきうきしてきた。ジュンと股間が濡れてくる。俺はセシリアの姿のままセシリアに愛されるのだ。
 俺はセシリアに近づいていった。が、そのとき太股に何かぶつかった。もしやと思い自分に目を向けると、俺の股間にも肉棒がぶら下がっていた。
 あわてて自分の肉体を確認する。が、俺の姿はまだセシリアのままであった。ペニスだけが復活しているらしい。股間に女陰が残っているのを確認し、俺はほっと胸を撫で下ろした。
 俺はセシリアの前に腹這いとなった。彼女の手を退ける。彼女の股間の肉棒を口に含む。唇で刺激を与えながら吸い込む。舌先で先端を嘗め廻す。それはムクムクと大きく硬くなる。
「シテU」
 俺はセシリアに言った。
 セシリアは起き上がり、男のように俺を組み敷く。俺も淫婦のように股間を広げセシリアを迎え入れる。セシリアは優しく俺の内に入ってきた。
 俺の内に彼女の男性自身を感じる。
 俺のモノも硬くなっていった。
 そして絶頂を迎えた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜U」
 二人の媚声がハーモニーを奏でる。
 俺たちは同時に男と女の悦感に満たされた。

「幸せU」
 俺・セシリアがつぶやいた…

−了−


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