状況転換機



 僕の瞳に写るもの。それは、瑞々しい乙女の裸体。
 彼女もまた僕を見つめている。
 しかし、本当に彼女が観ているのは僕ではない。彼女は目の前に居る彼女自身を見つめているのだ。

 僕は自分の姿を鏡に写してみた。それは、昨日までの僕ではなかった。何故かは判らない。朝、目が覚めると僕は女になっていた。パジャマの上からでもはっきりと判る胸の膨らみ。股間に掌を当ててみてはっきりした。僕はパジャマを脱ぎ裸で鏡の前に立った。
 そこに、昨日までの見慣れた僕の顔はなかった。見知らぬ女の顔が写っている。しかし、彼女は僕自身である。
 どうすれば良い?
 自問する。
 笑ってみる。
 鏡の中の女性も笑う。
 可愛い。
 そう思った。
 しかし、それだけの事である。何の解決にもならない。別の事を考えよう。
 まず、いつまでも裸のままではいられない。とりあえず服を着よう。しかし、この新しい身体に合う女物の服など僕は持っていない。とは言っても、僕自身、スカートなどを履くにはやはり抵抗がある。けど、この綺麗な身体に野暮ったい男服など着せられない。などと変な心配をしている自分が可笑しかった。
 まあ、いつまでも裸のままではいられない事に変わりはない。洋服ダンスに行き、下着の入っている引き出しを開けた。
 本来ならばランニングシャツとトランクスが詰まっているはずであった。が、そこに、ブラジャーなどの女物の下着がぎっしりと詰まっていた。本来の僕自身の男物の下着類は跡形も無くなっていた。
 まさか?と思い、洋服ダンスを開け放つ。
 背広やジャンパーの掛かっていた所には色とりどりのスカートやワンピースが下がっていた。引き出しには靴下の代わりにストッキングが、Tシャツの代わりにシミーズやレオタードが詰まっていた。
 洋服ダンスの前を離れる。枕の脇に放り出していたビジュアル系青年誌がファッション雑誌に、床の上のアダルトビデオがロマンス系のビデオに、壁に貼ったポスターが美少女アイドル系からジャニーズ系の青年アイドルに変わっていた。洗面台にたどり着く。歯ブラシとコップに変化はなかった。が、シェービングクリームとシェイバーがなくなっており、そこには女性の使う化粧品であふれかえっていた。
 僕の腕が伸び、口紅を手に取っていた。キャップを外し棒を捻ると、先端に紅い芯が伸びてくる。僕は鏡を見ながらそれを唇に塗り付けていた。綺麗Uうっとりと鏡を見つめている。

 電話が鳴っていた。ぼーっとしていると留守録に切り替わる。いつもなら自分の吹き込んだメッセージが流れるのだが、今は女の声が電話機から流れていた。
「は〜い、須藤で〜す。ごめ〜んU今でられないの。だから、メッセージは留守電に、入・れ・と・い・て・ねッU。」
 ピ〜〜〜ッと音がする。続いて男の声が入る。
「どうだ?涼次。この分だと状況転換機は旨く働いているようだな?じゃあ、これから様子を見に行くから待っていてくれ。」
 電話の主は大木寿人だ。
 ようやく思い出した。昨日、塞ぎ込んでいた僕の所に学生時代の友人の大木寿人が尋ねてきたのだった。彼はマッドサイエンティストと呼ばれているが、例に漏れず不可思議な機械を抱えて来ていた。
 それが[状況転換機]であった。彼の説明によると、この機械には周囲の状況を全く異なったものにする働きがあり、行き詰まった状況を打開するための最終兵器だそうだ。
 昨日の僕の状態は、行き詰まりそのものであった。それを、どこからか嗅ぎつけたのか、ニタニタ顔を引っ提げて大木寿人という男がやって来たのだった。どうにもやり場のない状況の僕は彼の話にずるずると引きずり込まれていった。気がつくと部屋の中に状況転換機が残されていたのだった。
 その大木寿人がこれからやってくるという。

 ピンポ〜ン!!
 ドアのチャイムが鳴った。
「よお、涼次。俺だ。」扉の向こうから大木の声がした。
 鍵を開けようとして、ハッとした。僕はまだ裸のままだった。
「ちょっと待ってて。」扉の向こうに声を掛け、洋服ダンスの前に立った。引き出しを開け、ブラジャーとショーツを手に取る。やはり、コレを着なければならないのだろうか?
 諦め切れずにいると、カチャリと音がした。見ると部屋の中央で大木が状況転換機を手にこちらを見ていた。いつの間に入ったのだろう。カチャリという音はどうやら状況転換機のスイッチを切った音のようだ。
「中々立派な身体になったな。」彼の言葉に反射的に身体が動いていた。
「キャッ!!」僕は手に持ったブラジャーとショーツを胸に当て、その場に屈み込んでいた。恥ずかしさで顔が真っ赤になっていた。
「見ないでっ!!」僕は甲高い声で叫んでいた。
「何を見たらいけないんだい?」ゆっくりと大木が喋る。その声に僕は落ち着きを取り戻していった。そう、何を見られたくなかったのだろう?自問してみる。僕は女のように胸を隠している。僕は男に裸を見られた女のように踞っていた。
「着替えるからむこうを向いていてくれないか?」声を上擦らせながら、ようやくそれだけ言って立ち上がった。意志の力を振り絞り、手を胸から下ろして股間だけを隠した。
「そのままで良いよ。この機械の成果を確認したいんだ。もちろん君の身体の変化も調べたい。心配するな、俺は医者だ。そのままベットに横になりなさい。頭をこちらに向けて…」
 催眠術に掛かったように僕は裸のままベットに横になっていた。
 大木が近づいてくる。
 彼の顔が間近に迫る。
「結構、状況の変化に順応しているね。部屋の状況も良いみたいだ。」と、枕元のファッション誌を手にして言った。
「何より、その口紅だ。良く似合っている。可愛いよ。」彼の言葉に僕は浮かれていた。
「さあ、身体を見せてくれ。」僕は彼の前でゆったりとした気持ちになっていた。

 彼の指先が胸の谷間をなぞって行く。彼に触れられた所からじわじわと熱が広がって行く。ゆっくりと水月の上を通過する。臍の穴の上を通過して下腹部の繁みに達する。熱が股間に集まってくる。汗で太股の内側が濡れている。
「可愛い娘だ。もう、こんなに濡れているね。」そうだ、僕の股間を濡らしているのは汗だけだはない。股間の奥から女性特有の体液が湧き出ている。
「あうっU」官能的な声が喉を衝く。彼の指がオンナの敏感な所に接触した。
「感じてるね?」彼の指技に翻弄される。
「あんあんあんあんU」何も考えられない。
「あ〜〜んU」「もっとU」「頂戴U」僕の喉からオンナの淫らな声が紡ぎ出されて行く。
 僕は自ら彼の唇を貪り、彼の厚い胸に乳房を擦り付けていた。
 彼が欲しい!!
 僕の内ではその想いで塗り尽くされていた。
「来てU」僕は大胆に股を開き、彼を待っていた。
「亮次?!」彼は戸惑っていた。何を戸惑っているの?オンナをこんなに熱くさせておいて、そのままで済むと思っているの?
 アタシは寿人に抱きついた。その勢いにバランスを崩し、床の上に倒れ込んだ。アタシはその上に跨がり、股間に彼のペニスを挟み込んだ。
「良いのか?」寿人が心配そうに声を掛ける。
 アタシは構わず、腰を降ろす。塊が胎内に入って来る。膣の中にそれを感じる。肉壁が彼のペニスを咬え込む。アタシの内に彼が居る。
「あんっU」彼がアタシの中で再び硬さを増してゆく。それに応えてアタシも腰を動かす。彼と呼吸を合わせて頂に向かって昇って行く。彼の胸に掌を置き、上下に腰を動かす。アタシの下で彼も腰を突き上げる。ピチャピチャと愛液が弾け飛ぶ。粘膜が擦れ合う。
 やがて、彼の動きがぎこちなくなる。息が乱れる。
 彼の身体が硬直する。
 ビクッン!!四肢が痙攣し、精液が放出された。
「あ〜〜〜〜〜〜〜U」アタシは叫んでいた。
 アタシの中が精液に満たされる。彼のペニスから熱い塊となって、次々と精液が放出される。アタシの股間にも精液が溢れ出てくる。愛液と精液が混ざり合う。
 アタシは満足して彼の上に身体を横たえた。

 彼の胸の上にアタシの頭がある。
 彼の掌が優しく包み込む。
 彼の心臓の鼓動がきこえる。
「シアワセU」独り言のようにアタシは呟いていた。
「ふ〜〜む。とりあえず状況転換機は成功したようだな。」
「なに、それ?」訳が判らずにアタシは聞いた。
「これだよ。」アタシを抱いたもう一方の手に得体の知れない機械があった。
「これで君の廻りの状況が過去から切り離されたんだ。状況計数をポイント7だけ変移させたことで君はこれまでとは全く別の人生を得る事が出来たんだ。昨日、君に相談を持ちかけられた時これしかないと思った。いつも通り、俺の直感は正しい事が証明された。君は言っていたね、付き合っていた娘に振られ、仕事も失敗の連続。こんな不幸が重なっていては生きている希望もないと。だから、現在の状況を好転させるためにはどうすれば良いかと。そこで俺の直感が働いた。この状況転換機が…」
 彼の口が饒舌になるにつれ、アタシの中にストレスが溜まって来た。
「アタシにはそんな難しい事判んないわ。」
 アタシは唇で彼の口を塞いだ。
 アタシは幸せでいたいだけ。
 だから彼の耳元で囁くの。
「シテッU」

−了−


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