偽物



「何、これ?」
 俺の男性自身を弄んでいたリエが言った。
「何の事だ?」
「ここ。」と、リエが俺の股間に指を立てる。そこは玉袋の付け根だった。
「何か変か?」
「うん。穴が開いているみたい。」リエは身体の位置を変え、俺の股間を覗き込んだ。俺の股を開かせ、その間で両手の指で皮膚の皺を伸ばすようにしてその正体を突き止めようとしている。
 俺はこそばゆさを我慢して、彼女の好きにさせていた。
 そのこそばゆさも、指先の触れる箇所によっては傷口に触れた時の痛覚に代わる時がある。俺はその痛みも平然と噛み殺していた。
「へぇ〜、女の子みたい。これ、クリトリスと同じよ。」
 彼女が触れた所から痛みが発せられる。
「こうやると、濡れてくるのよ。すごい!!どんどん出てくる。あたしより感度がいいんじゃない?ねぇ、これ入れてみてもいい?」
 俺は既に痛みを堪えるのに必死だった。
 股間に硬いものが押し当てられて初めて理解した。リエが手にしたのは、さっきまで俺が彼女を弄ぶのに使っていたバイブだ。今度は彼女がそれを俺の股間に押し当てている。
「我慢しちゃ駄目よ。力を抜いて。」
 リエが俺の腹を拳で叩く。
「息を吐いて。我慢せずに声に出しちゃいなさい。」
 再度腹を叩かれ、俺は息を吐いた。そのとき、喉を通る空気が声帯を震わした。
「あぁ」
 俺が声をあげると、同時にバイブが侵入してくる。
 俺の喉は堰を切ったように震え続ける。
「あ〜〜〜あ〜〜〜あ〜〜〜」
 俺の胎内でバイブが動き出していた。
 俺はベッドの上で女のように悶えていた。



 それをきっかけに俺の身体の女性化が進んでいった。髭や脛毛が抜け落ち、柔らかな産毛に被われる。肌もしっとりとして、色も白っぽくなっている。筋肉が落ち、皮下脂肪に変わる。肉の付く場所も変わり、女性特有の体型に近づいていった。特に胸は日毎に脹らみを増していき、もう一週間もすれば隠しようもなくなってしまう。
 リエがプレゼントと言って、俺にブラジャーとショーツを買ってきた。
 ブラジャーといえばリエのを外したことはあった。が、これを自分の胸に着けることになろうとは思ってもいなかった。カップに膨らんだ肉の塊を納めると、なんだか気が引き締まるような感じがする。男なら褌を締め直すとでもいうところだろうか?
 ブラジャーで不快感は無くなったものの、代わりに別の問題が発生した。ブラジャーはバストを固定すると同時にそれを強調する働きもある。本物の女性であれば、自分の胸が見栄え良くなると喜ぶ所であるが、男の胸が膨らんでもグロテスクなだけである。これまで懸命に隠してきたものが白日の元に晒されてしまう。
「隠さなくていいんじゃないの?」
 リエはそう言って別の袋を広げた。
「これを着てみて。」
 手渡されたのは女物の服…ワンピースだった。リエに強引に着させられ、どこからか取り出したブラシで髪を梳かれ、顔に軽く化粧が施された。
「見てご覧なさい。」
 クローゼットの姿見に写る俺の姿はとても男には見えなかった。
「ねっ、この方がいいでしょう?」


 俺はリエに引きずられるようにして、女装のまま街にでた。
 服や下着、靴や装飾品、そして化粧品と生理用品まで女性の必需品一式を買い集めてきた。二人とも両手に荷物を抱え俺の部屋に戻ると、一瞬にして俺は着せ替え人形と化していた。
 鏡の中で次々と変わってゆく自分を見ていると、次第に嫌悪感が消えてゆき、いつの間にかリエのコーディネイトに口を挟んでいる自分がいた。
「そのスカートならこのスカーフがいいんじゃない?」
「そんなのダサイわ。このくらい派手な方が引き立つのよ。」
「じゃあ、イアリングはこれね。」
「そうそう。これで淡色系の口紅をつければばっちりよ。」
 自然に女言葉がでていた。俺の声帯も女性化していた。女言葉が違和感なく俺の喉から紡ぎだされてゆく。俺の部屋の中で二人の女の子が周りに服を広げてお喋りに熱中している。
 その会話が不意に止まった。
「ダーリンU」
 リエが半裸のアタシにのしかかってきた。
 ブラジャーの中からアタシのバストを掘り返す。
 乳首に吸いつくとそのままアタシを押し倒した。
「あっU」
 アタシは軽く吐息を漏らす。
 彼女の唇が乳首を離れ、舌先を胸から喉、首筋を這わせてアタシの唇を塞ぐ。いつの間にかブラジャーが外され、リエの両手の指先がアタシの乳房を弄んでいる。
 一瞬、買ってきた服が皺になる。と思ったが、心配には及ばなかった。アタシの身体はいつの間にかベッドの上に横たわっており、アタシも彼女も全裸で絡み合っていた。
 心配ごとが無くなったと知るとアタシの意識は官能の渦に呑み込まれていった。


 全ての主導権はリエが握っていた。
 アタシはリエに嬲られている。アタシは受け身のまま、彼女から与えられる悦楽を享受する。女の肉体がこんなにも快感に敏感であるとはアタシには思いもよらなかった。
 快感に反応してアタシの中の俺がムクムクと息を吹き返してきた。
「あんUあんU」
 クリトリスを刺激されると俺の喉は俺の意思とは関係なく甘い吐息を吐き出してゆく。その媚声に俺の男性自身が刺激される。快感が身体の中を巡ると同時に下半身に力が注がれる。
 そして、俺の男性自身が蘇った。
 俺は一瞬にして主導権を奪い返した。
 身体を入れ換え、リエの上に跨がる。リエの股間が充分濡れているのを確認し、勃起した俺のモノを一気に突き立てた。
「ア〜〜〜〜〜〜〜ッU」
 今度はリエの媚声が響きわたる。
 邪魔になると思っていたバストがリエのモノと擦れ合い、不思議な快感を生み出す。リエの掌が俺の背中から腰へと滑り降りて行く。俺の尻を抱えるようにして更に手を伸ばすと指先が俺の花芯に到達する。
「あ〜〜〜〜〜〜〜っU」
 今度は俺の媚声が響く。
 俺の濡れた股間にリエの指が潜り込んでくる。
「あんあんあんU」
 再び主導権をリエに奪われまいと、俺は腰の動きを激しくした。
 が、慣れないオンナの快感に俺は屈伏してしまった。
 アタシは男性自身をリエの股間に埋めたまま、リエの手技に酔っていた。リエ指がアタシの股間を動く度にアタシは媚声を上げ続ける。
 精液をリエの中に放出してもなお、アタシの快感は昇り続けてゆく。
「いく。いく。いく。」
 アタシはリエの腕の中で絶頂を迎えた。



 アタシとリエの関係はなんなんだろう?
 表面的には女友達。
 一方では男と女。リエが望む時はアタシは男になってリエを愛撫する。
 けれど、アタシはまだオトコを知らない。互いに愛撫しあっても、所詮女同士。いくら器具を使ってもリエは本物のオトコにはなれない。
 だからアタシ達は女友達なのだろう。
 じゃあ、アタシもボーイフレンドを持っても良いのかしら?
 アタシだってオトコが欲しいもの。器具を使った偽物じゃなく、本物のオトコに貫かれてみたい。オトコの太い腕に抱かれてみたい。
 アタシの願望は日を追う毎に膨らんでいった。
 ある日、意を決してアタシはリエに言ってみた。
「ばっかみたい。あんたを抱いてくれる男なんているもんですか?いくら外見が美人っだからって言って、股間にプラプラ下げていちゃ、どんな男だった逃げ出すわよ。あんたにはあたししかいないんだから覚えておきなさい。」
 そうリエに言い切られてしまった。
 アタシってなんなんだろう?
 別の問題に頭を抱えながらアタシはリエと一緒に街を歩いていた。
「お姉さん達ッU暇ならお茶しない?」
 いかにも軽そうな若者が二人、アタシ達の前に現れた。
 ナンパ?アタシはリエを窺ったが、リエは何も聞こえなかったかのように前を向いたまま歩いて行く。男達はすぐにリエさえ落とせば良いと、後ろ向きに歩きながら盛んにリエの気を惹こうと喋り続けていた。
 信号が変わり、ようやく立ち止まったリエがアタシの方を見た。
「好奇心まるだしね。」
 次に男達に向かった。
「お茶だけならあたしは良いわよ。」
 そしてアタシに耳打ちする。
「どうなっても知らないからね。」


 アタシはホテルのベッドにいた。
 アタマがズキズキする。リエと別れてアタシ一人で彼らと食事に行ったのは覚えている。ステーキを食べながら、ワインを何杯か飲んでいた。そこから先の記憶がない。
 かすかに彼らの怒声を聞いたように思う。
「詐欺だよ。詐欺!!」
 アタシの服は毟り取られ、辺りに散らばっていた。
 だんだんと記憶が蘇ってくる。
 アタシは何も知らない小娘のように、彼らに連れられてホテルに入っていった。ふらつく身体を両脇から支えられるように部屋の中に引き込まれる。
 それはアタシも期待していた事。
「酔い醒ましに休憩して行こう。」
 そのホテルが何のためのものかなんて充分承知しているわ。
 服の上から彼等の掌がアタシのバストを弄ぶ。
 ブラウスのボタンをもどかしげに外し、スカートを引きずり降ろす。
 シミーズをたくし上げ、ブラジャーのカップから肉塊を剥き出し、乳首に貪り付く。舌先で乳首の先端を嬲られると、ようやくアタシもソノ気になってくる。
「ああんU」
 甘い吐息が口を衝く。
 首に絡まっていたシミーズが抜き取られ、ブラジャーのホックが外される。
 上半身が自由になると、アタシは自然と男達の愛撫に身悶えていた。
 いつの間にか男達も全裸となっていた。
 目の前にグロテスクな男性自身があった。
 作り物ではない。本物のペニスだ。
 男がそれをアタシの口の中に押し込む。
(これが本物なのねU)
 アタシはそれを口に含み、精液を絞り出すように吸い込んだ。
 もう一人がアタシのもう一つの口に挑もうと、乳房から手を離した。
 四つん這いになったアタシの股間を撫で上げる。
「ああんあんU」
 一時ペニスから口が離れ、よがり声を上げている。
 そこはもう、熱く濡れていた。
 男の指がパンストの間に潜り込む。
 ショーツと一緒に引きずり降ろす。
 その時、抑えていたモノがピョコリと飛び出した。
 弾みで彼の指にぶつかる。
「?」
 一瞬の戸惑いの後、
「うげっ!!こいつ男だ。」
 声と同時にアタシの身体が転がされる。
 男達の目にアタシの男性自身が晒された。
「詐欺だよ。詐欺!!」
「俺達、オカマとヤろうとしてたのかよ。」
「俺なんか、大事なものをしゃぶられちゃったぜ。」
 男達は怒声を上げながら、さっさと服を着るとそくさくと部屋を出ていってしまった。
 後には重たいアタマを抱えたアタシ一人だけ…



 アタシのオンナとしての初体験は失敗に終わった。
「だから、あんたにはあたししかいないって言ったでしょう。」
 リエは笑って言った。
 彼女の腰にベルトが巻かれる。股間に偽物の男性自身がそそり勃つ。
 その偽物にアタシは貫かれ、悶える。
 結局、これがアタシなんだ。
 アタシは悦びに媚声を上げていた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜U」

−了−


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