王子とお姫様



 目の前に全裸の女性が横たわっている。
 僕は彼女を直視出来ず、慌てて掌を両目に当てた。

 闇の中を彷徨い歩いた末に、ようやく薄明かりの漏れる扉に当たった。そっと扉を開け、中を窺う。誰もいないようなので、扉の隙間を音を発てないように気をつけながらもう少し広げると、するりと部屋の中に滑り込む。
 薄明るい室内は闇に慣れた目には丁度良い明るさである。部屋の中には更に奥に通じる扉があった。入ってきた扉をきっちりと閉めたことで、幾分か余裕が出てきた。それと同時に好奇心も芽を噴き出す。奥に通じる扉に手を掛け、ゆっくりと押し開けた。
 その部屋は前の部屋より明るかった。窓はなく、壁や天井自体が光を放っている。何もない部屋の中央にベッドが置かれていた。その上にはヒトが横たえられていた。僕の目の前に、全裸の女性が眠っていた。

 彼女は静かに横たわっていた。僕が近づいても微動だにしない。
「もしもし?」
 声を掛けたが一切の反応がない。
 僕は目の前に翳した掌を降ろし、彼女を見た。
 死人のよう。皮膚は血が失せたように白く全く生気が感じられない。
 僕は恐る恐る近づき観察した。
 彼女は生きていた。
 が、息はしているが普通の呼吸と較べると遙かに小さく、間隔も長い。
 鼻から息が出入りするだけで、胸の上下も感じられない。
 そろそろと伸ばした掌を彼女の胸に置く。ひんやりと冷たい。
 なにより、心臓の鼓動が感じられないのだ。

 美しい女性が死んだように眠っている。こんなシチュエーションは幼い頃読んだ童話の中にはいくらでもあった。が、今現実を目の前にして僕はどうすれば良いのか?
 僕はなんの躊躇いもなく、童話の王子達がしたように彼女の唇に接吻していた。
 童話では眠っていたお姫様は王子のキスで目を覚まし、二人は結ばれ、ハッピーエンドとなる。が、僕の物語はここから始まった。

 彼女に口づけした途端、ビリッと全身を電気が走り抜けていったような感じがした。ショックで一瞬、身体が硬直した。彼女から離れようとしたが身動きがとれない。
 目の前に彼女の首筋が見える。どことなく生気を取り戻したようだ。彼女の胸が上下に動き出す。腕が動き、僕の身体を抱き締める。
 そして、彼女の舌が合わされた唇の間から侵入してきた。
 舌先で口蓋の中を一巡すると、僕の生気を吸い取るかのように吸いついてきた。
「起こしてくれてアリガトウ。」
 美しいが妖艶な声が聞こえた。
 彼女はするりと僕の下から抜け出していった。ベッドを降り、僕の後ろに廻っていったようだ。
 僕は硬直したまま、ベッドに手を付いている。
「もう少し生気をくれたらご褒美をあげるわね。」
 マネキン人形から服を脱がすようにして彼女は僕を裸にしてしまった。僕は指一本、視線さえ動かせずに黙って成り行きに任せていた。
 彼女のバストが背中に密着する。後ろから抱えるように、僕の股間に手を伸ばす。僕の意思とは別に、そこは激しく憤り勃っていた。彼女の掌がそれを包み込み、動かし始める。
 あっと言う間に僕は達していた。
「あら、もったいないわね。」
 そういって彼女は掌にかかった僕の精液を舐め取っていた。
「では、本格的に行くわね。」
 彼女は僕とベッドの間に座り込むと、ペニスを口の中に押し込んだ。
 舌全体で亀頭を嫐られる。さっきよりも強烈な快感が全身を駆けめぐる。再び精液が放出される。
 彼女はそれを余すところなく呑み込んでゆく。
 さらに、ペニスを吸われると尽きる事のない快感と伴に次から次へと精液が迸る。ついには搾り取るように僕の体内から精液を吸い取ってゆく。それは睾丸まで吸い取られるような勢いだった。
 最後の最後まで絞り取った後、
「じゃあ、今度はご褒美をあげるわね。」
 彼女の声と同時に呪縛が解かれ、僕は身体の自由を取り戻した。
 が、生気を抜き取られ、どこにも力が入らないので僕はその場にへたり込んでしまった。
 するすると彼女の腕が伸び、僕を抱え上げるた。優しくベッドの上に寝かせる。自由を取り戻した瞳が彼女を捉える。彼女の瞳は生気にみなぎっていた。そこには想像も出来ないパワーが秘められている。それはぐったりとした僕の身体を軽々とベッドの上に運んだ事でも判ると思う。
 しかし、彼女の変化はそれだけではなかった。
 視線を動かしてゆく。彼女の裸体を舐めるように見つめる。張りつめたバスト、引き締まった腹部、そして張り出した腰のライン…。彼女の下半身が目に入ると同時に、その股間にはあるはずのないものが見えた。
 それは彼女の股間から生えている。付け根の皮膚には継ぎ目などない。まがいものではない。それは生気にみなぎって、ビクビクと脈打っている。
「さあ、ご褒美よ。」
 彼女が僕の上にのしかかってくる。
 僕は女のコじゃないし、ホモでもない。そんなものをご褒美としてもらっても嬉しくもなんともない。
 しかし、僕にはそれを拒絶する自由は与えられていなかった。
 身体に力の入らない僕は彼女にされるがまま、抱えられた脚が広げられ、開かれた股間に彼女を迎え入れる。
(痛ッ!!)
 激痛が走る。
 それは肛門ではなく、ペニスの付け根の裏側に発していた。
「力を抜きなさい。すぐに気持ちよくなるわよ。」
 彼女の下腹部が僕の股間に密着する。彼女の股間のものはすっぽりと僕の股間に埋没している。彼女のペニスが僕の腹の中でドクドクと脈打っていた。
 しばらくそのままじっとしていると、その状態に慣れたのか痛みが薄れてゆく。痛さが無視できるようになると、余分な力が抜けてゆく。
「そう。リラックスして。」
 そして、ゆっくりと二人の下腹部が密着してゆく。
 陰毛が擦れ合う。
 彼女は僕の背に腕を廻しギュッと抱き締めた。
 僕の胸の上で彼女のバストが形を変える。
 レズビアンのSEXのように二人の下半身がピタリと密着する。

(僕のペニスは何処へいったんだ?)

 僕の腹の中で彼女のペニスが蠕動する。
「ああんっU」
 女のコみたいな吐息が僕の口からこぼれ落ちる。
 彼女は抱き締めた腕を外し、僕の胸の上に乗せた。
 掌が胸を掴む。指先が乳首を摘む。
「あふっU」
 声が漏れると同時に股間にじわっと溢れ出るものがあった。
「感じたのね?我慢することないのよ。快感の渦に呑み込まれちゃいなさいUそうすれば女のコはもっと感じる事ができるのよ。」
(女のコ?)
「違う。僕は男だ。」
「そうなの?」
 彼女は淫蕩に微笑む。ふうっと耳元に息を吹き掛ける。彼女の指が巧みに性感帯を刺激し、僕を翻弄する。
「んあんU」
「そんなに可愛く喘いで、悶えて、そんな事言えるの?」
 彼女が腰を動かした。
 ペニスが動いて敏感な所を刺激していく。
「ああんUあんU」
「可愛いお嬢ちゃまはもっと素直にならなきゃねU」
 彼女のペニスに貫かれたまま、愛撫される。女性しか得られない筈の快感が僕を押し包む。その快感の圧力に、僕の抵抗は脆くも崩れさる。
 開き直り、快感に身を委ねる。と、
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜U」
 今まで以上に心地好い快感に満たされた。
 頭の中が真っ白になる。
 僕はオンナのエクスタシーに呑み込まれていった。



 ベッドの上で、全裸の少女が淫らに悶えていた。
 部屋には誰もいない。
 悶えている少女は僕自身。
 王子様のキスで目を覚ました眠り姫は魔女となって王子様に魔法をかけた。
 彼女は魔法で僕のペニスから生気を奪い、ペニス自身も奪っていった。
 魔女はひとしきり僕を玩ぶと、どこかに行ってしまった。
 部屋の中には女にされてしまった僕が独りがいるだけ。
 今度は僕が王子様を待つお姫様になってしまった。
 けど、
 童話の中のお姫様みたいに眠りながら待ってなんかいられない。
 股間が疼いて眠れないのU
 僕はソコに手を伸ばした。
 そこにあったはずの僕のペニスは消え失せていた。
 代りに淫蕩なクレバスが僕の指先を迎え入れる。
 じわりと愛液が溢れる。
 ねっとりと愛液が絡み付いてくる。
 蕾に指先が触れる。
「ああんっU」
 これは正真正銘のオンナの快感。
 肉襞を押し開くと秘洞の入り口があった。淫蕩に濡れた壁面を伝って中指を挿入する。魔女に攻められたように指先をくねらす。
「ああっU」
 魔女の指技には及びもしないが、それでも快感が僕を揺り動かす。
 ぶちゅぶちゅと音を立てて中指が出入りする。
「あんあんU」と、声を出すともっと気持ちが高ぶる。
 中指に加え薬指も差し込む。
 親指の先で蕾を刺激する。
「あ〜あ〜U」
 身体が熱く火照っている。
 全身に汗の雫が浮いてくる。
 僕の股間は汗と愛液でぐしょぐしょになっている。
 股間に添えていた手を離し、掌を胸に乗せる。
 盛り上がった乳房の先端に乳頭が突き出している。
 指先で弄ぶ。
「ああ〜〜〜〜U」
 快感が高まってゆく。
 2ヶ所を同時に攻めると一気に上り詰めていった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜U」
 僕は知ってしまったオンナの快感に溺れてしまっていた。


 物音にハッとした。
 何もなかった壁に扉が開いている。
 そこに男が立っていた。
 王子様?
 バレエダンサーのようなタイツを穿いている。提灯パンツにフリフリのシャツ。エリマキトカゲのような飾りを付け、頭には王冠を載せている。
 絵本にあった「王子様」をそのまま再現している。
「あぁ、そこに居るのがボクのお姫様だね?」
 大仰な身振りとともに甲高い声が響きわたった。
 僕は裸なのを思い出しシーツを引き寄せた。
「ボクがキミの王子様だよ。」
「王子様ぁ〜?」
 僕のリアクションを全く無視して王子様は僕の手を取って立ち上がらせた。
「素敵なドレスだ。」
 裸の身体に巻いたシーツは純白のドレスのように僕を包んでいた。
 彼の腕が僕の細い腰を抱き締める。
「さあ、お姫様。ボクと一緒になろうU」
 僕はホモではない。ノーマルな男性である僕は、男の腕に抱きすくめられ不快感の塊となっていた。更に男の顔が迫って来る。接吻を強要しようとするのだろう。僕の脳は必死で抵抗するように指令をだしていた。
 が、肉体は僕のコントロールを離れていた。
 ゆっくりと瞼を閉じ、唇を窄める。
 彼の唇が触れる。
 僕の頭は嫌悪感で一杯になっていた。が、肉体から浸食してくる多幸感に徐々に侵されてゆく。
 彼の唇が離れると同時に、身体に巻いたシーツが解け落ちた。
 幸福感に僕はボーっとしていた。
 彼の掌が僕の膨らんだ胸を包み込む。唇が乳首をしゃぶる。
 ざらざらとした舌の感触に反応して乳首が尖る。
 舌は乳首を離れるとぐるぐると円を描くようにバストの山を降りてゆく。胸元の谷間を通り抜け、お腹の平地を這い進む。お臍のオアシスで一時休止の後、小高い丘を越えるとその先には神秘の三角地帯。僕の愛液に濡れたクレバスに彼の舌が割り込んで来る。
「あんっU」
 彼の舌が蕾に触れた。
「やあ、可愛い声だね。」
 彼が顔を上げる。
 今度は指先で蕾を攻めたてる。
「あんあんあんU」
 僕は首を打ち振り、快感に悶える。
「良い娘だ。良い娘だ。」
 彼の白いタイツに包まれた股間が異様に盛り上がっている。
「さあ、可愛いお姫様。ボクと一緒になろう。」
 彼がタイツを降ろすと、想像を絶する巨根が顕れた。僕にはそれが何を意味するか、咄嗟には理解出来なかった。が、彼が僕の股間に割り込むようにして、脚を持ち上げたとき、はっと気がついた。
 彼はその巨大なペニスを僕のなかに入れようとしているのだ。
「いくよU」
 極太の肉棒の先端が入り口を捜し当てる。
「痛!!」
 股間を引き裂く強烈な痛みが破裂する。
「可愛い顔だね。お姫様のこんな顔を見られるなんて最高だね。」
 下半身の内側に異物を感じる。
 強引に割り込んできたモノには優しさのかけらもない。ソレが動く度に襲ってくる激しい痛みに堪えるしかない。僕はシーツを握り締めた。
「おうおうおう」
 彼は独りで楽しんでいる。
「出るぞ。出るぞ。」
 呻き声と同時にペニスが脈打つ。僕のなかに勢い良く精液が放出された。
 痛みとともに僕の意識は遠のいていった。


 音楽が聞こえる。パイプオルガンの荘厳な響きが静寂の中に谺する。
 曲は良く知られたウエディング・マーチだ。
 扉が開くと同時に、ざわめきが波紋のように広がる。
 絵本にあった王子様とお姫様の結婚式のシーンがそこに展開されていた。
 僕は純白のウエディングドレスを着ていた。ブーケを手にゆっくりと参列者の中を進んで行く。祭壇には司祭と、あの王子がいた。
 心の内では拒絶しつつも、僕の足は機械のように一歩一歩前に進んでいく。王子の顔が笑みで蕩けそうになっている。
 彼の股間が膨らんでいる。
 膨らみはどんどん大きくなってゆく。
 ミシリと音を立ててズボンが引き裂かれた。
 彼の巨大なペニスが更に大きくなってゆく。それは僕を貫いた時の2倍はあった。それが更に大きくなってゆく。
 バランスを取る為に王子はどんどん反り返ってゆく。やがて、ペニスは彼の上半身程の大きさになった。王子が大きく反り返り背骨が折れる程にたたまれると、王子の足がまるでペニスから生えているように見える。
 やがて僕は祭壇に達する。
 何事も無かったかのように司祭が祝福を唱える。
 僕はこのペニスと結婚するのか。
 漠然とそんな事を思っていると、
「それでは、誓いの接吻を。」
 と、司祭が促す。
 僕はペニスの前に跪いていた。
 司祭が僕の顔からベールを外すと、目の前に巨大なペニスの先端が迫っていた。僕は瞼を閉じ、彼の接吻を待った。

 ピシッ!

 僕の唇がペニスに触れた瞬間、ソーセージの皮が破けるような音がした。
 目を開けると、パリパリに張りつめたペニスの表面に亀裂が生じていた。そこから、煙が立ちのぼる。
 辺りが白濁した霧に包まれる。その向こうで霞んで見えるのは、まるでサナギから蝶に羽化するように、ペニスから何かが生まれ出てくる所だった。

 やがて、霧が晴れる。
 王子の皮を脱ぎ捨てて現れたのは、あの魔女だった。
 僕からペニスを奪い女に変えていったあの魔女だ。
 彼女は純白のウエディングドレスをまとっていた。
「さあ、お姫様。誓いの口づけを。」
 彼女に手を取られ、僕は立ち上がった。その腰を彼女の腕が抱き締める。
 彼女の唇が僕の口を塞ぐ。
 僕の全身から一気に力が抜けていった。
 ぐったりとした僕を彼女が抱え留める。
「これで姫はわたしのものだ。」
 彼女が高らかに宣言すると、怒濤のような拍手喝采が沸き起こった。
 僕は遠くなる意識の片隅でパタンと本の閉じる音を聞いていた。


 こうして魔女とお姫様は一生仲良く暮らしましたとさ。
 

おしまい


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