僕は裏通りに面した雑居ビルの階段を降りていった。
ドアを開けるといつものお姉さんが出てくる。
「今日は何になさいます?」
とカタログを広げて見せてくれる。ジャンル毎にインデックスが付いている。僕の開いたページのタグには「女性」とだけ書かれている。様々な女性の写真とその横にプロフィールが付いている。みんな美人揃いだ。
ここは、イメージ・カプセルという風俗店だ。ヴァーチャル世界で欲求を満たすための全身体感システムを搭載したシュミレーション・マシン「イメージ・カプセル」が置かれている。
僕は今日のメニューを決めると奥に進んだ。そこはイメージ・マシンの入り口であると同時に、更衣室にもなっている。その中央にカプセルが据えられている。カプセルはここからイメージ・マシンの送り込まれるのだ。僕は服を脱いでロッカーに入れる。全身体感を実現する為に全身に感覚器を触れさせる必要があるため、全裸になる必要があるのだ。僕はカプセルの中にもぐり込んだ。
カプセルを包み込むようなBGMに眠気を誘われる。
プログラムがスタートした。
僕は鏡に自分の姿を映した。
ワンピースを着ていた。お化粧も終え、デートの迎えを待っている。
ピンポ〜〜ン
チャイムの音に僕はウキウキと扉を開ける。
「よう!」
彼が陽気に笑い掛ける。僕は飛び付くように腕を絡め、彼の唇にキスをする。彼の太い腕が僕のウエストを抱き締める。彼の舌が割ってくる。それだけで僕はボーッとなっていた。
夢心地のまま時間が過ぎてゆく。
気が付くと、僕はベッドに腰掛けていた。シャワーの音がする。まだワンピースを着ているのに気づく。僕はイアリングを外し、ワンピースのファスナーに手を掛けた。
鏡に僕が映っている。
ストンとワンピースが足元に落ちる。シミーズもワンピースの後をたどる。ブラジャーに包まれた形の良いバスト。キュッとくびれたウエスト。淡いブルーのショーツを透かして形の良い叢が見える。手を後ろに廻し、ブラジャーのホックを外す。何も付けないでも僕のバストの形は変わらない。乳首がキュッと勃っている。パンストと一緒にショーツも脱いで全裸となる。
これが『僕』だ。
じっくりと鏡で確認した後、タオルを巻き付ける。脱いだ服を片し、彼と入れ違いにシャワーを浴びる。僕は股間に掌を当てた。秘部に触れると男性には味わえない感覚がわき上がる。これからここに彼を受け入れるんだ。僕は身体の隅々まで丹念に洗い清めた。
彼は優しく僕を導いてくれた。
彼のモノがゆっくりと僕の中に入ってくる。
「あぁんU」
僕の喉から可愛らしい喘ぎ声が洩れる。
腰を動かしながらも、指先で僕の性感帯を次々と責めたてる。僕は両腕で彼の身体をギュッと抱き締めると唇を合わせた。無意識の内に舌を押し込んでいる。彼の口の中で舌を絡ませあう。
が、それもすぐに中断される。
彼の愛撫にたまらずも身悶える。
うなじを逸らし、僕は嬌声を上げていた。
彼の動きが激しさを増してくる。
僕も絶頂に近づいていった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っU」
全身を洗い流すシャワーに、自分を取り戻す。シャワーが汗と汚れを綺麗にぬぐい取ってゆく。カプセルの扉が開き、ロッカーから服を出して着る。
何か違和感を感じる。
(下着?)
それは男物のトランクス。そう、僕は男性だった。股間にはペニスもある。
(これが違和感の正体?)
僕は何かしっくりと来ないまま店を出た。街を歩いていると、ショーウィンドウのガラスに僕の姿が映り込む。このままで良いのだろうか?不安が過る。そして、ガラスの向こうに素敵なドレスを見つけると、僕はフラフラと店の中に入っていった。
吊るされたスカートを手に取る。
腰に当ててみる。
気に入ったのを2〜3着持って試着室に入ろうとした所、
「お客様?あのぉ〜お客様がお召しになるのでしょうか?」
そう言われて、ハッと我に返った。
「ご、ごめんなさい。」
僕は店員に手に持ったスカートを預けると大急ぎで店を後にした。
ふうふうと、息を切らして公園のベンチに腰掛ける。
(僕はどうなってしまったんだろう?)
砂場で子供達が遊んでいた。視線は女のコに向かう。可愛らしい服にドキマキする。あわてて視線をそらす。と、ベビーカーがあった。
赤ちゃんが寝ている。
ふらふらと立ち上がり、覗き込んでいた。
(僕も、こんな赤ちゃんを産んでみたいなぁ。)
赤ちゃんが目を開ける。
キャッキャと僕を見てはしゃいでいる。
(ヨシヨシ)
僕を突き動かしているのは母性本能と言われるものなのだろうか?
再び街を歩きだす。
すれ違う人々。
スーツをピシリと着込んで闊歩するOL、パンツとTシャツのラフなスタイルで買物している主婦、短いスカートの制服で喋りながら歩いて行く女子高生。僕の視線は彼女達の服に注がれていた。
(何で僕は彼女達のような綺麗な服、可愛らしい服を着れないのだろう?)
イメージ・カプセルの中では何だって着れたのに外に出た途端、地味な男の服を着る事が強要される。
(けど、それは誰に言われたの?)
思い当たる節がない。
誰も『着ちゃいけない』とは言っていない。
(じゃあ、着ても良いんだ。)
僕はさっきの店に戻っていった。
吊るされたスカートを手に取る。
気に入ったのを2〜3着持って試着室に入ろうとした所、再び声を掛けられる。
「お客様?あのぉ〜お客様がお召しになるのでしょうか?」
今度の僕はこう答えていた。
「はい、そうです。」
僕は試着室に入りカーテンを閉じた。
僕はその店でスカートとブラウス、カーディガンを買った。店の中で一番気に入った服に着替えると、次は美容院に向かう。
「可愛らしくしてね。」
美容院ではお化粧もしてもらえたので、そこを出た時には僕はもう女のコそのものだた。
ぶらぶらと街を歩いていると、男の子が声を掛けてくる。
「お姉さん。お茶しない?」
ちょっとカッコいい子に声を掛けられたとき、僕はふらふらと彼の後に付いていっていた。
喫茶店で他愛もない話しをする。ちょっとの事でもキャッキャと笑ってあげると彼も嬉しそうだ。ゲームセンターで遊んだ後、食事をする。
アルコールが僕の頭を溶けさしていった。
気がつくと僕はベッドの上で彼に組み敷かれていた。
彼の唇が離れる。
僕はウットリと瞼を上げる。
僕はまだ服を着たままだったが、彼は既に上半身裸になっている。胸毛はなく、ほっそりとした胸板には肋骨が浮き出ている。「逞しさ」にはほど遠いが、彼の腕は僕をしっかりと抱き締めていた。
僕は彼のズボンのベルトに手を掛ける。
彼の腕が緩む。
身体を入れ替えた。彼のズボンを脱がしトランクスのスリットから彼の男性自身を剥き出しにする。真っ赤なマニキュアを塗った指で2〜3度刺激しただけで、彼のペニスはすぐに硬くなった。
彼の広げられた大腿の間に頭を割り込ませ、僕は彼のペニスを口に含んだ。
指先で会陰部を刺激する。
舌先で先端の割れ目をなぞると先走りの水が現れる。
唇で圧迫すると同時に喉の奥まで吸い込んであげる。
絶妙のリズムで繰り返してゆくと、彼の喉から呻き声が上がる。
指先を進ませ、アヌスに滑り込ませる。
「あうっ!!」
僕の喉の奥に向けて彼の迸りが勢い良く放たれる。
白い液体を口の中で舐め廻していると、今度は彼の手が僕の秘所に伸びて来る。
僕はパンストを降ろし、スカートを広げて彼の上に跨がった。
「今度はアタシに頂戴U」
彼の起立したペニスが僕の素肌の大腿に触れる。
ゆっくりと腰を動かし、秘部に導く。
が、ペニスは股間を素通りし、あり得ないモノと触れ合った。
「?!」
二人の瞳が驚愕に見開かれる。
「うそっ?!」
彼の両腕が僕を突き飛ばす。
そのまま、床に散らばったズボンとシャツを拾い集めると脱兎の如く部屋を飛び出していった。
後には独り僕だけがぽつねんと残されていた。
ベッドから突き落とされ、仰向けに床の上に転がっている。
スカートが捲れ上がり、太股が淫らに剥き出されている。
掌を大腿に沿って昇らせる。
指先にソレが触れた。
そして僕は思い出した。
僕は女のコではなっかたのだ……