僕は裏通りに面した雑居ビルの階段を降りていった。
ドアを開けるといつものお姉さんが出てくる。
「今日は何になさいます?」
とカタログを広げて見せてくれる。ジャンル毎にインデックスが付いていて、僕はいつものコスプレ=学園物の頁を開く。学校名の脇にそこの制服を着た女のコの写真が出ている。みんな美人揃いだ。
ここは、イメージ・カプセルという風俗店だ。僕みたいに気後れして本物の女性とは付き合えない人や、本物の女性では飽き足らない人達がヴァーチャル世界で欲求を満たすための全身体感システムを搭載したシュミレーション・マシン「イメージ・カプセル」が置かれている。
全てはコンピュータが作り出した仮想世界だが、僕等はこれで充分満たされるのだ。人件費が掛からないので、一般の風俗よりも安く月に何度も足を運んでしまう。
僕は今日の相手を決めると奥に進んだ。そこはイメージ・マシンの入り口であると同時に、更衣室にもなっている。その中央にカプセルが据えられている。カプセルはここからイメージ・マシンの送り込まれるのだ。僕は服を脱いでロッカーに入れる。全身体感を実現する為、全裸になって全身に感覚器を触れさせる必要があるのだ。僕はカプセルの中にもぐり込んだ。マスクを装着すると、カプセルの扉が締まる。イメージ・マシンに移動しながら感覚器との接触を効果的にするために、シャワーで全身を清められる。そしてカプセルが生理食塩水で満たされると、感覚器が壁から出てきて僕の肌に密着する。
最初は不快感があるが、次第に慣れてくると感覚器が自分の皮膚の一部のように感じて来る。カプセルを包み込むようなBGMに眠気を誘われる。
うとうとし始めると同時にプログラムがスタートした。
僕は体育倉庫の脇で彼女を待っていた。僕はこの高校の3年生。校舎から人目を忍ぶように走ってきた彼女は僕の奴隷だ。この体育倉庫が調教室だ。
彼女はポケットから鍵を取り出すと、体育倉庫の入り口の扉を開けた。先に入り、マットの上で制服を脱ぎ始める。脱いだ服は畳んで跳び箱の上に重ねて置いた。薄闇の中でも何が何処にあるのか判っている。彼女のその身体が覚えてしまっているのだ。
全てを脱ぎ去り、マットの上に全裸で立っている。
僕は照明のスイッチを入れた。
彼女の裸体が光の中に晒される。
「良い子だ。ちゃんと言いつけを守っているな。」
彼女の大腿に結わえ付けられた電池ケースが見える。そこから股間に線が伸びている。彼女はバイブレータを一日中そこに入れたままにしていたのだ。
僕はポケットからリモコンのスイッチを取り出す。
カチリッと音を発ててスイッチが入る。
「ひぃっ!!」
彼女はその場に崩れ落ちた。
僕はゆっくりと彼女に近づく。
「さあ、御主人様にご奉仕するんだ。」
バイブレータのスイッチは入れたままだ。苦悶の表情のまま、顔を上げる。目の前にあるチャックを降ろし、僕の憤り勃ったモノを口に入れる。
僕は彼女の髪を掴み、手綱を操るように前後に動かす。
(さあ、今日はどのようにして辱めてやろうか?)
そんな事を考えながら、最初の迸りを彼女の口の中に放った。
「零すんじゃないぞ。」
僕は至福のひとときに酔っていた。
全身を洗い流すシャワーに、ようやく自分を取り戻す。股間に貼り付いたザーメンがシャワーのお湯で綺麗にぬぐい取られてゆく。温風が身体を乾かすと、カプセルの扉が開く。ロッカーから服を出して着る。
快感にぼーっとしながらも、店を出ようとしたときお姉さんに声を掛けられた。僕はそのまま事務室のソファに座った。
冷たいジュースが出され、一息ついた所で彼女が言った。
「あなた、素質があるわ。ねぇ、安いとは言っても月に何度も来るようだとお小遣い大変じゃない?だったら、ここでアルバイトしてみない?」
「アルバイト?何をするの?」
「別に、あたしのような受付をやってもらう訳じゃないの。」
彼女は傍らからリーフレットを取り出した。
「ここのシステムは全てがコンピュータで合成された空間を人工夢の形で体験させるものなのだけど、全く人手が掛かっていない訳ではないの。あたしのような受付事務をする人もいれば、コンピュータのプログラムを作る人もいる。もちろん、シナリオを書く人、それを演技する人もいるのよ。」
「演技する人?」
「そうよ、このシステムは全てコンピュータで作られていると思われているけど、コンピュータがシナリオを書いている訳ではないの。そこには人間の想像力が必要になってくるのね。登場人物にしてもそう。ただ単に、描かれたものを表現するだけならコンピュータだけでどうにかなるんだけど、ヒトの感覚・感情を細かに再現するにはどうしてもベースとなる「ヒト」が必要になるの。つまり、演技する人ね。普通の映画とは違って、姿形はコンピュータでいくらでも変えられるから、演技する人は数人で構わないんだけど、やはり同じ人がやっているとだんだん新鮮味が薄れてくるの。」
「で、僕が演技する人に?」
「そう。やってもらえる?」
「僕… 僕、そんな事できません。」
「別にあなたの顔が見られる訳じゃないのよ。誰も、あなたが演技しているなんてわからないわよ。」
「そ、それもあるけど、僕には演技なんて出来ません。」
「もちろん、あなたに役者のように演技してもらおうとは思っていないわ。」
「?」
「わたし達には、あなたの『感情』が欲しいの。」
「感情?」
「演技の方はあらかじめストーリーに沿ってベテランの人を使ってプログラムされているの。あなたには、そこに『感情』を吹き込んで欲しいの。」
「…何か良く判らない…」
「じゃあ、一度だけで良いからやってもらえないかしら?もちろんアルバイト代は出るわよ。」
そして、アルバイトの当日。僕は指定された場所にやってきた。受け付けで名乗ると直ぐに担当の人がでてきた。
「じゃあ、行こう。」そのまま自動車に乗せられる。郊外の工業団地の中に入ってゆく。施設の前に自動車を止め、歩いて奥へと導いてゆく。その間も、担当の人はほとんど喋らなかった。
「じゃあ、ここで準備して。」
そこは、見慣れたイメージ・カプセルの更衣室だった。
「何も説明は無いんでか?ストーリーの概略とか…」
「すぐにわかるし、何も知らない方が新鮮味があるからね。」
担当の人は扉を閉めて行った。どうやら外から鍵を掛けて行ったようだ。
僕は諦めて服を脱ぎ、カプセルに入った。
カプセルが生理食塩水で満たされる。いつものようにBGMに眠気を誘われる。
プログラムがスタートした。
気がつくと、僕は公園の中をボーっと歩いていた。いや、ボーっとしていたのは僕の頭だけで、足取りはしっかりと、どちらかと言うと足早に歩いている。今は夜。ポツリポツリと街路灯が立っているが、木々の梢に遮られ殆ど効果がない。
(近道とはいっても暗いのはいやよね。)
そんな思いがふと頭の中に沸く。
ガサガサと夜風に枝葉が擦れ合い音をたてている。
「?!」
その音に紛れて茂みの中から伸びたモノが僕の腕を掴む。
そのまま、茂みの中に引き込むと同時に空いた手で僕の口を押さえる。
なにが何だか判らないうちに、僕は地面の上に押し倒された。闇の中に光が反射する。男はナイフをちらつかせると僕の頬に押し当てる。ひんやりと冷たい金属の感触が伝わってくる。
「お嬢ちゃん。声を出すんじゃないぞ。」
ドスの効いた声。
(お嬢ちゃん?)
僕は耳を疑った。が、男は手早くタオルで猿轡すると、問いただす所ではなくなった。
シャツが引き裂かれる。ボタンが千切れ飛ぶ。僕の目の前にシンプルなブラジャーに包まれたバストがあった。
「幼いくせに、乳だけは一人前だなぁ。」
男のナイフが胸の谷間を通り過ぎると、ブラのカップが弾け飛んだ。ペシペシとナイフの横面で乳房を叩く。ペロリと舌先で乳頭を舐め上げる。
僕が何も出来ずにじっとしていると、股間から液体が溢れ出て来る。それは、大きな染みとなって地面を濡らした。
「おお、おもらしか。」
男はスカートをはぎ取り、パンツの上からナイフの柄で股間を押してくる。
湿った布越しに秘部が刺激される。生暖かい小水の感触がお尻から伝わってくる。僕の瞳からは涙が頬を伝う。
(何でこうなっちゃったんだろう?)
男はパンツもナイフで切り開いた。男の指が股間を這い徊る。淫らに脚を広げたまま何の抵抗も出来ずに、僕は男に嬲られている。
「始めてだろう?」
男の顔が厭らしく歪む。男がズボンを降ろすと、隆々とペニスが天を向いて勃っている。木々の間から洩れる街路灯の明りに先端がきらめく。
両脚を抱えるように持ち上げると、男のものが一気に突き立てられた。
(痛〜〜〜〜〜ッ!!)
股間を引き千切られる痛みが爆発する。
くぐもった悲鳴が喉を揺らす。
男の精が撒き散らされる。
「う〜〜ん。やはり、処女は良いな。」
男の指が僕の股間を拭うと白い精液に赤いものが混ざっていた。
「ありがとう。良かったよ。」
袋には言われていたより多めの金額が入っていた。
まだ、股間がズキズキする。僕はがに股歩きで家に戻った。
風呂に入ると、湯船の中で股間を撫でた。この奥に突き立てられた男のモノの感触を思い出してみる。僕のより、一周りも二周りも大きかった。
(女のコはあんな痛い思いをするんだ)
塞がれた股間の割れ目に沿って指を這わす。
「アンッ」
僕は女のコのように喘ぎ声を漏らしていた。ある筈のない膣口を指でなぞる。充分に濡れて来た所でゆっくりと指先を挿入する。
「アアッ」
僕は湯船の中で悶えていた。
翌日、待ちきれずに僕は再びイメージ・カプセルの扉を開けていた。
受け付けのお姉さんは何も言わずにカタログを渡してくれる。が、いつもと違ってページが開かれていた。タグには「女性」とだけ書かれている。
「?」
僕はお姉さんを見上げた。
「アルバイトは気に入った?今日のあなたにはこれなんかお薦めよ。」
そう言われ、多少気が引けたが彼女の話術に引き込まれるように僕は承諾してしまった。
カプセルの中にもぐり込む。
BGMに眠気を誘われる。
プログラムがスタートした。
僕は鏡に自分の姿を映した。
カタログの女性がそこにいた。紫色のワンピースを着ている。
僕はワンピースのファスナーに手を掛けた。
ストンとワンピースが足元に落ちる。シミーズもワンピースの後をたどる。ブラジャーに包まれた形の良いバスト。キュッとくびれたウエスト。淡いブルーのショーツを透かして形の良い叢が見える。手を後ろに廻し、ブラジャーのホックを外す。何も付けないでも僕のバストの形は変わらない。乳首がキュッと勃っている。パンストと一緒にショーツも脱いで全裸となる。
これが『僕』だ。
僕は股間に掌を当てた。繁みの奥に熱い割れ目があった。始めて触れる自分の秘部に感動する。
指先が敏感な所を探りあてる。その奥に指を滑り込ませる。
「アフッ」
膝から下の力が抜け、僕はその場にへたり込んだ。
鏡には淫らに瞳を潤ませた女が映っている。
僕は膝を立て、股間を鏡の前に晒した。
肉襞が僕の指を挟み込んでいる。
キラキラと愛液が光り始める。
「アァッ」
指を動かすと悦感が溢れ出す。
(僕の求めていたのはコレなんだ!!)
今、はっきりと認識する。
僕はアルバイトを通じて女性としての快楽に目覚めてしまったのだ。
女性を嬲る快感より、更に高い快感を知った。
あの時、男に抱かれているうちに恐怖と苦痛が悦感に刷り変わったあの時。
僕の世界観が180度変わってしまった。
部屋の中を見渡すと、ベッドの上に置いてあるモノに気付いた。
ゆっくりとベッドに移る。
悦感を逃さないように静かに身体を横たえる。ベッドの上にあったものを手に取る。スイッチを入れると複雑な動きと振動が始まる。
一旦スイッチを切り、股間に当てる。
そこはもう、充分に濡れていた。
ゆっくりと挿入する。
そして、スイッチを入れた。
「ア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」
めくるめく快感に僕は昇天した。