僕は裏通りに面した雑居ビルの階段を降りていった。
ドアを開けるといつものお姉さんが出てくる。
「今日は何になさいます?」
とカタログを広げて見せてくれる。ジャンル毎にインデックスが付いていて、僕はいつものコスプレ=アニメ・ゲームの頁を開く。見知ったタイトルの脇にヒロインのコスチュームを付けた女のコの写真が出ている。みんな美人揃いだ。
ここは、イメージ・カプセルという風俗店だ。僕みたいに気後れして本物の女性とは付き合えない人や、本物の女性では飽き足らない人達がヴァーチャル世界で欲求を満たすための全身体感システムを搭載したシュミレーション・マシン「イメージ・カプセル」が置かれている。
全てはコンピュータが作り出した仮想世界だが、僕等はこれで充分満たされるのだ。人件費が掛からないので、一般の風俗よりも安く月に何度も足を運んでしまう。だから、受付のお姉さんも常連の顔はもちろん、好みも判ってしまっている。
だから、お姉さんのアドバイスは良く聞くようにしている。だから、
「ねぇ、女のコになってみない?」
そう言われ、多少気が引けたが彼女の話術に引き込まれるように僕は承諾してしまった。
更衣室の中央にカプセルが据えられている。カプセルはここからイメージ・マシンに送り込まれるのだ。僕は服を脱いでロッカーに入れる。全身体感を実現する為に全身に感覚器を触れさせる必要があるため、全裸になる必要があるのだ。僕はカプセルの中にもぐり込んだ。マスクを装着すると、カプセルの扉が締まる。イメージ・マシンに移動しながら感覚器との接触を効果的にするために、シャワーで全身を清められる。そしてカプセルが生理食塩水で満たされると、感覚器が壁から出てきて僕の肌に密着する。
最初は不快感があるが、次第に慣れてくると感覚器が自分の皮膚の一部のように感じて来る。カプセルを包み込むようなBGMに眠気を誘われる。
うとうとし始めると同時にプログラムがスタートした。
「気分はどう?」
女の人の声に僕は目覚めた。
瞼を開けると心配そうに覗き込む顔があった。彼女は受付のお姉さんだった。
(何かあったのだろうか?)
僕は夢心地の中で起き上がった。
「ここは?」
僕が尋ねると、彼女は優しく微笑んだ。
「イメージ・カプセルの中よ。ご覧なさい、あなたは女のコになったのよ。」
起き上がり、自分の姿を確認する。僕はスカートを穿いていた。白いソックスが足を被っている。
「鏡はこっちよ。」
お姉さんに導かれ、スリッパをつっかけて鏡の前に立つ。
セーラー服の女のコがそこに立っていた。
「どお?気に入った?」
お姉さんが後ろから抱きついてくる。うなじに息を吹き掛けられると。
「アンッ」
と、僕の喉から可愛らしい女のコの喘ぎ声が溢れる。
「じゃあ、ベッドに戻りましょうか。」
僕は彼女に言われるままに動かされてゆく。
「始めてだから、このプログラムのストーリーを教えておくわね。」
僕をベッドの端に座らせ、彼女は並ぶように腰掛ける。
僕の肩に腕を廻し、スカーフの結び目を解く。
「ここは女子校の保健室。あたしはそこの校医で、あなたはそこを訪れた女生徒という設定ね。あたしは淫乱で、ここの生徒を片端から手を付けていっているの。もちろん、美人の女のコばかりね。彼女達はみんな、あたしの奴隷になっているの。あなたも、これからその一人に加えてあげるからね。」
そうこうしているうちに、彼女は僕の上半身から全ての衣服をはぎ取ってしまっていた。彼女は立ち上がると同時に僕をベッドに転がす。スカートを脱がされると、僕はショーツとソックスだけになる。
彼女が白衣を脱ぎ去ると、その下から一糸まとわぬオトナの女性の肉体が現れた。
「さあ、子猫ちゃん。良い声で鳴いてご覧なさい。」
彼女が僕の上にのしかかってくる。バストの先が触れ合う。
ゾクゾクと、背中を得体の知れない感覚が蠢いている。
彼女の口が僕の口を塞ぐ。
舌が僕の口の内側を刺激する。と、同時にうなじから背中にかけて、彼女の指が性感帯を刺激してゆく。
「ンンンッ」
塞がれた口から喘ぎ声が洩れる。
股間が熱くなる。
ショーツが湿る。
彼女の太股が僕の股間に割って入る。
「もう、濡れているのね。」
彼女は僕の口を離れると、乳首を舌先で玩ぶ。その敏感な所に歯を突き立てる。
「アアッ」
僕は媚声をあげていた。
彼女の太股は巧みに動き、ショーツ越しに女のコの敏感な所を刺激する。
指先はもう一方の乳房を揉みあげる。
背中の性感帯を刺激され、僕はベッドの中で悶えまわった。
「ああ、ああ、あ〜〜〜〜〜!!」
僕の媚声が保健室の中に響き渡った。
全身を洗い流すシャワーに、ようやく自分を取り戻す。
股間に掌を当てると、僕の男性自身はちゃんとそこにあった。いつもより多量のザーメンが撒き散らされている。それも、シャワーが綺麗にぬぐい取ってゆく。温風が身体を乾かすと、カプセルの扉が開く。
ロッカーから服を出して着る。男の服の肌触りにちょっと不快感を覚える。ワイシャツのボタンを閉めるとき、胸元が寂しかった。
ロッカーの奥に小さな紙袋があった。メッセージカードが付いている。
「今日の記念にあたしからのプレゼント。家に帰ってから開けてね。」
家に戻って袋を開くと、中から女性の下着と1本の口紅が入っていた。
カーテンを閉め、裸になって下着を付けてみる。
僕はその肌触りにうっとりした。
机の上に鏡を置く。
口紅を塗った。
鏡に向かって微笑む。
僕はオトナになったような気がした。