鋳型


 
 とろとろに溶けてゆく…
 
 それは俺の「肉体」であった。
 俺の下には鋳型があり、溶けた肉体が鋳型の中に収まってゆくのだ。
 
 鋳型に収まりきらなかった肉体の断片が床に落ちてゆく。
 床に落ちた断片は腐臭を放つが、今の俺は匂いを知覚することができない。
 匂いだけでなく、五感の全てが閉ざされていた。
 
 音のない暗闇の中で、俺は意識を保っていた。
 鋳型の中でゆっくりと肉体が固まってゆく。
 そこには今までとはまったく異なる「俺」の姿があった。
 姿形ができあがると、自然と鋳型は崩れてゆく。
 強烈な換気装置が作動を開始し、立ち込めた腐臭とともに、砕けて塵となった鋳型の残垢を吸い飛ばしていった。
 
 俺は立ち上がった。
 生まれたばかりの一糸纏わぬ姿がそこにある。
 天井から降りてきた鏡に全身を写し出す。
 
 俺は満足げにニヤリと笑った。
 そこには妖艶な笑みを浮かべる美少女がいた♪
 
 
 


    次を読む     INDEXに戻る