「ドナーの詳細について教える事はできないが、君の心臓はある女の子のものだったんだ。」
俺の手術を行った医師がそんな事を言っていたが、その時はあまり意識してはいなかった。
事故で俺の肉体は内蔵を中心にかなりのダメージを受けたが、脳を始めとした神経系は奇跡的に無傷で済んだようだ。
事故の関係者は、事故自体を隠蔽したいらしく、俺の回復に資金を惜しまないようだった。
最新の医療機器と治療薬を惜しげもなく投入してくれた。
おかげで、俺は「事故に巻き込まれた」という痕跡はどこにも残らない状態にまで回復した。
退院…入院していたという事実は存在しないので、単に「病院を出た」と記録されていた…はしたものの新しい仕事を探す所から始めなければならなかった。
その為の資金は用意されていたが、行方不明になっていた事を追求されるのは避けたいらしい。
同様に住処も変えられた。
こっちは向こうで用意したマンションに住むことになっている。
家財は元のアパートから運び込んでくれているので、俺がアパートに出向く必要はなかった。
街をぶらつきながら、アルバイトの募集を眺めていた。
が、何故だ?
いくつか募集を目にした筈なのだが、俺の記憶に残っているのは「ウェイトレス」の募集ばかりだった。
男の俺がウェイトレスなどできる筈もなかったが(あの店の制服が可愛かった)などていう感想が付いている。
可愛い娘が多い職場であれば、勤労意欲も湧くものであるが…
俺の脳裏に浮かんだのは一番可愛かった制服を着た女の子だったが、その娘がその店で働いていた訳ではない。
見知らぬ女の子…だが、その娘の顔に言い知れない懐かしさを感じていた。
職も決まらずに街をうろつく日々が続いた。
と、突然
「京子?」
と声を掛けられた。
振り向くとその女はバツが悪そうに
「す、すみません。人違い…」
とソクサクと去って行く。
「み…」
俺はその娘の背中に声を掛けかけ、押し止めた。
(美穂…)
たぶん彼女の名前なのだろう。
知らない筈の娘ではあったが、俺の心の奥では(彼女の名前は美穂で間違いない)と確信していた。
しかし、俺が女に間違えられるとは…
確かに、退院後に散髪などには行っていないので大分伸びている。
そして、以前と違いサラサラで艶やかな髪の毛になっていた。
だけど、京子って誰の名前だ?思わず振り向いてしてしまったが…
(あたしの名前は三雲京子で間違いないわ♪)
俺の心臓がドキリと脈打った。
確か、医師はこの心臓が女の子のものだと言っていたが…
(そう♪この心臓はあたしのもの。心臓だけじゃないわ。ここから送られる血液も…)
俺は頭がくらくらしてきた。
(心臓以外にも多くの内蔵があたしから移植されているの。拒絶反応を抑えるのに血も全部あたしのに入れ換えられているのよ♪)
だから何だというのだ!!
(あなたの中身のほとんどがあたしでできている。つまりあなたはあなたの皮を被っているだけの存在だってこと♪)
俺は俺だ!!
(あなたの肉体はどんどん「あたし」に置き換わっていくのよ♪既に雰囲気で美穂はあたしだって判ったみたいね♪)
うるさい!!
俺はコンビニで酒を買い、マンションに戻った。
ふと表札が目に入った。
何故、今まで気にならなかったのだろう?そこには「三雲京子」と掲げられていた。
だが、ここは俺にあてがわれた住処なのだ。と表札など気にせずに中に入る。
部屋の中は寝る場所とテレビが置かれている以外は、引っ越しに使われた段ボールが積まれたままだった。
表札と同様に今気付いた事があった。
段ボールには2種類あった。
段ボールには引っ越し業者の名前が印刷されていたが、俺が服などを取り出していたのは、何故か一方の業者のものだけだった。
もう一方の箱には何故か手をつけていない…
気になりだすと確認しない訳にはいかず、手近にあった箱を開けてみた。
そこには女物の服が入っていた。知らない筈なのに見覚えはある…
俺は慌てるように服を戻し蓋を閉め、見なかった事にした。
俺は買ってきた酒を煽り、意識はテレビに集中させた。
ドン!!とイケメンがアップで映った。
『お前、俺のこと好きなんだろ?』
その言葉に俺の心臓がドキリと高鳴った…
何で俺が男に迫られて顔を赤らめなきゃなんないんだ?
(あたしこの俳優、好みなんだもん♪)
再び京子の声が頭に響いた。
声だけではない。
男優の顔が近づいて来る…俺がゆっくりと目蓋を閉じると…男の口が俺の口を塞いだ…
へ、変なイメージを見せるんじゃない!!
(良いじゃない。イメージなんだから♪)
と彼に愛されているという幸福感を俺に押し付けてきた。
(イメージだったらこんなこともできるのよね♪)
男の手が俺の胸を揉み始めた。
俺の胸には乳房があり、揉みあげられる快感が伝わってくる。
「んあんっ」
俺は女のように喘いでいた。
『良いだろ?』
「ダ、ダメよ…」
『何がダメなんだい?お前も期待してたんだろ♪』
彼の身体が密着し、太股をあたしの下腹部に圧し付けてきた…
「…っひっ!!」
彼のもう一方の手がスカートの中に入りお尻を掴んだ。
彼の太股とあたしの下半身が更に密着する。
ごりごりと刺激されると、割れ目の奥から愛液が滲んでくる…
『どうだ?シて欲しくなってきたろ♪』
あたしは何も答える事ができなかった。
彼に与えられた刺激…快感に身を委ねてしまっていた。
「んあ…あああん♪」
あたしは快感に淫らな声を漏らしているしかなかった…
いつの間にか俺は眠ってしまっていたようだ。
何故か久々に気分の良い目覚めだった。
段ボール箱から新しい下着と着替えを取り出し、洗面台の鏡に向かった。
俺の顔ってこんなだったっけ?
違和感はあったが、そこに映っているのは確かに記憶にある顔に違いない。
そう納得すると、俺はパジャマの上を脱ぎ、ブラジャーを胸に巻いた。
カップの中にバストが収まる…
???
俺はもう一度鏡を見た。
そうだ…
そこに映っているのは…あたしの姿に間違いなかった♪