(21)祝杯


 ドアを開けると皆の視線があたしに降り注いだ。
 「これ、変じゃないか?」
 馴れないドレスの裾を振ってみせる。
 「わおっ!!リン。綺麗。見違えるよ♪」
 かろうじてニキが応じてくれたが、アーサー、リョウ、ロンの三人は声も出せずにいた。
 少しの間を置いて
 「お、女の子は化粧ひとつで、こうも変われるものなのですね♪」
 とロンが口を開いた。
 「何れにせよ、元が良いからね。磨けば磨いただけの事はあるよ。」
 「ああ、リン。綺麗だよ。」
 とリョウ、アーサーと続いた。
 あたしはロンとリョウを睨みつける。
 「何であんた逹は素直じゃないの?どんな気持ちであたしがこんな格好していると思ってるの?」
 コルセットはきついし、踵の高い靴は歩き辛い。
 お化粧で顔は突っ張るし、口紅からは変な味しかしない。
 唯一、アーサーが「綺麗」って言ってくれた事で気分が落ち着いた。
 「じゃあ、テーブルに着こうか♪」
 アーサーの声で皆が行動を開始する。
 動き辛いあたしをアーサーがエスコートしてくれた。
 
 「では、今回のクエストの成功に乾杯♪」
 とアーサーの音頭で祝杯が空けられ、豪華な晩餐が始まった。
 男逹はこれでもかというくらい、豪快に料理を胃袋に放り込んでいった。
 「無理しないで、美味しい所だけ摘まんでいけば良いよ♪」
 とアーサーに言われたが、身体の締め付けが厳しく、あっという間に食べれなくなってしまった。
 リョウとニキのバカ騒ぎに興じながら、アーサーを何度となく見てしまう。
 彼の笑顔を見る度に、心が休まるのを感じる。
 
 気が付くと、あたしはカウチに寝かされていた。
 「酔いが廻ったようですね♪」
 アーサーが隣にいてくれた。
 「酔い冷ましにバルコニーに行きませんか?」
 あたしは「ええ。」と応え、アーサーに手を取られて立ち上がった。
 
 そこには満天の星空が広がっていた。
 「綺麗…♪」
 思わず呟いてしまう。
 そんなあたしにアーサーがそっとガウンを掛けてくれた。
 「ぁ…、ありがとう…」
 振り向くとアーサーの目に輝く星が映り込んでいた。
 「アーサー…」
 「リン…」
 彼の手があたしの背中に廻っていた。
 あたしはアーサーに顔を向けたまま、ゆっくりと瞼を閉じた。
 あたしを抱くアーサーの腕に力が入る。
 唇が合わさるとともに、二人の身体が密着する。
 あたしも腕をアーサーの腰に回し、抱き締めた。
 

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