(19)浸食2


 「ふうっ」
 と一息吐いた。
 そして我に帰る。
 (あたしは…俺は今、アーサーと何をしていたんだ?)
 まるで本物の女の子のように反応していたではないか?
 「男」である俺が、何の躊躇いもなく「女」として振る舞っていた。
 (精神のかなりの部分が肉体に侵されてしまったのか?)
 いよいよ、俺が俺でなくなってしまう危機が迫っているのだろう。
 
 きっかけとなったのは訓練場でのリョウとの一戦だろう。
 彼を相手には「リン」として戦うしかなかった。しかし、それはこの先もあたしがアーサー逹とクエストを続けるには、この戦い方でいくしかない。
 リョウみたいな力任せの戦法があたしにできる筈もない。
 あたしにはあたしの戦い方しかないのだ…
 その事を受け入れさえすれば、あたしはこの先もずっとアーサー逹と一緒にいられるのだ。
 (あたしは何を迷っていたのだろう?)
 
 
 
 着替えて食堂に向かった。
 アーサーはあたしが来るのを待ってたみたいだ。
 リョウとロンは既に食事を終え、チェスに興じていた。
 ニキはテーブルに着いていたが、単に食べ終わっていないだけだった。
 「整理は付きましたか?まだ、いろいろと思う所もあると思いますが、食べれる時にはちゃんと食べておかないとね♪」
 そう言うアーサーの笑顔がまぶしかった。
 
 あたしが席に着くと、アーサーも食事を始めた。
 回復魔法も使ったのだろう。アーサーの身体は十分に回復しているようた。
 「今日は私がリョウを借りるよ。練習場で肩慣らししておきたいんだ。」
 「見てても良い?」
 あたしが聞くと
 「君にはやらなくてはならない事があるんじゃないか?昨日からリョウが色々手配してたみたいだよ♪」
 あたしは食事の手を止め、リョウを見た。
 「ああ、まだ言ってなかったか。この際だからいろいろ磨き上げた方が良いと思ってね。エステとか頼んでおいたよ♪」
 あたしは「エステ」が何なのか、即には思いだせなかった。
 

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