(16)剣技


 俺は…あたしはリン本来の戦い方を真似る事にした。
 この身体の持つ敏捷性、柔軟性を最大限に発揮して相手の懐に飛び込むのだ!!
 避けて、避けて、避けて…
 打ち合う…というより、あたしは剣を触れ合わせることなく避け続けた。
 次第に、意識的にではなく身体が反応してくれるようになる。
 これまでのリンの鍛練が身体に染み付いていたのだ。
 彼の太刀筋が見えて来るようになった。
 が、斬り込もうとするとフェイントが入り退かざるを得なくなる。
 これまでのリョウでは考えられない戦法だ。
 フェイントにはフェイントと、あたしも動きの中にフェイントを織り混ぜてゆく。
 
  
 あたし逹の周りにはギャラリーが出来上がっていた。
 練習場にいた誰もが手を止め、あたし逹の動きを追っていた。
 そこにはもう好奇の目であたしを見ている者はいなかった。
 
 「そこっ!!」
 フェイントの三段返しで剣を突き入れた。
 
 ガシッ!!
 
 リョウが剣の柄でこれを防ぐ。
 そして、彼がこれを跳ね上げると、あたしの剣はあたしの手を離れ、空高く舞い上がっていた。
 
 「それまでっ!!」
 
 と声が掛かった。
 いつの間にかロンがやってきていた。
 「リョウ。結構マジになったんじゃないか?」
 と彼に声を掛ける。
 「手加減してたつもりだったんだけどな♪」
 そしてロンがあたしに向き直った。
 「どうだい、鈍っていた身体は?これだけ動ければ自分のモノになったと感じられるんじゃないか♪」
 自分のモノ…って、この身体は元々あたしのもの…
 じゃない!!
 あたしはリョウだったのよ。トラップでリンの身体になっちゃったけど…
 だけど、これだけ動けるようになると、実際、この身体が元からあたしのものだったような気がしてしまう。
 ロンはその事を言ったのだろう。
 ここでは他人の目があるので、そういう言い方になったのだろう。
 「今日はこれくらいで良いんじゃないか?明日もあるんだ。宿に戻って休んだ方が良い。」
 ロンの言葉に従い、あたし逹は宿に戻っていった。
 

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