(14)たしなみ


 「いかがですか?」
 とリン=リョウの前にお披露目された。
 「良いんじゃないか?これならアーサーも喜んでくれるよ♪」
 「何でここでアーサーの名前が出て来るのよ?」
 「あれ?聞いてなかったかい。このクエストが成功したらアーサーが抱いてくれるって。」
 「なっ…」
 俺はその時点で思考が停止してしまった。
 (リンとアーサーってそういう関係だったのか?)
 (抱く…って、単に体を抱き締めるだけって事…な訳ないだろう!!)
 (アーサーは男でリンは女だ。当然、男と女の関係を深めてゆくのだろう…)
 (リンの深い所にアーサーが突っ込んでゆく。リンは歓喜に悶え嬌声をあげるのだろう…)
 (で、現在の「リン」は、あろう事か俺自身なのだ!!)
 (つまり、本来「男」の俺が股を広げてアーサーを受け入れる…)
 (俺が?…)
 
 「この程度のお直しなら十分間に合いますよ♪」
 「それでは明日は着付けと一緒にメイクもお願いします。」
 と、リン=リョウの声が聞こえた。
 思考停止状態からは抜け出たようだ。が、
 「メイクって何よ。あたしがお化粧もするの?」
 「お化粧しなくて良いのは、男の子逹と泥んこになって遊んでる小さい娘までですよ。レディならたしなみとしてノーメイクは許されません。」
 と店の人にたしなめられてしまった。
 「まあ、泥んこまみれのガキと言えば遠からずだがな♪」
 「あ、あたしだって…」
 
 お、俺は何を口走ろうとしていた?
 単に「ガキ」と言われて反応したとは思えない。
 「女」であることを否定されたからか?
 それは、俺が心の奥では、自分が「女」であることを認めてしまったということか?
 自分を「女」として認めてしまうということは、元に戻ることを諦め始めている?
 なし崩し的に「女」である事を受け入れ、アーサーに抱かれて「女」の快感に酔いしれ、「女」の中に埋没して行くのをよしとしているのだろうか…
 
 否!!
 一刻も早く俺たちは元にもどるのだ。
 その為には…
 
 今の俺に何ができるというのだろうか?
 少なくとも、リンがこの肉体に戻った時に不都合が起きないよう、今はリンのフリを続けるしかない。
 ドレスを着て、化粧して…アーサーに抱かれるのもその内であれば仕方がない。
 元に戻れるまでは俺は…あたしは「リン」なのだ。
 

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