妖怪



「姫は彼がどのような姿に変わっていたとしても愛し続けられますか?」
 
 吟遊詩人の問い掛けに俺は答えることができなかった。彼にとり俺は最強の剣と共に姿を消した恋人を待つ女であった。俺が本当にその立場の女であったのならば、間違いなく愛し続けると即答しただろう。たとえ醜くなったとしても、たとえ人外のものとなったとしても愛し続けるだろう。
 
 
 
 その夜、俺の前に妖怪が立っていた。
 もちろん夢の中の話しである。夢の中の俺は女のままであった。そして目の前の妖怪が俺自身であることは理由もなく判っていた。ドラゴンの力で女ではなく、妖怪に変じた「俺」を女の俺は愛し続けていた。俺は凍り付いたように立ち尽くす彼に近付くと優しく抱き締め、その唇に唇を合わせた。
 舌を送り込み彼の舌に絡めてゆく。彼の舌が反応する。その舌先から徐々に彼の固まりが溶けだしていった。
 
 彼の全身に纏わり付いた触手が蠢きだした。大腿を撫で上げる。腰に回した触手に力が入り、俺の身体が宙に浮いた。触手は彼の身体から離れ、次々と俺に向かって延びて来る。彼を愛する俺はそれらの触手を一切拒まず、されるがままに受け入れるのだった。
 喉元を弄んでいた触手が胸元に這い進んできた。胸の谷間を過ぎると乳房の下に回り込んだ。ぐいと乳房を締め上げる。服が耐え切れずに破れてゆく。もう一本の触手が反対側の乳房を締め上げ、剥き出しにされた乳首を責め始めた。「あぁ♪」俺は艶声を上げていた。既に股間には女汁が溢れている。大腿にいた触手がまだ残っていた下着の布の上から、俺の濡れた股間を突付きだした。俺は身をよじろうとしたが、触手に固定されて動けない。
 触手は更に高く俺を吊り上げた。宙空で寝かされる。ちょうど、彼の顔の高さだった。彼の顔が遠ざかってゆく。俺は天井しか見ることができなくなった。しかし、いつまで目を開いていられるだろうか?ゆっくりと触手に引かれ、脚が開かれてゆく。触手が器用に俺の股間から下着を剥ぎ取ると、俺の女性器が彼の目の前にさらされた。
「ん、あふぁん。」触手とは異なるものが膣口を叩いていた。たぶん、彼の舌なのだろう。それが俺の中に侵入してきた。女の俺は無条件で彼の全てを受け入れるのだった。全ての刺激が快感に変換される。俺は彼のざらざらした舌が膣壁に触れる度に嬌声を上げていた。
 
 
 目覚めた時、俺は全身をぐっしょりと濡らしていた。特に脚は汗とそれ以外の分泌物にまみれている。タオルで汚れを拭き取り、身仕度を整えてゆく。剣を着けようと鞘に手を延ばした。が、鞘の中に刀身はなかった。布団を剥がしてみると、ベッドの中に「棒」が転がっていた。
 刀身がなければ戦うことはできない。俺は戦いの服から休みの時の服に着替え、「しばらく休みにする。」と言って宿を出ていった。休みの時の俺の服装は他の女達と変わらない裾の長いドレスとなる。自分では意識していなかったが、この格好でいると自然に街の女達の中に溶け込んでいた。公園の花壇の花を眺めている。俺は一人の女だった。今の俺なら、吟遊詩人の問いに即座に「はい」と答えていただろう。女の俺にとり男の俺が想い人であることが皆の認識であり、女になった俺は強く意識していないとそれを事実として受け入れてしまうのだ。
 
 俺は花の向こうに彼を見ていた。本当に彼は生きているのだろうかと不安に駆られる。たとえ吟遊詩人の言うように姿が変わっていたとしても自分の前に現れて欲しい。
 
 そして、ぎゅっと自分を抱き締めて欲しいと、俺は自分の腕を自分自身に巻き付けていた。
 

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