俺は毎夜のように女を組み敷いていた。
 俺の抱いていた女は俺自身だった。これは夢の中の出来事である。俺が俺自身を抱くような矛盾も許される。何より俺は男であるが、現時点の実世界での俺は「女」であった。
 
 
 俺の手にした最強の剣は俺を女に変えたまま、自らも姿を変えてしまっていた。
 剣は鞘からその身が抜かれると、その所有者を女に変え、鞘に戻せば元に戻る事になっていた。しかし、今剣は本来の姿より小振りな細身の剣となっていた。元の鞘に戻しても俺が元に戻りることは叶わなかった。俺は女の姿となってはいたが、この剣を抱えて眠ると、夢の中では男に戻るのだ。男の俺は女を抱く。しかし、抱くことのできる女は、常に女の俺であった。別の女を抱いていても、いつの間にか女の俺になっているのだ。だが、女の俺は俺とは相性が良かった。互いに最大の快感を得る事ができるとともに、その快感が長時間持続するのだ。俺は精力がみなぎり、疲れを知らずに何度となく女の膣に自らの精を注ぎ込んでゆく。朝が来て俺が目覚めるまで饗宴が続いてゆくのだ。
 
「姫、この所絶好長が続いているようですね。」吟遊詩人が声を掛けてきた。「そう見えるか?」俺は微笑んで言った。確かに、剣のキレも日毎に鋭さを増し、夢の中だけでも男に戻れているので気分も上々であった。「ところで、」と吟遊詩人が真顔に戻る。「最強の剣について変な噂を仕入れましてね。もしかすると姫の想い人も生きているかもしれませんよ。」
 彼の耳打ちに俺の足がとまった。
「その、最強の剣とは確かに存在するそうです。それも1本や2本でなく複数の存在の形跡があります。しかも、その全てが持ち主とともに消息を断っています。が、その持ち主と言われる者が見付かったとの噂がありました。証拠はないのですが、本人は自分こそが最強の剣の持ち主であったと言うのです。彼女は元々は男で剣の呪いで女にされたと言ってます。彼女の過去は定かではなく、彼女が剣の持ち主の男の過去をよく知っているからと言って彼女が本人であるという証拠にはなりません。それに、妓娼のように女装したからといって男が子供が産める筈もありません。男が本物の女になるなどありえない、眉唾ものだ、としてこの話しは黙殺されていました。しかし、最強の剣の出所がドラゴンであるということが引っ掛かりました。そこで、私は同じような話しがないか探しておりました。」
 俺はとうとう自分の正体が知られるものと覚悟を決めた。
「調べていくと、男から女になったと言われる話しはそこら中に眠っていました。ほとんどが女装して身を隠していたとか、男として育てられた女だったとかでしたが、中には本当に男から女になったというものもありました。そして、最強の剣を手にした事で女に変えられたという話しも確かに存在しました。彼女が本当に最強の剣手にした男であったかは証明できませんが、最強の剣を手にした男達の消息が掴めないのは、本来の姿とは別のものに変えられてしまったからだと推測されます。姫の想い人も姿を変えてどこかにいるかも知れません。」
「姿を変えて…」俺が彼の言葉を繰り返すと、
「ドラゴンの超能力には何でもありに近いものがあります。最強の剣を造る程の力です。剣を通じてその所有者に別の姿を与えるなど容易なことでしょう。男を女に変えるのも、その美醜についても自在、その者を人外のものに変えることだってできる筈です。もし、彼に妖怪の姿が与えらたら容易には人前に出られない筈です。姫の事を想って自ら行方をくらましている事も考えられます。」
 俺は妖怪となった自分を想像してみた。
 そこに吟遊詩人の問い掛けが重なる。
 
「姫は彼がどのような姿に変わっていたとしても愛し続けられますか?」
 

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