雨宿り



 最強の剣は俺の下に戻ってきた。しかし、その変わり果てた姿では俺を男に戻すことは叶わなかった。
 最強の剣を得た者には厄介な代償が求められた。それは最強の剣を抜いた途端、その者の姿を女に変えてしまうのだ。俺もそうして女になったのだ。しかし、訳あって俺はしばらく女のままで過ごさざるを得なかった。そのためか、隠してあった最強の剣はその姿を一片の棒に変えていた。
 
 
 最初は干からびて枯枝のようであったが、水分を加えたところ表面の滑らかな棒になった。大きさも親指ほどだったものが長さ、太さも倍程度になっていた。その後何度か水に浸してみたが、それ以上の変化を見せることはなかった。だが、これが最強の剣であることは確かである。棒は剣の把の雰囲気を残している。何より、俺が気を与えてやると棒は何等かの反応を返してくるのだ。俺は棒を荷物の底に隠し肌身離さず持ち歩いていた。
 
 ある日街道を歩いていると突然黒い雲が天を覆い、瞬く間に豪雨に見舞われた。旅人にとり、雨に打たれて体温を奪われることは致命的であった。街道にいた人々は慌てて木陰に退避した。俺達も木の下に集まり雨滴を避けると同時に違いの体温で温め合った。もちろん俺も男達と身体を触れ合わせた。が、意識は男でも身体は成熟した女であった。男に触れられ、その温もりが肌に届くと俺の中の「女」が徐徐に目覚めていった。
 それと呼応するかのように、棒が身震いを始めていた。皆に気付かれないよう荷物を抱えたが、その為棒の動きは直接俺の下腹部を刺激する形となった。
 
「姫、大丈夫ですかい?大分顔が赤いですよ。」と隣にいた男が言った。「誰か近くで泊まれる所を探してこい!」と言うと「へい。」と一番外側にいた若い男が雨の中に飛び出していった。俺が心配そうにその後ろ姿を見送っていると。「若い奴は体力が有り余っていますから、心配要りませんぜ。」と説明してくれた。程なく帰ってきた若者は手に蓑傘を抱えていた。最初に俺が被り、怪我で体力の落ちている者に廻されていった。
 案内されたのは街道から少し離れた豪農の家だった。男達は納屋に向かい、俺独り母屋に通された。「お風呂が沸いていますから、温まって下さい。」と奥さんに案内された先には湯の張られた大桶があった。湯は桶の縁から溢れ続けていた。この手の風呂は珍しいが、何度か入った事がある。洗い場で汚れを流し、湯の中に浸かるのだ。体中の緊張がほぐれてゆく。
 
 さっぱりして出てきた所に奥さんが待っていた。「嫁にいった娘のものだけど使って下さいな。」と、花柄の着物が渡された。この辺りの民族衣装のようだ。着方が判らないでいると奥さんが手伝ってくれた。その服のまま寝具に入るという。寝室には鍵はなく、慣れない服ではいざと言う時に対応が取れない。枕元に荷物を引き寄せ、細身の剣を脇に置いた。念には念を入れ、荷物の底から棒を取り出すと懐に仕舞った。
 
 久し振りに夢を見た。俺は男に戻り、女を組み敷いていた。女の喘ぎ声が俺の耳に届いていた。俺は女の高まりに誘われるようにして自らの精を迸しらせていった。
 
 
 
 朝日が瞼を射抜いていた。不思議な違和感とともに俺は目覚めた。上半身を起こすと、スルリと俺の身体の内から抜け出てきたモノがあった。それは大腿の内側に触れた。生暖かい粘液に包まれている。
 俺は布団を剥ぎ、着物の裾を捲って股間を覗き込んだ。それは棒だった。
 最強の剣が姿を変えたものである。俺はそいつに貫かれていたのだ。
 昨夜見た夢が思い出された。もしかすると夢の中で聞いた女の喘ぎ声は俺自身のものだったのかも知れない。
 
 俺の手の中で、棒は萎え始めていた。
 

    次を読む     INDEXに戻る