休日



 俺が女の姿で過ごすようになって大分経つ。
 俺が女になっているのは俺の意志ではない。俺の手に入れた最強の剣に付いていた代償のせいだ。この剣を抜いた途端に俺の身体は女に変身してしまうのだ。剣は抜いたままとある所に隠してある。俺が男の姿を取り戻すには、そこに戻らなければならない。俺はいつになったらそこに戻れるのだろうか?
 
 今日は狩りを休みにしている。俺の身体は見た目だけではなく、女としての機能を全て備えていた。妊娠することも可能であり、出産すれば乳房から母乳もでてくるのであろう。しかし、その前提として男との性交が必須条件となる。
 俺の意識は男のままであったが、既に言動は女のものになっていた。男と接する時には、相手を男として意識してしまう。格好良い男の股間が逞しく膨らんでいるのを見て、己の股間を潤ませたのも一度や二度ではなかった。最近では夜中に突然たかぶりを向かえ、自らの指で治めることもある。そんな事のあった翌日は男達が異様に興奮しているのが感じられた。俺が屈強な男達の集団の中にいる唯一の女であることを思い出させる。
 
 このままで良いのだろうか?
 俺は自問してみた。今は良い。今は彼らも自制し、牽制しあって大事に至ることはない。しかし、ひとたびこのバランスが崩れたらどうなるのだろうか?一人、二人であれば何とか切り抜けられるだろうが、集団で来られれば防ぎようもあるまい。
 そして妊娠でもしてしまえば、剣を戻しても男に戻れなくなるのではないだろうか?
 
 
 
「どうかしましたか?姫♪」声を掛けてきたのは吟遊詩人だった。
「浮かない顔をされていますね。」
 うるさいわね!と退けようとしたが、そもそもこの男が俺に付きまとうようになったのは男の俺を探していたからだった筈だ。「いつまであたし達に関っているつもりなの?最強の剣の話しはどうなったの?」と言ってやった。
「姫達とは話が尽きるまでご一緒させていただきたいと思っています。もちろん、最強の剣の方も諦めてはおりませんよ。まあ、最強の剣を手にしたという男の件はその後消息が掴めていませんのでガセだったかもしれません。噂では、その男が持ち去ったと言われていますが実は最強の剣はまだそこに残っているとの噂もあります。」
 どういう事なのだろうか?ドラゴンは最強の剣は俺のものと交換と言っていたが、俺の持っていた剣は他の剣と一緒に床の上に転がしておいたはずだ。それを最強の剣と称するのなら、あの洞穴に行ける程度の男であれば持ち帰れない筈もない。
 俺は俺の最強の剣の安否が気になりだしていた。体調は万全ではないが、即にでも駆けつけたかった。幸にも今回の獲物には相当の懸賞が掛けられていたので男達がしばらくここで遊んでいても問題はない筈である。俺は旅支度をして男達に言った。「あたしはちょっと旅行をしてくる。好きにしてくれていいが、絶対にあたしの跡を付けて来るなよ。」一人でも供を付けさせてくれと懇願されたが、俺の細身の剣を残し必ず帰って来ると誓わされてようやく納得してもらった。
 街の外れで用意しておいた馬に跨る。あれだけ言い含めても追い掛けて来る奴は必ずいる。俺は街道を真っすぐに疾していったが、最強の剣には直接向かわずに追っ手をまくことを第一に馬を駆った。
 
 
 女の身体が軽いのか、馬は思った以上に走ってくれた。しかし、これまでいろいろと回り道はしたが隠し場所からは離れる一方だったので、いくらとばしても1日や2日で走破できるものではない。第一、俺自身の身が保たない。夜には宿を求め、ベットに横になる。
 
 脳裏に残してきた男達の顔が浮かぶ。
 俺の股間が潤んでいた。
 

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