狩り



 俺の後を屈強な男達の集団が付いてきていた。別にパーティーを組んだ訳ではない。男達が勝手に後を付けてくるのだ。俺が本物の女であれば気分も良くなるであろうが、俺が女になっているのは俺の意志ではないのだ。
 
 俺の手に入れた最強の剣には困った代償が付いていた。この剣を抜いた途端に俺の身体は女に変身してしまうのだ。今は訳あって剣を抜いたままとある所に隠してある。俺はそこに戻るまでは女の姿でいなければならない。
 女の俺はかなりの美貌の持ち主だった。加えて狩人としても腕が立つとあれば荒くれ男達を魅了せずにはいられない。俺は男であるから男に言い寄られても嬉しくはない。ついつい冷たくあしらってしまうが、それがまた良いらしい。こいつらが俺の正体を知ったらどんな顔をするのだろうか?と思う半面、正体を知られた後の俺がどうなるのかと考えると次第に剣の隠し場所から足が遠のいてゆくのだった。
 
「姫」と男の一人が声を掛けてきた。「またあいつが来てますよ。」
 あいつとは自称吟遊詩人の男である。「やあやあ皆さんこんにちは。」と疎まれているのも気にせずに近付いてきた。「今日は姫に良い話しを持ってきたのですよ。」いつの間にかこの男も俺のことを「姫」と呼ぶようになっていた。「この先を西に行ったところに、厄介な奴が居るそうですよ。懸賞もかなりの額だそうです。」「で、どう厄介なのかも情報を得ているのだろう?」「もちろんです。」とどこから仕入れてきたのか、詳細なデータが彼の口から澱みなく流れでてくる。
「何でそこまでするんだ?お前は狩人でないから分け前もないんだぞ。」と聞いてみた事がある。彼は「姫の活躍を伝えれば、それだけで金になる所もあるんです。もちろん私の方で多少の脚色は付けさせてもらっていますがね♪」と笑って答えていた。
 
 
 獲物は6匹いた。やはりリーダー格の奴が最も手ごわそうであった。雑魚はあいつらが対応してくれると判っていたので、俺はボスを倒す算段を練った。が、ボスの脇にもう一匹離れずにいる奴がいた。どうやら軍師らしい。吟遊詩人の情報にはなかった奴だ。俺は隣の男に耳打ちした。「わたしはボスに向かうと見せ掛けて隣の奴をやる。その間ボスを牽制しておいてくれ。」俺は奴らの前に躍り出ると、ボスに向かって突き進んでいった。
 
 
「今回は俺が一番だな?」街に入り獲物を換金すると、酒場に乗り込み祝宴が始まる。男達は誰が俺の隣に座るかを協議する。その時の狩りでの功労者が選ばれる事が多い。今回は俺の援護をし、ボスを倒してのけた男がすんなりと決まった。
 酒が注ぎ足され、気分が良くなると多少の事には厭わなくなる。男の手が俺の肩に廻される。その暖かさに気分が和らいでゆく。俺は女のように男にもたれていた。「姫、今回の俺はどうでした?」「あぁ、良くやってくれたよ。」「じゃあ、ご褒美を戴けますか?」俺は男を見上げた。これは最近の祝宴での恒例行事になりつつある。俺は男の頬にキスしてやった。
 
 
 女の身体で過ごしていると、言動も女らしくなってくる。祝宴の翌日は休息日と決めていた。俺はスカートを履き、化粧をして街を散策していた。店先に並ぶアクセサリーの美しさにしばし心を奪われる。目に止まった髪飾りを頭に当てて鏡を覗き込み、自分に似合うか確認した。
 その姿は既に女としてなんの違和感も感じさせていない。俺は自分自身がここまで女に成り切っている事に気付くことはなかった。
「姫」と声を掛けてきたのは吟遊詩人だった。「よろしければ、その辺りでお茶でもご一緒しませんか?」特にする事もなかった俺は「えぇ♪」と返事をしていた。
 

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