俺は最強の剣を手に入れた。だが、その為に払った代償は大きかった。
 
 俺は獲物を前に街道を大きく外れていった。俺は最強の剣を持っているが、今使えるのはもう一本の細身の剣しかない。俺は死角を探すと最強の剣を抜き、そのままそこに隠した。俺は荷物の中から防具と女物の下着を取り出した。
 獲物を前にしてふしだらとは言うな。最強の剣を抜いた途端、俺の身体は女になってしまうのだ。身体に合った服や防具を着けるのは戦士の常識である。脱ぎ終えた服と荷物も隠し、細身の剣を持って立ち上がった俺は誰が見ても疑いのない「女」狩人だった。
 俺は剣を抜き獲物に迫っていった。女の身体では男の時のような力押しはできない。地形を読み最も俺が有利な体勢を作り上げる。そして細身の剣を構えて獲物の前に躍り出る。敵は力があった。男の時の俺であれば互角に打ち合えるのだが、今は女の身体で剣も頑丈にはできていない。俺は敵の攻撃を浮け流し、かいくぐり、敵の急所に肉薄してゆく。そして細身の剣を一尖させると、動きを止められた敵がどうと倒れていった。
 
 
 パチパチパチと手を叩く音と共に若い男が現れた。「いや〜素晴らしいですね。ほれぼれしますよ。」と馴れ馴れしく近付いて来る。
「何だお前は?」「まぁ、吟遊詩人みたいなものです。噂を聞き付けては事の真偽を確かめ、市井の人々にこれを広めるのです。こ度は最強の剣なるものを手にした男の噂を聞き付けやってきましたら、何とそこには妙齢の美女が居ではありませんか。それも、かなり腕が立つ。もしや私の情報に誤りがあり、むさい男ではなく、このようなご婦人が最強の剣を手にしていたとあればそれはそれでおいしい話しになるのですが、貴女のその剣が最強の剣なのでしょうか?」
 俺は奴の話しの半分も聞いてはいなかった。話しが途切れた所で「うるさい。うせろ!」と叫ぶのが精一杯だった。
 奴の姿は消えたが、しばらくは付きまとわれるのを覚悟しなければならない。少なくともこの獲物を換金し、街を出るまでは元の姿に戻ることはできないのだろう。
 俺は獲物の証を切り取り袋に詰め込んだ。いつもの俺であればこんな手間は掛けずに獲物ごと持ち込むのだが、この姿ではそれに相応しいやり方をするしかなかった。街に戻り獲物の証を換金する。奴がしつこく付け回すのが見えている。狩人は獲物を倒した晩は祝杯を上げるのが習わしである。このまま街を抜け出す訳にもいかず、俺は宿を取ると着替えの為の服を調達した。
 
 
 俺は女の服を着て宿の酒場で祝杯を上げていた。予想通りに奴がやってきた。「これはこれは、どこぞのご令嬢かと思いましたよ。」俺は委細構わず「うせろ!」と言ってやった。奴は言葉を続けようとしたが酒場に屯していた屈強な男達に睨まれるとその場を去らざるをえなかった。
 俺は男達と酒を酌み交わしていた。いつものペースで盃を空けていたのだが、思った以上に廻りが速かった。気が付いた時にはテーブルに顔を埋め、意識を朦朧とさせていた。
 男達の話声がした。揉めているようだが、彼らにしては珍しく紳士的であった。血を見るどころか、声を荒げる者もいない。やがて結論が出たようだ。一人の男が俺に近付いてきた。酩酊状態の俺は何も反応する事ができなかった。そんな俺を男は軽々と抱き上げた。俺は女のように身を横たえて抱かれていた。
 
 
「おやすみ。お姫様♪」そう言って男はドアを閉めた。俺は反論するどころか、ベットの心地よさに眠りの中へと引き込まれてゆく。
 階下の酒場では再び男達の喧噪が始まっていた。
 

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