ドレス



 俺は最強の剣を手に入れた。だが、その為に払った代償は大きかった。
 
 今、俺はこの剣を抜けない。いや、抜くことは出来るのだが、抜いた途端に俺の身体は女に変身してしまう。女の身体では筋力が不足し、剣を持つことさえおぼつかなくなるのだ。
 従って、俺はこの剣を抜かない。しかし、狩人の俺が剣を抜かないでは仕事にならない。俺は荷物になるのを承知で細身の剣を持つことにした。最強の剣を持ったまま戦うにはここまで譲歩するしかなかった。しかし、細身の剣は俺の全開したパワーに耐えられない。抑制しようとしても、戦いの中では抑制しきれるものではなかった。
 幾本かの剣を折ったある時、戦いのさ中に背中に剣を固定していた紐が緩み、俺の激しい動きに耐えられず最強の剣は放り落とされてしまった。何かの弾みで剣が鞘から抜け出した途端、俺は細身の剣を構えたまま、自分の身体が為す術もなく女になっていくのを感じていた。幸にも、敵も俺の突然の変容に驚いて動きを止めていた。俺は一気に近付くと敵の急所に細身の剣を突き立てていた。
 
 
 俺は脚を掛けて斃た獲物から細身の剣を抜き取り剣の無事を確かめた。女の身体で初めて剣を振るったことになるが、細身の剣は俺の手に馴染み俺の身体の一部のように扱うことができた。更に女となったことで低下した筋力は細身の剣に掛かる負担を少なくしていた。
 俺の頭に一つのアイデアが浮かんだ。この身体であれば細身の剣を折らずに済む。俺の剣技をもってすれば女の身体でもある程度までは戦える筈だ。女になることには抵抗があった。が、これから失われるであろう細身の剣の数を思うと好き嫌いも言っていられなかった。
 
 俺は女の服を買って宿に戻った。剣を下ろし、服を脱いだ。剣を鞘から抜き取ると、俺の身体は女になった。買ってきた服は少し大きめだったが、着られないことはなかった。細身の剣だけを持って俺は道具屋に向かった。
 女の防具は思ったより揃っていたが、そのどれもがデザイン重視で実用に耐えなかった。ただ一つ目を引いたものがあった。運動性は高く、確かに急所は防いでいる。が、他の部分は何も被われていない。相当腕とスタイルに自信のある女が着けていたものだろう。あまりにも「女」を強調しすぎるため、即座にリストから外された。
 しかし俺の目に適ったものは他になかった。試しに着てみたが、あつらえたようにフィットしていた。店主は店の目玉商品を手放すのを渋ったが、俺以外にこれを買えるような客がいないのも確かである。俺はこれから失われずに済む細身の剣の本数を考えながら店主に金を渡した。
 
 
 
 女の狩人は数が少ない。更に今の俺はその防具が丁度良い程に魅惑的な肢体をしていた。この格好で街を歩いて注目を得ない方がおかしい。ようやくその事に気付いた俺は防具を脱ごうとしたが、着替えるべき服をサイズが合わないからと捨ててきた事を後悔することになった。
 手近の服屋に飛び込んだは良いが、犧の羊を手にした店員に店中の服を片端から試着させられた。試着だけでも遠慮したかったが、いつの間にか店はファッションショーの会場となっていた。
 モデルは俺だった。マダム達が取り囲む中、一段高い通路を往復させられる。もちろん顔には化粧され、そこらじゅうをしゃらしゃらとアクセサリーに飾られている。
 最後に純白のウェディングドレスを着せられてショーは終了した。
 
 控室でぐったりしていると、店員の一人がやってきた。「ありがとうございました。おかげさまで多くの引き合いをいただくことができました。」とお礼のつもりかショーで着た服の一部が詰められた紙袋を渡すと、忙しそうに部屋を出ていってしまった。
 
 
 …このドレス、どうやったら脱げるんだ?…
 
 
 俺は途方に暮れていた。
 

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