「モシモシ?」
耳元で女の声がした。
立ち止まり振り返ってみたが誰もいない。
「モシモシ?」
再び女の声がする。
が、辺りには誰もいない。
(幻聴かな?)
俺は無視して先に進もうとした。
「待って!!」
先程の女の声と同時に右腕を引かれた。
そう、俺の腕には俺を引き止める力が働いている。
が、その力の源となる実体を俺は見出す事ができなかった。
確かに俺は腕に絡みつく女の指の一本一本を感じる事ができた。
しかし、それは目に見る事が出来ない。
俺はもう一方の手で俺の腕を掴む女の手に触れようとした。
俺の左手は女の手のある箇所を通り越し、俺の右腕に触れていた。
その女の手に実体はなかった。
もう一度女の『手』を確かめるように、彼女の手が掴んでいるのと同じ形に掌を合わせた。
その時、ビリッ!!と左掌を電流が流れたような感じがした。
俺は掌を離した。
と同時に俺の腕を掴んでいた女の手の感触も消えていた。
俺を引き止める力がなくなり、俺は取り敢えずその場を離れる事が出来た。
(これは何だったのだろう?)
しかし、俺のこの疑問はすぐに忘れ去られていった。
その夜、風呂に浸かりながら俺はその不思議な事件を思い出していた。
右腕を見る。
(確か、この辺を掴まれたんだよなぁ…)
俺は左手をそこに当てた。
「思い出した?」
あの女の声だ。
そして、右腕がぎゅっと掴まれた。
それは『実体』のある『俺』の左手だった。
俺の左手が俺の意思を離れ、勝手に俺の右腕を掴んでいるのだ。
「ふふふふっ…」
女が藁っていた。
「な、何なんだ?!」
「あたしはユーレイ…」
女が答えた。
「あなたに憑依してるの。」
俺の左手は完全に彼女に操られていた。
「まだ、自由になるのは左手だけだけどね…」
左手は右腕を離すと人指し指で喉元から胸を撫沿っていった。
「…五感は共用しているのよ。」
指先は臍の上を通り越した。
「な、何をするんだ。」
彼女は俺の左手に俺の息子を握らせた。
あわてて右手で左手を押さえつける。
「邪魔しちゃいやよ。」
ビリッ!!と今度は右掌に電流が流る。
俺の右手は左手を開放していた。
俺は両手を彼女に乗っ取られてしまった。
「あぁ…。これがオ・ト・コの感じなのね?」
彼女は俺の息子を弄んでいた。
息子もまた俺の意思を無視して元気百倍になっている。
俺は湯船の中に放っていた。
「ねぇ…」
シャワーを浴び、汚れを流してベットに戻った俺に彼女が声を掛けてきた。
「お礼と言っては何だけど、今度はアナタにイイコトしてあげるわね。」
ベッドに横たわった俺の全身をビリビリと微弱な電気が駆け巡っていった。
俺は本格的に肉体を乗っ取られていった。
何も自由が効かない。
ただ、五感だけが研ぎ澄まされてゆく。
胸を中心に身体が火照ってくる。
両手が股間に伸びる。
膝が立てられる。
掌の中で息子が小さくなっていった。
「こんな経験、なかなかできないわよ…」
下腹部に熱塊が生まれ、どんどん膨らんでゆく…
「あぁ…」
俺の声とは思えない声がする。
「…さぁ、アナタにオンナの悦びを教えてあげるわ。」
彼女の声とともに、下腹部の熱塊が破裂した。
股間に体液が溢れ出てくる。
彼女の右掌が股間に当てられる。
その指が脚の付け根に割り込んでくる。
左手の指が俺の胸の先端を摘んで弄ぶ。
「あ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
オンナの嬌声が響く。
更に悦感が高まる。
右手の指が下半身の突起を刺激した。
俺は頭の中が真っ白になった……
……
朝日の中で俺は目覚めた。
身体の自由は取り戻している。
昨夜のコトが夢であったと思えるように、ベッドの上にはいつもの『俺』がいた。
ただ、シーツの汚れだけがソレが現実の事だと物語っていた。
彼女は成仏したのだろうか?
その日、俺は彼女の『証』を燃やした……