「これが何か判るかな?」
男の指には一匹の『虫』が挟まれていた。
僕は椅子に縛りつけられ、身動きがとれない。
その足元に、男は『虫』を放った。
『虫』は僕の足の甲に乗ると、ズボンの口から脛を伝って昇っていった。
「こいつはね、南米の奥地に生息する面白い習性をもった昆虫なんだ。」
『虫』は太股をピッシリと覆うズボンの下をもぞもぞと這い進んで来る。
「こいつのメスは大型哺乳類の雌の膣の中に卵を産みつけるんだ。」
目を落とすとズボンの布がそこだけプックリと膨らんでいる。
「そして、孵化した幼虫はそこにいる胎児を養分にして育っていくんだ。」
やがて『虫』は股間に達した。
「しかし近くに雌がいないと、仕方なく雄の体に産卵する。」
僕の股間で『虫』が蠢いている。
「その場合、産みつける膣がないので雄の体内に進入し、擬似的な膣を作るんだ。」
!!!!!!!
『虫』が肛門にもぐり込んで来た!!
!!!!!!!
「こいつは、お前の肛門から進入して大腸の壁を食い破り、胎内に入り込む。」
僕の下腹部で『虫』がモゾモゾと動いている。
不思議と痛みは感じない。
「そいつは粘液を出して食い破った所を修復すると同時に、お前の身体を自分の都合の良い形態に造り変えていく。粘液は食い千切ったお前の細胞から遺伝子をコピーして組み込んでいるので、拒絶反応は起こらない。粘液にくるまれたこいつは、もう既にお前の一部となっているんだ。そして、粘液は血液とともに体中に運ばれてゆき、こいつの栄養となる老廃物や不要な脂肪分を持ち帰ってくる。そのときに分泌される成分が更に変化を促進する。そう、お前の身体自身が進んでこいつの望みに応えようとしていくんだ。」
男が話しているうちに、身体が火照りだしてきた。
そして、猛烈な眠気が襲ってくる。
「ひとつだけ良い事を教えてあげよう。」
男の言葉が白い霧の向こうから届く。
「胎児がないと卵は死滅する。つまり、雄の肉体をいくら改造したところで卵が孵る事はないのだ。だから、お前の腹を食い破ってこいつの子供達が出てくる事はないから安心したまえ。ハハハハハ……」
やつの笑い声が谺していた。
目覚めると、そこは僕の部屋のベッドの上だった。
良くない夢を見た後に、良くない事が起こっているとは良くある話だ。
布団をはだけ、パジャマを脱ぎ捨てた。
(……)
僕の肉体に変化はなかった。
窓ガラスに顔を映す。
僕自身に違いない。
僕は起き上がった。
布団の中から珍しい昆虫の死骸が転がり落ちたのも気付かずに…