僕は白い闇の中にいた。
それは霧のような自然現象ではない。ベタのような白だ。
遠くに何かある。
よく見ようと眼を凝らすと、それはスーと近づいて来た。
公園にあるようなベンチだった。
脇にある街路灯に照らし出されている。
ベンチには女の子が座っていた。
制服を着た女子高生だ。
その娘を僕は知っていた。
幼なじみのサヤカだ。
白い空間にサヤカとベンチと街路灯が浮いている。
それらが宙を飛んで僕の目の前に降り立った。
ベンチの後ろからサヤカの背中を見ている。
(サヤカちゃん)
声を掛けようとすると、
「サヤカ。」
男の声がした。
サヤカが顔をあげる。
その視線の先を僕は追っていった。
白い空間にじわじわと人影が滲み出てくる。
それは学生服の男の姿となった。
「待った?」
男が聞く。
答える替わりに僕は首を横に振っていた。
僕はベンチから立ち上がった。
街のざわめきが聞こえる。
白い空間は一瞬のうちに様々な色に満たされた。
しかし、それも短い運命だった。
彼の顔が間近にせまる。
僕は瞼を閉じていた。