「もう嫌だ。カイザー総統は何故このような美意識のかけらもない怪人ばかり作らさせるのか?」
叫んでいるのは、悪の秘密結社「ザダーク」の科学者ドクトル=プロフェッサー教授であった。
壁に並べられた歴代の怪人達の写真を極力見ないように、部屋の中を叫びながらうろつき廻る彼の元に、白衣を着た結社の構成員が担架を押して入って来た。
黒いマスクをした構成員は写真とメモを渡した。
「今度はバッタ男か?」
うんざりとした彼の耳元に構成員の一人がぼそぼそと補足した。
「バッタではなく、イナゴだそうです。」
「う〜〜〜〜〜!!」
ドクトル=プロフェッサー教授は大きく唸っていた。
「教授、何ですかな?これは。」
発注したイナゴ男とは似ても似つかないモノを見て、カイザー総統はドクトル=プロフェッサー教授に詰め寄った。
「新しい怪人です。どうです?美しいでしょう?」
「怪人に美しさなどイラン!!」
カイザー総統の瞳が輝くとドクトル=プロフェッサー教授の身体が木っ端微塵に吹き飛んでいた。
「コレはどおしましょう?」
構成員が恐る恐るカイザー総統に尋ねた。
「目障りだ。汚らわしい。何処かに捨てて来い!!」
大和猛はふらふらと街中を歩いている自分に気がついた。
(確か、部屋でゴロゴロしていたら変な黒マスクの男達が押し入ってきたと思ったが…
俺は何でこんな所を歩いているのだろうか?)
辺りを眺めて、ここが自分のアパートからそう遠くない場所である事が判った。
そこに、キキキキッとタイヤの鳴る音が響きわたった。
見ると近くの幼稚園の送迎バスが広い路を大きく蛇行しながら迫って来た。
猛の眼は、バスの後ろに追いやられ泣き叫ぶ園児達と、彼らを必死で守ろうとするお姉さんを捉えていた。バスの中央には怪しげな影。そして、運転席でハンドルを握っていたのが、あの黒マスクの男だった。
猛の怒りが頂点に達した。その時、
猛の身体を七色の光が取り囲んだ。
猛は無意識の内にバスの前に回り込んでいた。
それを見てバスが止まった。
「お前は何者だ?」
バスの中央にいたモノがいつの間にか屋根の上に立っていた。
グロテスクな怪人の問いに猛の身体は、無意識の内に動いていた。
内なる衝動に突き動かされ、決めポーズが取られる。
「美少女戦士。ラヴリー・ピンク!!」
猛の口から燐とした少女の声が響きわたった。
バスのフロントガラスに彼の姿が映り込む。
それは、レオタードをベースとした過激なコスチュームに身を包んだ正義の美少女戦士であった。
少女は可愛らしい決めポーズを解くと、怪人に向かって飛んだ。
手にしたバトンが2度3度と怪人を打ち据える。
怪人の攻撃はパターンを読んだかのように難なく交わしている。
戦いの隙を点いて園児達が逃げ終わったのを眼の端に捉えると、少女は必殺技の体勢に入った。
「必殺!ラヴリー・ストーム!!」
バトンの先から光線が迸り、轟音と伴にバスが爆発する。
黒煙が晴れ渡ると、そこには怪人もバスも跡形もなくなっていた。
ふと、猛は我に返った。
(俺は何をしていたのだろう?)
視線を落とすと、腰のまわりにヒラヒラのスカートの端が見えた。
(何という恥ずかしい格好をしているのだ?)
猛は一目散にその場から逃げだした。
猛はアパートに戻っていた。
姿は美少女戦士のままだった。
洗面所の鏡に写してみる。
(俺好みだ)
鏡の中で、その顔がニヤついていた。
猛はカーテンを締めドアの鍵が掛かっている事を確認すると、万年床の上に胡座をかいた。
猛の指先が膨らみかけた胸の先端に触れると、
「アアン」
少女の喉から愛らしい吐息が漏れる。
気を良くした猛は少女の肉体を弄び始めた。
「アンアンアン」
声を上げて少女が悶える。
猛は気付かなかったが、天井近くを奇怪な物体が浮遊していた。
それは首だけになったドクトル=プロフェッサー教授だった。
「流石だ。私の作った怪人は感度が良い。」
万年床で身悶える少女の姿を舌なめずりして見下ろしていた。
「よしよし。では、これはどうかな?」
教授の意を受けたかのように、床の上に転がっていたバトンが浮き上がり、ゆっくりと少女の上に舞い降りて行く。
「アッ!イヤッ!!」
猛は思わず叫んでいた。
バトンはそれ自体が意志を持つかのように、少女の肉体を愛撫してゆく。
「ア〜〜〜〜〜!!」
少女の身体が痙攣する…
気を失った少女の上に首だけのドクトル=プロフェッサー教授が舞い降りてきた。
「この調子で来週も頼むぞ。正義の美少女戦士君。」
教授の姿が空気の中に解けるようにして消えるのと同時に、少女の身体が七色の光に包まれた。
万年床の上にはくたびれた猛の肉体が転がされていた。