夢 な ら さ め て !!



 ここは夢の中。
 僕は見知らぬ男に抱かれていた。同性だからという嫌悪感はなく、逆に満ち足りた愛に包まれている。互いの唇を奪い合う。肉体全体を擦りつけ合う。太股に男自身を感じる。僕は身体を移動させソレの先端を口に含むと、男は僕の股間に舌先を這わせる。僕の体内から熱いモノが溢れ出てくる。男はそれを余すところなく嘗め取ってゆく。僕はさらに奉仕を続けるが、男の舌の動きにしばしば中断させられる。僕はソレから唇を離すと悦楽の嬌声を上げていた…

<●>
 目覚めると、そこは相も変わらぬ薄汚れたアパートの一室。ゴミの山に囲まれた万年床の中にむさ苦しい男が横たわっている。それが『僕』だ。むっくりと起き上がり、台所の流しに洗面器を置き水を張る。顔を洗い眠気を吹き飛ばす。トレンディドラマの様に眠気をシャワーで流すなどという気障な事とは一切縁がない。電気剃刀で髭を剃り、ブラシで2,3度頭を撫でる。寝癖など気にしなくなって既に久しい。単調な一日が再開されるのだ。
 満員電車に揺られながら、最近良く見る『夢』について考えていた。夢は僕の願望の現れなのだろうか?そうは思っていなくとも、僕の深層心理の奥底に同性愛のかけらが芽生えているのだろうか?それとも、正夢?予知夢?近い将来『夢』が『現実』となって僕の前に繰り広げられるのだろうか?
 考えながら僕は吊り革に掴まったまま、うとうとと睡魔に引きずり込まれていった。

<○>
 もそもそと、お尻をまさぐる指先があった。明らかに目的をもった動きである。僕は一瞬にして覚醒した。窓ガラスに写る社内の光景からどんな奴の仕業か確認しようとした。が、窓ガラスに僕の姿はなかった。
 ガタンと電車が大きく揺れた。奴の指は大胆にも尻の割れ目から股間に指を差し込んできた。奴の指が僕の股間を我が物顔で俳諧している。振り向いてもそれと判るような人物はいない。吊り革から手を離し奴の腕を捕らえようとすると、スッと消えてしまう。が、吊り革を掴みなおすと、再び奴の指が忍び寄ってきた。
 電車が駅に滑り込むと、僕は人々を押し退けるように戸口に向かい、ホームに降り立った。ドアが締まり、電車が動きだす。(?)再び先程の疑問が浮かんでくる。動きだした電車の窓にホームが写っている。が、僕の姿が見当たらない?
 電車はホームを離れていった。降りた人々は改札口へと去っていき、ホームには次の電車を待つ人がちらほらといるだけ。ベンチの脇に鏡を見つけた。僕は鏡に近づき、覗き込んだ。
 やはり、鏡には僕の姿は写っていなかった。替わりに女子大生くらいの女の子の顔が写っていた。ふっくらとした面立ち、うっすらと化粧をしている。二重瞼は生来のものらしい。髪の毛は眉毛の線で綺麗に切りそろえられている。見知らぬ女の子が僕をじっと見つめている。
「どうしました?」
 声を掛けられ振り向くと男が立っていた。制服を着ている。駅員のようだ。
「気分が悪いようでしたら事務室にお連れしますが?」
「い、いえ。大丈夫です。」
 そう言って、俺はそくさくとその場を離れた。どこか一人静かになれる所は?人の流れに流されながら考えていると、コンコースに喫茶店を見つけた。ゆったりとくつろげる類のものてはないが、テーブルには椅子が付いていた。席に付きコーヒーを頼んだ。手にしたバッグを膝に乗せ…
 僕は男の座り方をしていた。慌ててひざ頭を合わせた。これが窓に向かったカウンター席でなくてよかった。この店は通路に面してテーブルの下までガラス張りになっている。スカートの中が外から丸見えになる所だった。
 気を取り直してバッグの中を改める。化粧ポーチ、ハンカチ、ティッシュ、定期入れ、財布… 財布の中には多少の金額が入っていた。コーヒー代は十分に賄える。定期に記された駅名は僕のと同じ、まだこの駅が区間内であることを示していた。『ミムラ トモヨ 21才 女』これが定期から得られた情報。さらに、定期入れの中には学生証が入っていた。『三村 友代』漢字で書くとこうなる。城東大学の学生だ。それにしてはバッグの中には教科書もノートも入っていない。通学途中のように見えたのは気のせいか?
 コーヒーを啜ると白いカップに口紅の後が残っていた。化粧ポーチからコンパクトを取り出し、もう一度自分の顔を覗き込む。これは『友代』の顔。にっこりと微笑んでみた。
 さて、どうしたものであろう。僕は三村友代という別人になってしまったようだ。では今、『僕』=小沢順一はどうなっているのだろう?幸いにも友代の定期は僕自身のものと同じ区間となっている。このままUターンして僕=小沢順一のアパートに戻るのに何の不都合もない。早速と、バッグにポーチを放り込み席を立った。
 下りの電車はすぐにやってきた。通勤・通学とは反対方向なので、車内はガラガラ。座席にも空席が目立つ。しかし、新米『女』の僕としてはなるべくボロを出さないように、扉の手すりにつかまって立っていた。扉の窓から外を見ていると背後にもぞもぞの悪寒のようなものが感じられる。振り向くとガサリと音がする。そこには競馬新聞を広げたオヂサンがいた。悪寒はこいつの視線か?何事もなかったように視線をそらし、中吊り広告を見ているとチラチラと新聞の影からオヂサンの頭が見え隠れする。しばらくそうしていると、再び先程の悪寒が忍び寄ってきた。窓ガラスに車内が写しだされると、案の定、競馬新聞の向こうからオヂサンが僕の方をジロジロ見ている。自分も『男』だっただけにナニを考えているかは手に取るように判る。判ってはいても、この悪寒はどうしようもない。これが『女』なのだろうか?僕は只々じっとこの悪寒に耐え続けるだけだった。
「富士見台、富士見台です。」車掌のアナウンスがスピーカから流れてくる。僕はホットして扉が開くのを待った。

 アパートに辿り着く。表札には『小沢順一』とある。『僕』の部屋だ。しかし、今の僕手にあるのは三村友代の部屋の鍵である。これでは中に入れない。思案に暮れていると、ドアの向こうでゴソゴソ音がしている。カチリ、ジュボッ。コンロに火が付けられた?誰かが中にいる。それは僕自身なのかそれとも別の誰かか?しかし、中に人が居るという事は呼べば僕を中に入れてくれるかもしれない。
 意を決し、僕はチャイムを鳴らした。
 カチャリと食器の音。
 おずおずとドアに近づく足音。
 ガチャガチャと慌てたようにチェーンを外す音。
 扉が開く。
 男が立っていた。
 Tシャツにトランクス。僕がいつも寝ている時と同じ。
 既にそうであると半ば心に決めていたとおり、男はこの部屋の主=小沢順一。
 すなわち『僕』であった。

<●>
 僕は寝覚めのインスタントコーヒーを煎れるべくヤカンを火に掛けた。
 Tシャツにトランクス。僕がいつも寝ている時の装いだ。
 着替えを揃えようと台所を出ようとした時、ピンポンとチャイムが鳴った。
 扉を開けるとそこには女性が一人たっていた。
 その顔には見覚えがあった。
 忘れもしない。ついさっきまで見ていた『夢』に出ていた。
「僕?」
 彼女は僕自身。僕は彼女だった。では、今の彼女は?
 『夢』と『現実』が交錯する。
 取り合えず、彼女を招き入れる。
 僕は食器戸棚からマグカップを2つ取り出し、インスタントコーヒーを煎れた。カップの一つをこの部屋唯一の椅子に座らせた彼女に手渡す。僕は残ったもう一つのカップを持って万年床の上に座った。

<○>
 マグカップの中のコーヒーから目を離す。僕の前に『僕』がいた。万年床の上にあぐらをかいている。僕自身は椅子に腰掛けている。
 また『夢』を見ているのだろうか?
 彼が僕を見ている。
「君は『僕』か?」
 彼の口から言葉が発せられた。僕は頷いた。確かに僕は小沢順一である。そして、彼もまた『小沢順一』である。だから、彼と僕とは同一人物に他ならない。
「そして、君は『三村友代』でもある。」
 またも、僕は頷いた。これが『夢』の続きであれば、僕の持っていたバックの中には『三村友代』の定期と学生証が入っているはずだ。
「で、君もまた『僕』なんだね?」
 僕は友代の声で問い返した。
「ああ」
 つまり、『僕』が同時に二人存在している事になる。だからこれは『夢』なんだ。
「だが、僕にとってはこれは『夢』ではなく『現実』なんだ。今、僕の目の前に『僕』を称する女性が座っている。彼女は僕の見た『夢』に出てきた女性と同じだった。『夢』の中では僕は彼女だった。だが、今は『現実』であり、僕は自分自身としてしっかりと存在している。だから、彼女は僕ではない。」

<●>
 再び、僕は僕自身に戻っていた。
「で、今の僕は『夢』の中なのか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。」
 やはり彼女は『僕』なのだろうか?可愛らしい女性の声で男の喋り方をする。
 じっくりは彼女を見てみると、実は僕の好みのタイプなのではないか?今、僕は女の子と二人きりになっている。他に誰もいない。彼女は誘うようにひざ頭を開いている。短いスカートの奥に淡いブルーのショーツが覗いている。
「ではこれを『夢』の中としよう。」

<○>
「そう、なんでもありの『夢』の中だ。」そう言ってカップのコーヒーを飲み干す。
 立ち上がり、僕の手からカップを取り上げ、それもまた飲み干した。
「何?」と聞くまでもない。彼のやろうとしている事は手に取るように判っている。一瞬前まで僕がやろうと思い立った事を実行に移しているだけだ。脇の下に腕を通し、少し持ち上げるようにして布団の上に押し倒す。スカートの中に掌を入れショーツを引き擦り降ろす。強引に唇を奪う。
 彼は俺が考えていた事をその通り実行していった。
 俺の顔が間近にある。俺の舌が絡んでくる。服の上から乳房を掴まれる。彼の硬くなったペニスがトランクス越しに太股になすり付けられる。(そう、どうせ『夢』中だ。)と、成り行きに身を任せる事にした。

<●>
 彼女に抵抗する気配はない。彼女もまた僕自身であるからそれも当然である。なら、こんなレイプまがいの事はする必要もない。僕は動きを止め、立ち上がるとTシャツとトランクスを脱ぎ裸になった。
 彼女もまた服を脱いでいる。ブラジャーを外すと形の良い乳房とツンと突き出た乳頭が現れる。膝に絡まっているショーツを取り、スカートを脱ぐと彼女もまた裸となった。彼女はその裸体を布団に横たえる。

<○>
 間近に僕自身を見る。これが僕の胎の中に入ってくるのだ。好奇心半分、怖さ半分で布団の上でじっとまっていた。すでに自分自身ではどうすることもできない。彼の行為を受け取るだけだ。
 『男』の肉体が伸しかかってくる。
<●>
 彼女は目を閉じた。
 肉体を重ねる。
 指先で股間を愛撫する。
<○>
 体の中から溢れ出てくるものがある。
 それは股間をじっとりと濡らす。
 さあ、いらっしゃいU
<●>
 指先に愛液が絡みつく。
 よし、いくよ。
<○>
 痛!!
<●○●○>
 これは夢?現実?
 痛みのある夢なんてあるの?
 夢ならさめて!!



 ここは夢の中。
 あたしは見知らぬ男に抱かれていた。あたしは今、満ち足りた愛に包まれている。
 互いの唇を奪い合う。肉体全体を擦りつけ合う。太股に男自身を感じる。あたしは身体を移動させソレの先端を口に含むと、男はあたしの股間に舌先を這わせる。あたしの体内から熱いモノが溢れ出てくる。男はそれを余すところなく嘗め取ってゆく。あたしはさらに奉仕を続けるが、男の舌の動きにしばしば中断させられる。あたしはソレから唇を離すと悦楽の嬌声を上げていた…


−了−


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