変 身



 僕は裏庭の茂みに隠れて息を殺していた。
 ドキドキと音を立てる心臓の鼓動がうるさかった。
「いたか〜?」
 奴らが僕を探している声がする。
 一旦は近づきかけたものの、やがて遠のいていった。
 ほっと胸をなでおろした。その直後、ガラガラと頭上で窓が開いた。
「そこにいるのは2組の鈴木君?」
 女性の声がする。
 振り仰ぎ、唇に手を当てる。
「し〜〜〜っ」
 彼女はだまって首を傾げた。
 じっと耳を澄ます。
 が、奴らの近づく気配はない。どうやら聞かれずに済んだようだ。
 ほっとすると同時に思い出して上を見ると、未だに彼女の顔がそこにあった。
「こっちにいらっしゃい。」彼女は全て判っているといったふうに優しく微笑みかけてきた。
「そんな所だと見つかるのも時間のもんだいよ。」
 僕は立ち上がり、彼女の開けた窓の枠に手を掛け、その部屋に文字通り転がり込んだ。
 その部屋は保健室だった。
 ぼろぼろの僕の姿を見るなり、彼女は職務に燃えだした。
「どこか痛い所はない?服を脱いでそこのベットに横になりなさい。」
 またたくまに診察を終え、2〜3箇所の擦り傷に消毒液を塗り込んだ。
「肉体的にはそれほどのダメージはないようね。問題はそれ以外にありそうね。何があったの?いじめ?ご両親には相談したの?」
「うちの親なんかダメだよ。世間体しか気にしていない。いじめで学校を変えるなんてプライドが許さないのさ。」
「じゃあ、あとはあなたが変わるしかないわね。」
「変わりようなんてないよ。あるとすれば首を吊って死体に変わるぐらいだろ。」
「いいえ、無いことは無いのよ。あなたさえOKすればすぐにでも変われるわ。」
「何かスポーツしろとか、友達をつくれとか言うんじゃないだろうね。そんな事は聞き飽きているよ。」
「諦めているの?このままいじめられ続けていいの?」
「そりゃあ、いい訳ない。けど、どうにもならないんだ。だから卒業まで我慢すればいいんだ。」
「けど、あたしの言うことを聞けば我慢しなくて済むのよ。どお?」
「本当?」
「そう。ただし、条件があるの。」
「条件?」
「今は詳しいことは言えないわ。だけど、基本は一つ。つまり、あたしの言うことには絶対服従してもらうこと。いい?」
「わかった。今の状況を変えれるのなら何だってするよ。」
「OK。じゃあ早速とりかかるわね。こっちへいらっしゃい。」
 僕は脱いだ学生服を抱え、彼女についていった。
 隠し扉から地下室に降りてゆく。
「学校にこんな場所があったんだ。」
「だれも知らない事よ。あたしとあなた以外には誰も知らないわ。じゃあ、服を全部脱いでこれに着替えなさい。」
 受け取ったものを見て僕は驚愕した。
「これは?」
「そう、セーラー服よ。うちの学校の女生徒の制服。」
「まさか、これを着るだけで終わらせようって言うんじゃないでしょね。これで終わったらいじめは益々酷くなるに決まっている。」
「あたりまえでしょう。こんなんで済んだらあたしの立場もないわ。さあ、早く着替えなさい。もちろん下着もよ。」
 着替えが終わるとふかふかのソファに座らされた。目の前には全身を映し出す鏡が置いてあった。鏡に写る自分の姿にはうんざりした。セーラー服を着た男子生徒の滑稽さがストレートに表現されているのだ。
「腕を出して。」
 どこから取り出したのか、彼女は手にした注射器の針を僕の腕に差し込んだ。
「さあ、これであなたは変われるのよ。」
 ぼーっと遠くなる意識の彼方で彼女の喋る声だけが明瞭に響いていた。



 気が付いた時、僕はソファに座ったままだった。
「どう、気分は?」
「なんか身体中がギシギシするような感じです。」
(?)それ以外にも違和感があった。答えながらも益々違和感が増大している。
 その一つは声だ。僕の喋っている声がいつもと違う。それは1オクターブ高い女の子の声に近い。
 ふと、目の前の鏡に気づく。鏡には僕が写っているはずである。確かに先程着せられたセーラー服を着てソファに座っているが、あの滑稽さが消えている。鏡の中にいるのは僕ではない。全くの別人だった。
「可愛いでしょう?」
 そういって彼女は僕の隣に腰を降ろした。
 確かに鏡には可愛らしいセーラー服の少女が写っていた。
「これが僕?」
「そう。あなたは女の子になったの。だから『僕』なんて言ってちゃだめよ。」
 彼女は僕を抱き抱えるように身体を密着させる。
「可愛らしい唇、瑞々しい肢体、発達中のバスト。けど、ここはもう一人前の『女』のはずよ。」
 唇で僕の口を封じ、背中から回した手でセーラー服の上から乳房を鷲掴む。残った手をスカートの中に伸ばし、股間にぴったりと掌を押し当てる。
 確かに僕が女の子であることを実感させる。
 唇を割って彼女の舌が進入してくる。僕には抵抗は許されない。
 彼女の指が割れ目を押し広げる。僕の肉体は素直に反応する。
 スカートは捲れ上がり、はしたなくも両脚を広げ股間を露にする。
 鏡にはセーラー服の女の子の痴態が映し出されている。
 彼女の慣れた手技に初めての女の子は成す術もない。

 僕はあっと言う間に果ててしまった。



 次に気付いた時は、既に愛撫の痕跡は跡形もなく消されていた。服の乱れも綺麗に直されている。
「いいこと?これから毎日、放課後にはあたしの所にいらっしゃい。いいわね。」
 そして僕は開放された。
 僕はもう今までの僕ではない。

「いたか〜?」
 前から奴らがやって来る。
 すれ違い様、一瞬奴らが立ち止まる。
(ばれた?)
 が、そのまま走り去っていった。
「今の女、誰だ?可愛いじゃん。」
 遠くから奴らの声が聞こえた。

−了−


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