風の音が谺する。
僕は谷の背にしがみつき、じっと耐えている。
見上げれば、雲が星明かりに灰色の姿を現している。
雲はゆっくりと流れている。
風は谷間を吹き過ぎてゆく。
目に見えるものは無機質の岩肌。
草はおろか、苔さえも生えていない。
全体が一つの結晶で出来ているかのように、硬く、冷たい。
手に掴んだ瘤が崩れない代わりに、爪を立てる所もない。
片足が辛うじて岩の窪みに掛かっている。
雨が降ってきた。
見上げると空は雲に覆われ、真っ暗になっていた。
遠くで雷鳴が轟く。
雨滴は冷たく、固い。
氷の針となって、僕の全身に突き刺さってくる。
雨は滝のように降り注ぐ。
巨人の豪吠を従えて、水の壁が押し寄せてくる。
さっきまで風の通っていた足下が急流に変わる。
雷光が水面を跳ねる。
僕は谷の背にしがみつき、じっと耐えている。