俺は実験の最終調整を行っていた。
俺が研究しているのは、いわゆる「人体電送装置」である。遠隔地に瞬時に移動できる夢の装置だ。これまでに鉛筆等の無機物に始まって昆虫、爬虫類、そしてモルモット、犬猫、猿と実験は成功し、最初の人体実験を明日に控えていた。
俺は明日の実験に備え、装置の最終調整をしていた。
そこに、明日の被験者である江藤洋一が研究室に入って来た。
「これで明日、飛ばされるんだな。」
そう言って制御装置の前の椅子に腰掛けた。
「危ないからその辺のスイッチには触れないようにな。」
俺は装置の中から洋一に注意した。
「判った。」
洋一はしぶしぶと制御装置の前を離れようとした。
その時、彼の指がSTARTキーに触れた。
バシッ!!
と音がして、調整中の装置が作動した。
本来であれば、被験体は装置の中で分解され、指定された場所でその肉体が再構成される事になっている。
が、調整中のため場所の指定がクリアされていた。
俺は装置の中で分解されていく俺の肉体を見ていた。
俺は肉体を失ったが、その存在はまだ装置の中にあった。
魂だけの存在というものがどういうものか知らないが、今の俺がまさにそういう状態だった。
異変に気がついたのか、洋一が装置に近づいて来た。
ドアを開け、中を覗き込んだ。
洋一の頭が俺の胸の辺りを貫いた。
その時、俺の視界が揺れ動いた。
俺は装置の中を覗き込んでいた。
状況を認識するまでにしばらくかかる。
装置を覆うガラス板に俺の顔が写った。
俺は洋一になっていた。
俺は制御装置の前で何が起こったのか解析を始めた。
が、俺の記憶はあっても洋一の脳の演算能力では解析しきれない。
1たす1の答えを出すのに2〜3分かかっているような感じがする。
とりあえず必要な記録を吐き出させ、時間をかけてでも俺の肉体を復元しようと考えた。
が、いかんせんこれは洋一の肉体である。
いつの間にかうとうとと制御盤の上で寝込んでしまっていた。
肩を揺り動かされ、俺は目覚めた。
周りには研究室の面々が勢ぞろいしていた。
「ねぇ、新堂さん知らない?」
俺の肩を揺さぶっていた研究室の紅一点、小野めぐみが聞いた。
新堂浩司とは俺の事である。
「奴の事はいい。予定通り実験を始めよう。」
室長の池田の言葉に皆が行動を開始する。
俺は江藤洋一として装置の中に立たされた。
ガラスの向こうに制御装置が見える。
池田を始め、研究室の面々が固唾を呑んで見守る。
「転送先の設定が完了しました。」
「開始」
池田の声とともに装置が作動を始める。
「お〜〜!!」
どよめきが沸き起こる。
ガラス越しに宙空に現れる洋一の姿を見ていた。
なんだか知らないが、俺は洋一から分離していた。
再び肉体のない状態の俺…
洋一の周りでは昨日からの記憶のない洋一から俺の事を必死に聞き出していた。
その輪からめぐみが抜け出して来た。
ドアを開ける。
めぐみが装置の中を覗き込む。
彼女の頭が俺の胸の辺りを貫いた。
再び、俺の視界が揺れ動いた。
俺はめぐみになっていた。
いろいろ不審な点はあるが、実験は成功した。
俺たちはささやかな打ち上げの宴会を行った。
もちろん俺は小野めぐみとして参加した。
データは揃っている。いまさら慌てても始まらない。と、俺はめぐみに成りすます事にした。
「今日はどうしたの?元気ないんじゃない?」
同僚の荒木が声を掛けて来た。
「そ、そんな事ないです…」
そして、めぐみが荒木の事をどう呼んでいたかを思い出す。
「…荒木先輩。」
俺は努めてめぐみとして振る舞った。
みんなにビールを注いで廻る。
二言三言話を交わす。
めぐみが復活した事で宴会は盛り上がった。
俺もその雰囲気に次々とグラスを空けていった。
が、俺の身体とめぐみのとでは造りが違った。
いつもの調子で呑んでいると、気がついた時には酔いが廻りきっていた。
所々記憶が抜け落ちている。
いつの間にか宴会はお開きとなっていた。
みんなに囲まれ、夜の街を歩いていた。
カラオケで歌っていた。
タクシーの中?
記憶が飛んでいる。
俺はベッドに寝ていた。
天井には豪華なシャンデリアが下がっている。
ホテル?
誰かが俺の体を触っている。
俺は全裸になっていた。
お腹の上に掌が触れている。
濡れたざらつく物体が脚を這っている。
首を持ち上げると白髪の頭が見える。
彼は舌先で俺の脚を嘗めていた。
池田室長?
舌先が大腿を昇ってくる。
俺は自分が小野めぐみである事を、そして自分が女である事を思い出した。
池田とめぐみが男と女の関係を持っていたとは信じられなかった。
が、彼の舌はそのままめぐみの秘部に突入する。
「アフン」
俺の喉からめぐみの甘い吐息が漏れる。
池田は体勢を変える。
俺の脚の下にもぐり込み、両脚を抱え上げた。
股間が開かれ、彼の目の前に秘部が晒される。
そこに再び舌先の攻撃が加えられる。
「アアッ」
俺の声はオンナの喘ぎ声に変わっていた。
股間が彼の唾液と、俺の体から溢れる蜜でぐしょぐしょに濡れていった。
「アアッ、アアッ」
俺はその初めてで強烈な刺激に首を左右に打ち振っている。
それがオンナの快感である事に、すぐには気が付かなかった。
池田が股間から顔を離した。
彼の顔が間近に迫る。
「今日はいつもより感じているみたいだな。」
「池田…室長…?」
俺の声はか細く、震えていた。
「おやおや、ここでは別の呼び方をするんじゃなかったのかい?」
池田の顔が迫ってくる。
俺は唇を奪われた。
彼の舌が差し込まれ、俺の舌に絡みついてくる。
俺は池田の腕に抱き締められた。
「いつものように、パパと呼んで欲しいなぁ。」
俺は自分がめぐみなのだと言い聞かせる。
「パパU」
「可愛いな、めぐみは。じゃあご褒美をあげよう。」
池田の体が俺の上にのしかかってきた。
暫くの後、俺は嬌声をあげていた。
俺はオンナの快感に我を忘れた。
そして、俺は幾度となく絶頂を迎えた。
一夜が明けた。
俺は研究室に戻って来た。
制御装置には俺が消えた時の記録が残されている。
これを解析すれば俺は元に戻る事ができる…かも知れない。
しかし、何でそんな事をする必要があるのか?
俺は…いや、あたしは小野めぐみ。
それで良いじゃない?
それに、昨夜の快感は男では決して味わえないものなのよ。
本来のめぐみには悪いけど、これからはあたしが小野めぐみよ。
これって、女のワガママかしら?
あたしは制御装置から記録を呼び出す。
そして、ためらいもなく「削除」のボタンを押した。
さようなら、『俺』…
「めぐみ君。」
パパ…じゃない、室長の声がした。
あたしは白衣の裾を翻して制御装置の前を離れて行った。