覚醒

4.「ミネルバ」



 
 
俺の目の前に「女」が立っていた。
(貴女、装置に取り込まれてしまったのね?)
女が声を掛けてきた。
 
俺は「装置」とシンクロしていた。
俺の頭に浮かんだイメージは「装置」が見させているものなのだろう。
 
俺は「そうだ」と答えようとしたが、どう伝えれば良いか戸惑った。
(そのまま考えるだけで良いわ)
つまり、俺の考えた事は全て筒抜けと言うことか?
(まあ、そう言うことね。ワタシ達は「装置」を介して一つに融合してしまっている訳。もっとも「装置」は機械だし、ワタシも既に死んでいる人間だから、人格として存在しているのは貴女だけ。アタシも結局は貴女の一部でしかないの。だから、貴女の心の声を聞いているのは貴女自身でしかないから、恥ずかしがるコトなんて何もないのよ♪)
…何か論点をずらされたような気がする…
それよりも、君の正体を教えてくれないか?今の装置に取り込まれた状態ではなく、君が君として生きていた時の事だ。何故あんな辺鄙な所で廃棄物に囲まれていたのか?何故この巡洋艇を持っているのか?
(…ワタシがあそこに居たのは死ぬ為でした)
何故?
(それは、ワタシが装置に取り込まれてしまったから…貴女も知っている通り、この艇は軍艦として造られていました。そこに求められるのは、迅速な指揮命令系統です。ワタシのように、艇と一体となっていると言う事は、それだけでアドバンテージがあります)
俺は「俺」の艇が破壊されたシーンを思い出していた。
(お父様は、ワタシが戦争の道具にされない為に、この巡洋艦の身代わりを造り、この艇をただの民間船として秘密裏に出航させてくれました。けれど、ワタシには判っていました。お父様はワタシを生かすためではなく、人と艦が一体となれる技術があるという事実を隠すためにワタシを逃がす…追放したのです)
でも、何で死のうと?
(ワタシは他人に知られてはいけない存在なのです。この広い宇宙で誰とも会うことを許されず、朽ち果てるまで身を隠し続けることに耐えられなくなってしまったのです)
俺は彼女が泣いているように感じていた。
(貴女に見つかったのは想定外でしたが、ワタシは誰にも見つからないように、辺境の宙でゴミの山の中に埋もれて、自らの命を絶ちました)
あのベッドに君が居たんだね。
(そう。ワタシの肉体は確実に死を迎えました。しかし、装置に取り込まれたワタシの意識はそのまま残っていました。が、それも艇の機能を停止させる事でワタシを永い眠りに就かせる事ができました)
そこに俺が来た。と言うことか…
(はい。でも、ワタシの生きていた頃とは、時代が違います。民間人が自由に宙を行き来し、この艇も過去の船種となってその多くが払い下げられ、二次・三次の転売も当たり前のようになっていると収集した情報の分析結果が出ています。結論から言えば、ワタシの頃のようにコソコソと身を隠す必要はなくなっていますね)
まあ、それは一安心…と言うより、君の生きていた時代って、まだこの巡洋艦が生産されていた頃だと言っている?
(言ってはなんですけど、この艇こそがミネルバ級巡洋艦の一番艦になる筈だったのです)
えっ?!
俺は驚かずにはいられなかった。ミネルバ級が生産中止になってからかなりの月日が経っているのは知っていた。だから、その生産が開始されたのは更にそのずっと前という事だ。
ミネルバ級は巡洋艦の代名詞となる程使い勝手が良く、かなりのロングセラーになっていたと記憶している。だから、ミネルバの生きていた時代というのは…
(最近の事情には疎いという訳。だから、貴女に口出しする事も多くはない筈よ。生きていた当時でさえ、ワタシも小娘でしかなかった訳だし…)
彼女が何を言おうとしたのかは何となく判った。
(つまり、ワタシが生きていた頃とはかなりの年月が経っているから、貴女が生前のワタシと同じ姿をしていても、誰もマクガイヤー提督の娘、ミネルバ・マクガイヤーと結び付ける事は出来ない筈よ)
マクガイヤー提督の名前を知らない者はいない。俺は今「歴史上の人物の関係者」と接しているのだ。あまりピンと来ないが…
そして、もう一つのキーワード、「ミネルバ」という名前…
(そう。お父様は愛娘の名前を会心の巡洋艦の一番艦に与えたかったの。だから「ミネルバ」という艇は2隻存在する事になった訳。この艇と、もい一隻はどこかの博物館にあるんじゃないかしら?)
俺の頭は限界に近づいていた。これ以上歴史の話が出てきたら、俺の脳は確実に崩壊するだろう。
 
(まあ、細かい事は気にしなくて良いわよ。ワタシもあまり出しゃばる事はないと思うわ。とにかく、この艇はもう貴女の所有物。好きに使ってくれて良いのよ。勿論、部屋にあるワタシの服も自由にしてね♪)
確かに今の俺はミネルバと同じ姿になっているのだ。着られないことはないのだが…
俺は女装する事に、まだ抵抗があった。
(口座にはワタシ名義であるから、好きな服を買っても構わないわよ。スパで着た浴衣なんか良かったじゃない。ワタシも着た事がなかったので新鮮だったわ)
結局…俺がどう思おうが、この肉体が「女」である限り、女装は避けて通れないと言う事なのだろう…
 
 
 
 
 
「俺」の艇は、いかに光より早く航くとは言っても、せいぜい原動機付き自転車のクラスであった。だが、この巡洋艇はリムジンとは言わないまでも、ハイウェイもオフロードもこなすキャンピングカーだ。これまでも「俺」の艇で航路を外れた事はあったが、野宿はせずに戻ってこれる範囲でしかなかった。
この艇は、勿論野宿の心配はない。ゆったりと寝れるベッドや快適なシャワーも完備されている。
それ以上に装置の能力が半端ではなかった。
ライセンスによるリミッターが存在していないので、1光年以内しかダイブできない軽免許の俺でも、制限なしのダイブが可能なのだ。
もっとも、長距離ダイブをするためには、事前の複雑な座標計算と、正確なタイミングでダイブする技術が伴っていなければならない。
当然、俺の技術では正確なダイブは出来る訳もない。が、大きく航路を外れても問題はない。「寝る」には困らないし、決まった目的地がある訳でもないのだ。それ以上に、未開の領域を航ける事が嬉しかった。
 
 
宇宙空間を漂いながら、ベッドの上でまどろむ事は、以前の俺には考える事もできなかった贅沢だった。
更に、艇とシンクロしていると、艇自体が俺自身となり、俺は生身のまま、宇宙空間を漂っている錯覚に陥る。俺の内側には、窓越しに宙を眺めている「俺」がいた…いや、今の俺が見ている彼女は「ミネルバ」だった。物憂げにベッドでくつろいでいる。着ているのはピンクの花柄のパジャマだ。胸の膨らみの先端に、乳首の形が浮き出ている。ブラジャーを外しているのだ。
俺は彼女の胸を見てみたいと思った。
すると、彼女の手が動き、パジャマのボタンを外し始めた。彼女の胸が露となる。彼女の掌が、彼女の乳房を支え、押し上げる。俺は興奮してきた。
「ぁあん…」と彼女が喘ぐ。乳首が硬く尖ってきた。感じ易い彼女は、既に股間も潤ませているようだ。
俺がそう思っただけで、彼女はパジャマのズボンを脱ぎ捨てていた。ピタリと下半身を被うショーツに染みが広がっていた。彼女は片手を乳房から離すと、腹の上を這うように下らせ、ショーツの中へと滑り込ませていった。
クチュクチュと彼女の股間から音が漏れている。ショーツの下で、彼女の指が激しく動いているのが判る。
「ああん♪」と時々喘ぎ声を上げている。
 
しかし、なかなか高みには昇りきれないようだ。
「頂戴♪アナタの太いのを…ワタシに…」彼女が俺に乞い願う。
俺はマニュピレータの先端にゴムを装着し、彼女の股間に延ばしていった。
その間にも、彼女はショーツを脱ぎ去り、M字に脚を広げて「俺」を待っていた。
俺は一気に彼女の股間に挿れた!!
「あっ、ああ〜〜!!」
俺はたまらずに嬌声をあげていた。
股間からもたらされた快感は「俺」を肉体に引き戻していた。「女」の肉体を得た俺は、否が応もなくオンナの快感に飲み込まれていった。マニュピレータは、俺が彼女を際限なく悶え乱れさせようとした意志を忠実に実行していった。俺は何も考えられなくなり、快感に身を捩り、嬌声をあげ続けた。
 
 
 
俺は全裸でベッドに横たわっていた。
(確かに快感は得られたけど、ガルシアに抱かれた時の方が気持ち良かったのではない?)
ぼんやりとしていると、ミネルバが声を掛けてきた。
「ガルシア」というキーワードが俺を覚醒させる。俺が「男に抱かれ」て悦んでいたなど、記憶の底から消し去りたかった。
(つまり、良かったと言う事でしょう?ワタシも初めてだったけど、凄く感じられたわ♪)
良いとか、悪いとかの問題ではないんだ。俺が「男に抱かれる」という事が許せないんだ。
(何故?)
男が男に抱かれて悦ぶなどという異常な事態は、正常な神経では耐えられないんだ!!
(どこが異常なの?貴女はもう「女性」なのでしょう?女が男に抱かれるって、一番正常な姿じゃないかしら?)
俺は!! と反論しようとした途端…
「キャン♪」
俺は可愛らしい叫び声を上げていた。
(ほら♪貴女は「女性」なのよ。判ったでしょう?)
俺は俺の指を股間に滑り込ませていた。ぐしょぐしょに濡れた膣は何の抵抗もなく、俺の指を咥え込んでいる。指は俺の意思に反してグリグリと蠢き俺に快感を与えてくる。
 
お、俺の体を勝手に動かすな!!
(貴女の考えが矛盾していたから、正してあげただけよ。もっと体に正直になりなさい。貴女も「男」に抱かれたいと思っているのでしょう?)
お…俺は…
 
俺はミネルバから制御を取り戻した指を股間に突っ込んだまま、しばらく続く子宮の疼きを感じていた。
 
 

    次を読む     目次に戻る     INDEXに戻る