発見

2.「ワタシ」



なら、ワタシは誰だ?
 
(シンクロした装置から意識が逆流してしまったようね♪)
ワタシの問いに答える声があった。と同時に、ベッドの上の「ワタシ」がゆっくりと瞼を開いた。
が、その下には瞳はなく、不気味な空虚が存在していた。
(そう。ワタシは既に死んでいる。ワタシの意識はシンクロしていた装置に取り込まれてしまった。そして待っていた。ワタシの替わりとなる人が来るのを…)
「ワタシ」の肉体はベッドの上でボロボロと崩れ落ちていった。
 
(服を脱ぎましょう。ここには酸素があります。宇宙服を脱いで楽になりましょう♪)
ワタシの前の壁が鏡に変わった。宇宙服姿のワタシが写っている。ヘルメットを外すとワタシの素顔が現れた。
ファスナーを下ろし、上半部を外す。ぶかぶかのアンダーシャツに包まれたワタシの体が写し出される。
…サイズの合わない男物のアンダーウェアに包まれていた。
 
(着替えは右手のキャビネに入っている…)ワタシは極自然に淡いピンク色のブラとショーツを取り出していた。
(汗臭いわね♪)ワタシはそのままシャワールームに向かった。
前にシャワーを浴びたのはいつだったのだろうか?肌に打ちつけられる水滴が新鮮に感じる。
シャワーがこんなにも気持ち良いものだった事を初めて知ったような気がした…
 
一息ついたところで全身を乾かし、持ってきた下着を着ける。
ブラジャーの感触もまた新鮮に感じられた。ショーツもこんなにピッタリとしたものだっけ?
ワタシは初めて女物の下着を着けたような感覚に囚われていた…
簡素な船内服を身に着け、ブリッジに戻った。
シートに座り、装置とコンタクトする。それだけでワタシはこの艇の意思となる。
艇自体がワタシの肉体となり、艇の隅々まで意識が通ってゆく。状態を把握すると、自らの肉体であるかのように艇を動かしてゆく。
塵を払うように前に向かってひと吹きすると、廃棄物が主砲に消し飛ばされ、目の前に航路が開いた。
ゆっくりと這い進み、広い空間に出たところで、少し助走をつけてジャンプ。何ともスムーズに亜空間にダイブしていた…
 
 
 
 
(こんな所にスパなんてあったの?)
ワタシの記憶には何らかの異常がある。記憶に欠落がある訳ではないが、知らない筈の記憶が時々浮かんでくるのだ。
ワタシの記憶になかった座標が想い浮かび、無意識のうちにそこに向かっていた。到着した場所には、スパを中心としたレジャー施設が立ち並ぶ改造衛星が浮かんでいた。
(確かに、どこかに停泊しようとは思ったけど…)
とは思ったものの、ここまで来て寄らない手はないわね。ワタシは艇を相対停止状態にして、連絡ボートでスパ衛星に乗り込んでいった。
 
初めてなのに、何度も立ち寄った気がしている。チェックインを済ませると浴衣が手渡された。
(こんな可愛いデザインの浴衣は初めてだな♪)
ウキウキと更衣室に向かう。
暖簾をくぐろうとして、ハッとなった。男子更衣室に入ろうとしていたのだ。
(イカン、イカン;)
赤い暖簾の下をくぐ直して浴衣に着替え、早速にスパのエリアに向かう。
今度は間違えずに女湯の暖簾をくぐった。
脱衣所で裸になる。
これまでもシャワーを浴びるのに裸になった自分を見ているが、他の女性の裸体を目にした時、何か罪悪感のようなものに満たされた。
極力、他の人の裸を見ないように湯舟に向かった。
広い風呂の中に四肢を伸ばすと、ようやく落ち着いた。
(極楽、ゴクラク♪)
と親父臭い事を頭の中で言いながら、湯の中に体を浮かせていた。
 
 
存分に暖まり、再び浴衣を着る。
今度は飲食エリアに向かった。洒落たバーがあり、浴衣を着た若い男女がそこここでくつろいでいた。ワタシもカウンターに付き、カクテルを注文した。
「隣、良いかな?」
と、男の声がした。
(ジャスティ・ガルシアか?珍しいな、こんな所で…)
「どうぞ。」とワタシは言っていた。
(ワタシはこの男を知っている?)
「独りなの?」とガルシアが聞いてきた。
(多分、彼もワタシの事は知らないのだろう。けれど、俺は奴が「女たらしのガルシア」だと知っている…)
「どこかで会った事あったかしら?」と聞いてみた。
「君みたいな美人を忘れる訳ないさ。それって僕を誘っているのかい?」
「イ、イエ。勘違いしないでもらえない?」
「これは済まない。お詫びに一杯奢らせてくれないか?」
 
その後は、何故かガルシアのペースに巻き込まれてしまった。
気が付くとワタシはベッドでガルシアの上に跨っていた。勿論、子供のようにじゃれあっている訳ではない。ワタシの股間にはガルシアのペニスが突き立てられている。
ワタシはあろうことか、彼の上で腰を振り、淫らに喘いでいた…それは、これまで経験した事のない快感をもたらしている…
「あん。ああ〜ん♪」
ワタシは次第に昇り詰めていった。
「あっあっあ…イ、イク〜〜!!」
ワタシは初めてイク事を経験した…
 
 
(ワタシ…?)
…俺は?…
 
 

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