憑依



 すやすやと寝息をたてている女の上に腰を降ろした。一糸纏わぬ女の腰の中に俺の腰が重なってゆく。
 
 今の俺は幽霊みたいなものだった。現実の物質に左右されずに素通りできるのだ。脚を上げ、彼女の脚の上に乗せると彼女の脚を包み込むように俺の脚が存在した。同じように上半身を倒し、彼女に重ねる。俺の胸から彼女のバストが突き出ていた。
 最後に腕を重ね、彼女から教わった呪文を唱える。俺の意識が彼女の肉体と融合してゆく。パチリと目を開く。それは俺の目ではなかった。俺は彼女の目で見ているのだ。身体を起こしソファを見ると、そこにはぐったりとした俺の肉体があった。
 
 再び今の自分の体に意識を戻した。それは、確かに女の肉体だった。胸の肉塊が重力に引かれている。股間には硬くそそり立つペニスの存在が感じられない。代わりに熱く濡れた肉洞が何かを欲して疼いていた。
 それが何かは即に判った。それはすぐ側にあった。俺はベットを降りてソファに向かった。
 
「俺」の股間ではペニスがだらしなくぶら下がっていた。このままでは何の役にも立たない。俺は「俺」の股の間に座ると、萎えたペニスを手に取った。
 どうすれば良いか?それは「俺」がどうされたいかと同じ事であった。一瞬の躊躇の後、俺は「俺」のペニスを銜えていた。刺激を与えてゆくと次第に硬さを取り戻していった。十分な硬さになったところで「俺」の身体をベットに運んだ。仰向けに寝かせると、ペニスがしっかりと天井を指していた。俺はおもむろにその上に跨ると、俺の膣にそれを迎え入れた。
 
「ああぁん♪」
 俺の口から艷かしいオンナの喘ぎ声が出ていった。腰を振り、更に快感を得ようと身悶える。頂きが近付いた最後の瞬間、俺の中でビクリとペニスが脈動した。俺の子宮に向かって精液が放たれると同時に俺も絶頂に達していた。
 
 俺は「俺」の胸に頭を乗せて余韻に浸っていた。俺の耳に「俺」の心臓の鼓動が心地よかった。不意に俺の背中に腕が乗った。そのまま俺は「俺」に抱き締められていた。「良かっただろう?オンナの快感は♪」俺が顔を上げると「俺」の目と会った。「誰なんだ、お前は?」俺が女の声で言うと、「俺は俺さ。」と受け流す。「さあ、お前にはもっと素晴らしいオンナの快感を教えてあげよう。」
 
「俺」否、男が俺を仰向けにした。俺の上に男が伸し掛かる形になった。なにをされるかは想像が付く。俺達の下半身は繋がれたままであった。
 
 
 
 
 
 
 俺は男として、これ以上のオンナの快感には耐えられそうもなかった。俺はこの肉体から抜け出そうと女から教わった幽体離脱の呪文を唱え始めた。
「無駄だよ。」
 男が言い放つ。
「俺もそうだったが、その呪文ではその体から出ることはできないよ。」
 
 俺は呪文を中断し、男を見詰めた。
「その体を出るには、相手にその呪文を言わせて自分に憑依させるんだ。
 そうすれば玉突きのように相手の肉体に入れるぞ。
 相手は男でも女でも構わないらしい。
 しかし、自分の体に戻ることは不可能だと思ってくれ。
 俺はこの体が気に入った。
 俺がその呪文を唱えることはありえないからな。」
 
 そう言って男は笑った。
「この体はお前との相性が抜群のようだ。
 俺も味わったことのない最高の快感を得ることができるかもしれないぞ♪」
 
 
 再び快感の波が襲ってきた。俺の女の肉体は俺の意志とは別に嬌声を上げ始める。自ら腰を振り男のペニスを喜々として受け入れる。繰り返し訪れるオンナの快感が俺をオンナに塗り替えていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 アタシは独り部屋に残されていた。
 股間に手を伸ばすと指にはアタシの愛液と男の残した精液が絡み付いてくる。
 アタシのオンナノコが寂しく疼いていた。
 
 
 

−了−


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