微熱



 ここ数日、微熱が続いていた。それが何かの予誂であることは容易に想像がつく筈であった。
 
 
 俺は肉体の発する警告を無視して出勤を続けていた。一週間が過ぎた日、電車の中で猛烈な腹痛に襲われた。耳には雑音が被り、視野がどんどん狭くなってゆく。貧血だと気付いた時には、俺は床の上にしゃがみ込んでいた。途中駅で下車した。携帯から会社に体調不良で遅れると連絡すると上司は気にせず休めと言ってくれた。
 
 俺もこのままでは仕事にならないと自宅に戻った。腹痛とは言っても下痢とかの痛みとはまったく異なっていた。腹の中で腸が押しくら饅頭をしているような具合だった。布団の中で痛みに堪えていると、今度は股間から別の痛みが襲ってきた。ペニスの裏側、ちょうど玉袋の中心に無理矢理モップの柄を捩込もうとするような痛みだった。尻の穴ではなく本来何もない所に穴を穿とうとするような感じだった。穿たれた穴はどんどん奥へと侵入してゆき、腸の押しくら饅頭の中心地点に到達した。
 その途端、あれ程苦しんだ痛みが嘘のように消えていた。まだ、股間には痺れるような痛みは残っていたが堪えられない痛みはどこにもなかった。安心しきった俺には、俺の肉体に重大な変化が訪れていたなど知る由もなかった。
 
 
 痛みも引き、腹の中も落ち着いてくると、一連の出来事の後始末が巡ってきた。腸内の滓が排泄物として溜まっていたのだ。肉体の欲求に従い、俺はトイレに行き便座に腰を降ろした。滓を排泄していると、小用の方も催してきた。膀胱の出口を緩めてやると俺の股間から小水が迸しっていった。
  (?!)
 俺は言いようのない違和感に襲われた。ペニスの先端を通り抜けてゆく、あの感覚がまったくないのだ。それでいて俺の排泄する小水は便器を叩いている。飛沫が尻を濡らしていた。
 トイレから出ると俺はズボンを脱いで風呂場に入った。俺は簡単に動かせる鏡など持っていない。唯一、洗い場にある鏡だけが肝心なところを写しだせた。鏡に背中にして股越しに覗き込んだ。はたして、俺の股間には在りえないものが存在していた。玉袋の合わせ目がパックリと割れていた。指で押し開くと、そこには女性器にのみ存在すべき筈のものが全て揃っていた。先程、小水を迸らせた場所も確認できた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 一夜が明けた。痛みも微熱も治まっているので、俺は普通に出勤するしかなかった。
 肉体は変化したままであったので、立っての小便はできない。しかし、それ以外は今まで通り生活できると思えた。背広を着て出掛けた。小便でも個室を使う以外は何も変わらない。外見からでは俺は男のままであった。だが、今の俺は本当に男だと言えるのだろうか?
 
 
 一日の終わりに一気に疑問が涌いてきた。
 確かに刺激を与えればペニスは勃起する。しかし、その先端からは何も出てこなかった。先走りの汁がペニスの根元に出来た尿道口から滲みでると、俺の股間は愛液に濡れた女の股間のようになる。割れ目から肉襞が広がり、穿たれた穴が疼きを発する。俺の指がそこに差し込まれると、更に愛液が分泌される。クチュクチュと音を発て、俺は女のような自慰に耽ってしまったのだった。
 
 
 朝、俺は背広を着て出勤する。だからと言って俺が男であるとは限らない。ズボンの下にはナプキンを付けた生理用ショーツを履き、膣の中にローターを入れている等とは誰も想像できないであろう。満員電車の中で俺はローターのスイッチを入れる。俺は妄想する。自分が一介のOLとなって痴漢さん達の餌食となっている。胸が、お尻が触られる。スカートの中に入った指がショーツの上から俺の女の子を刺激する。「あぁん♪」俺は自然と淫らな吐息を漏らしていた。
 
 
 

−了−


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