第二の人生



 俺の前にある小瓶に入った液体は、いわゆる「性転換剤」である。これを飲めば「俺」という存在は消え、新たな「女」が存在し始めるのだ。しかし、この薬は一度しか効果がない。再び手に入れたとしても元に戻ることはおろか、「男」に戻ることもできないのだ。俺は運命の分岐点に立たされていた。
「さぁ、どうするネ?女になって行方を眩ますか、このまま奴らに捕まって簀巻きにされるかネ。」大人の言う通り、俺が生き延びる為の選択肢はひとつしかなかった。「何をためらう?」俺は自分自身に問い質した。答は決まっていた。俺は小瓶を手に取ると、中の液体を一気に飲み下した。
 
 
 
 
 気が付くと俺は自動車の後部座席によこたわっていた。車はかなりのスピードで移動中だった。
 俺はゆっくりと身体を起こした。と、同時に自分自身の身体に違和感を感じた。何かが胸を締め付けている。その何かによって俺の胸に固定されているものがあり、それにより俺の身体のバランスが乱されているのだ。しかし、程なくその正体が判明する。性転換剤を飲んだ俺は女になったのだ。当然、女にはバストがあり、それを保持するためにブラジャーを着けるのだ。
 俺は改めて自分の姿を見てみた。全身を鏡に映して確かめた訳ではないが、俺はチャイナドレスを着せられているようだ。顔には化粧を施され、耳、首、指にアクセサリーが飾られていた。自動車がトンネルに入った。窓ガラスが鏡の代わりに俺の顔を映し出した。そこには見知らぬ女がいた。
 
 自動車は空港の前で停まった。チケットと手荷物の引き換え券が渡された。俺には何の質問も許されてはいなかった。慣れない服と靴に足を取られながら搭乗口に向かった。
 
 
 
 
「お嬢さん、隣に失礼しますヨ。」聞き覚えのある声に振り向くと、そこにいたのは大人だった。「ご旅行ですか?」あくまで他人を決め込むらしい。俺は全てを無視することにした。
 飛行機は舞い上がり雲の上を巡航していた。うとうととしていた俺に大人が悪戯を仕掛けてきた。掛けていた毛布に隠れるようにして大人の手が伸びてきた。スカートの上から俺の大腿をさすっている。やがて服に付けられていた仕掛けを使って大人の指が直接俺の肌に触れてきた。ビクリと身体が痙攣する。股間に差し込まれた指が俺もまだ触れた事のない女性器に触れたのだ。大人の指は百戦錬磨の強者であった。秘孔を突かれ、みるみるうちに膣が愛液に潤ってゆく。そこに大人の指が挿入されてきた。得も言えぬ快感が襲ってきた。俺は彼を拒絶するタイミングを逸していた。俺は喉元まで押し上げてきた艶声を堪えるのに必死だった。「ぁぁん♪」と小さく吐息を漏らし、俺は達していた。
 
 
 
 
 飛行機が着陸態勢に入り、俺は起こされた。
 隣を見るとそこは空席だった。初めから誰もいなかったかのように…
 
 大人の手技に翻弄されグッショリと濡れた筈のショーツも、股間がほんのりと蒸れている程度であった。ただ、彼の指を思い出して女陰が微かに震えていた。俺はもう女なのだ。俺は自分に備わった膣や子宮をはっきりと感じていた。単なる女装ではない。俺は本物の女である。女として、新しい人生を始めるのだ。俺は股間に手を当てた。何もない…いや、そこには女の証が存在しているのだ。
 
 乗客が席を立ち始めた。俺もベルトを外して立ち上がった。
  と、足もとに紙が落ちた。拾い上げると俺宛のメッセージが書かれていた。
「私の可愛い娘々へ。これから先、一人前の女としてやっていけそうだね。早く良い男を見付けて幸せな家庭を築きなさいネ。」
 
 男と… 数時間前の俺であれば「有りえない」と言い切っていただろう。
 しかし今、俺は女の悦びを期待して肉体を疼かせていたのだった。
 
 
 

−了−


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