天国電車



 俺は吊り革に把まり電車に揺られていた。いつものこの時間帯の車内は鮨詰め状態であった。
 今、俺は「女性専用車両」にいる。こちらは立つことになったとしても、かなりゆとりがある。通常車両と較べれば、やはり天国に違いない。もちろん俺は今、スカートを履いている。肌色のストッキングに包まれた脚はハイヒールの上に乗っている。脛毛のない脚は柔らかな大腿部の先で腰につながる。腰の上部は極端に引き締まり、その上のバストの膨らみを更に強調する。もちろん、この豊満なバストも造り物ではない。今の俺は正真正銘の女になっているのだ。
 
 
 今日は楽がしたいなぁと思い、奮発してグリーン車に乗ろうとした。が、券売機の前は長蛇の列ができていた。並んでいる程の時間的余裕はないので俺は空いている窓口に向かった。窓口の前に立っていたお姉さんに言うと衝立で仕切られたコーナーに案内された。「少しでも楽ができれば良いのですね?」と確認してきた。俺が頷くと、俺の体は光に包まれた。
 眩しさに目を閉じる。再び目を開いた時にはお姉さんの姿はなく、俺は女にされていた。俺はホームに昇り、躊躇うことなく女性専用車の列に並んだのだった。
 
 
 なんとか定時に会社に着くことができた。俺が自分の席に着くと、皆の視線が俺に集中した。「何か変か?」と隣の同僚に聞くと、「あなたがスカートで来たのを初めて見たような気がします。」バカ言うなよ。何で男の俺が…と言おうとして、自分がまだ女のままであることに気付いた。首に下げたIDカードを確認すると、その写真には女が写っていた。
 氏名の欄を確認する。それは確かに俺の名前だった。が、違和感を拭えない。俺の名前ってこんな女みたいな名前だったっけ?
 
 
「たまには、こんなシチュエーションで飲むのも良いね。」その夜はいつもの居酒屋ではなく、洒落たスナックのカウンターでグラスを傾けていた。隣に座っている男は俺の恋人だった。男としての俺の記憶を遡ぼると、彼は単なる大学時代からの親友でしかない。しかし、意識しないでいると女としての記憶に支配され、彼を恋人と認識してしまう。実際、周りには俺が生まれた時から女であったと認識されている。アルバムなどの記録も全て俺が女であったように塗り替えられていた。
 
「ちょっと休んでいかないか?」彼が立ち止まったのはラブホテルの前だった。既に俺の下腹部は疼きを感じていた。俺の記憶では彼とは何度もSEXをしていた。もちろん、女としての記憶だ。
 彼の指が項をさすり、ツーッと喉から胸元に降りてくる。螺旋を描いてバストを昇ってくる。先端に達すると指先を使って乳首を弄ぶ。彼の唇が俺の乳首を挟み込む。チュウチュウと音をたてて吸っていると思うと、空いた指が今度は大腿の内側を擦り上がってくる。俺の愛液に濡れた繁みを徘徊し、最期に甘美の源泉に到達する。俺の中に彼の指が侵入してくる。期待に俺は媚声を上げていた。
 お馴染みの快感…しかし、男の俺にとっては初めての経験であった。いや、男には経験し得ない事象である。腹の中で彼の指が蠢いている。俺に備わった器官が汁を溢れさす。女の意識が膣を締め上げると、更に快感が増してゆく。
 俺は彼のペニスを受け入れていた。亀頭が子宮の入口をつついている。俺は高まりを迎え嬌声を上げながら膣を締め上げていた。「あうっ」彼が呻く。俺の中にザーメンを放出する。その一瞬後、俺は「女」になった。悦びの叫びとともに俺は絶頂に達していた。
 
 
 
 俺は今日も女性専用車両に乗り込んでいた。「どうぞ」と座っていた女性が席を空けてくれた。「ありがとう♪」と俺はその席に腰を降ろした。この大きなお腹を除けば実に快適な通勤である。
 
 
 

−了−


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