探偵物語



 ネットの中では人は思い思いの姿でいられる。とはかなり誇張された言い方である。服に既製服とオーダーメイドがあるように、殆どのネットの住人は予め用意された姿を使う。だから、人気のある姿は町中でよく擦れ違う。俺はそんな中でも個性の少ないありふれた姿を選んでいた。目立たずに行動することが重要であったのだ。
 俺は浅見吾郎。探偵を職業としている。探偵とは言ってもそう恰好良いものではない。店の前で張り込み、旦那や奥さんの浮気現場を写真に収めては日々の糧としている。極たまに、人捜しなどという高級な仕事も入って来る。今回はネットの中の人捜しだった。正直言ってネットに関しては自信が無かったが、目の前に積まれた前払い金の額に目が眩んでいたようだ。気が付くと依頼人は姿を消し、金と契約書が残されていた。
 
 
 
 ネットに詳しくなかったので知り合いを通じてひとりのオタクを紹介してもらった。彼の手解きで、なんとかネットに入り込むことができた。先の発言も彼の受け売りである。
 ネットの中と言っても探偵のやる事には大差はない。先ずは聞き込みからスタートする。とは言っても同じ顔がゴロゴロしているので、顔写真があっても話しにならない。結局は、単純にターゲットのネット内での名前から始めるしかなかった。
 
 よく出入りしていたという店を突き止めた。早速その店に向かう。が、入り口を入っても客はおろか店員の姿もない。店内はがらんとしていた。営業時間を確かめたが問題はない。カウンターの裏に廻っても誰もいなかった。
 状況を整理しようと壁際のソファに腰を降ろし(?)…降ろした腰がソファの中に吸い込まれていった。暗闇の中を落ちてゆく。その先に光が見えた。
 
 
 
 
 
 
「よく来たな。」目の前に現れたのは「俺」だった。ネット内での借り物の姿ではなく、現実世界の「俺」がそこにいた。いつまでも見下ろされているのも癪なので立ち上がろうとした。が、俺は立つことができなかった。
「さあ、行こうか?」と「俺」が言う。俺の腋と膝の裏に腕が差し込まれ、俺は軽々と抱えられていた。「ここでは自らの深層心理が具現化される。」ドアが開かれた。「あんた自身がやりたいと思っていた事を俺がやってやる。」俺はベットに寝かされた。壁が鏡になっていて、そこに俺の姿が映しだされていた。
 俺は今までとは別の姿を与えられていた。女だった。女は俺の捜していたターゲットそのものだった。ターゲットとは依頼人の娘であった。美人だった。その写真を見たとき、俺の股間が激しく反応したことを覚えている。
「あんたは動けるよ。ただし、あんたがその女にして欲しいと思ったことしかできないがね。」俺は彼女の写真を見せられたとき、何をさせたいと思ったか? 思い出そうとするより先に体が動いていた。俺は奴のズボンの中からペニスを取り出し啜り始めていた。「良い娘だ。」奴が言う。それは、このシチュエーションで俺が言いたかった台詞だった。
 俺は行為を続けながらも服を脱がされていった。股間が濡れていた。そこに奴の指が挿入される。「ああぁん♪」俺は堪えられずに媚声をあげていた。奴が伸し掛かってくる。硬くなったペニスが俺の中に入って来た。快感が俺の中を駆け巡ってゆく。俺はあっと言う間に達していた。
 
 
 
 
 
 
 俺の前で奴が依頼人から報酬を受け取っていた。依頼人の娘はあの店の虜になっていた。彼女を現実世界に戻すには、彼女の深層心理の欲求を満たすこと。それが唯一の方法であると判った。彼女の欲求は彼女自身を犯すこと。そこで俺は彼女に俺の体を貸し与えることにした。
 依頼人の去った後、彼女は欲求を満たそうとする。彼女が−奴が俺に近付いてくる。「彼女」となった俺は彼を待ちわび、股間をグッショリと濡らしていた。
 
 
 

−了−


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