アイドル志願



 僕の目の前に翳されたのはブラジャーだった。
「やっぱり付けなきゃ駄目?」僕は妹の仁美に確認した。「もち♪」彼女は明るく答えた。仕方なくカップを胸に充てると、仁美がホックを掛けてくれた。
 僕は今、妹の服を着ているところだった。パンティを履き、ブラジャーを付け、大腿の中程までの靴下を履かされた。もちろんスカートは即にパンティーが見えるくらい短く、上に着たキャミソールはお臍を隠しきれない。仁美の手で頭のリボンが結ばれると、僕は鏡の前に連れて来られた。
 鏡には僕と仁美が映っている。
 しかし、長い髪の毛に大きなリボンを結んだ愛らしい少女の方が今の僕なのだ。
「じゃ、お兄ちゃん。出掛けましょうか?」と「僕」の声で仁美が言う。「どうしても行かなきゃいけないのか?」と僕。「だって、一次審査を通ったのってめったにないのよ。このチャンスを逃したくないの。」僕達が向かおうとしているのは舞台のオーディションだった。兄のひいき目を差し引いても妹は充分に可愛らしい。アイドルになりたいと宣言したときでさえ、誰もが異議を唱えなかった。
 が、今この時点でオーディションを受けるのは、この僕なのだ。「なぜ?」「どうして?」と慌てる以前に、オーディションの時刻が刻々と迫っていたのだ。
 
 
 
 あっという間に最終審査にたどり着いてしまった。仁美は僕の付き添いとして客席から見ている。「なぜ?」「どうして?」と自問する間にもオーディションは進められていった。
「最終審査の発表です。」司会者が高らかに宣言した。僕はナンバープレートを付けた水着を着て、他の娘達と一緒に舞台の上に並んでいた。「選ばれたのは、」ドラムロールが響く。「ナンバー133、双葉仁美さんです。」
 スボットライトが当てられた。それが自分のことであることに気付くまでかなりの時間が掛かった。客席で「僕」が涙を流している。周りの娘達がさかんに「おめでとう」と言っている。
 僕はどうすれば良いのだろう?
 
 
 
 
「カーット」監督さんの声が響く。僕の出た舞台は成功し、仁美にも仕事の声が掛かるようになった。今度は映画だ。主人公のライバルの妹役だという。着実にアイドルに向かっているようだ。
 が、僕はまだ妹の姿のままであった。つまり、現時点でのアイドル候補生「双葉仁美」とは僕のことなのだ。いろいろ元に戻る方法を調べたが、どれもがマユツバものであった。仁美も半分諦めているようだ。僕が彼女の夢を適えてやろうと一生懸命になっている間にも、彼女を作って青春を謳歌しているようだ。
「おにいちゃん?」一目を気にして最近は仁美の事をそう呼んでいる。「真面目に、戻る気があるの?」問い正すと、「良いんじゃないの、このままでも。」と即答された。「なぜ?どうして?」と聞いても仁美は年下の妹をあしらうようにはぐらかす。果ては「じゃあ、お兄ちゃんが女の子の快感を教えてあげよう。」と僕をベットに押し倒した。
「駄目、止めて!!」と叫ぶが仁美には勝手知ったる自分の身体である。僕の股間はあっと言う間に濡れていた。「我慢しちゃ駄目だよ。」仁美に促されるまでもなく、限界に達した僕は「ああん♪」と淫らな声をあげていた。「どう?気持ち良いでしょう?」僕は快感に翻弄され、答えることができなかった。
 
 
 
 
 
 結局、双葉仁美はアイドルにならなかった。僕は今、ウェディングドレスを着てバージンロードを歩いていた。祭壇の前では僕の…お兄ちゃんの親友だった彼が待っていた。
 僕は初めて彼に抱かれた時のことを思い出していた。彼のペニスが僕の中で弾けた時、僕の将来が決まった。彼がほほ笑む。僕の股間が再び潤み始めていた。
 
 
 

−了−


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