気付いた?



 今日もだれにも気付かれなかったようだ。俺はほっと胸を撫で下ろした。
 俺が気にしているのは、この「胸」である。俺の胸は今、女のように膨らんでしまっている。別に性転換した訳ではない。突然、胸が膨らんでしまったのだ。別に痛みもないので生死に拘わるものではないと思い、病院には行っていない。かといって、女のような胸を晒すのも恥ずかしい。時代劇などで女が男装する時によくサラシを巻くが、そんなものは手元にないので、俺は小さめのTシャツで押さえ込んだ上に厚手のTシャツを重ねて目立たないようにし、更にどんなに熱くても上着を脱がないようにしてこの身体を隠し通す事にした。
 
 
 
「お前、最近ちょっとおかしいぞ。」同僚の野田にそう言われた。俺はしらをきり通すことにした。彼にしても俺の胸に気が付いた訳ではない。最近の付き合いの悪さを指摘しているだけなのだ。だからと言ってそうそう誘いを断り続けることもできない。結局、その晩は飲みに行くことになってしまった。
「上着くらい脱げよ。」最初の居酒屋ではなんとか脱がずに済んだが、二軒目のスナックではそうもいかず、努めて背を丸めてごまかすことにした。しかし、
「ちょっと良い?」トイレから出たところで店の女の子に声を掛けられ、店の裏手に連れてこられた。
「ねえ、その胸アレなんでしょう?」と言われた。気付かれた?というショックもあったが、「アレ」という言い方に引っ掛かるものがあった。「アレって、最近男の人の胸が女の子みたいになっちゃう病気があるそうじゃない。あなたもそれかな?って。」
「病気?」俺が聞き返すと、そんなことも知らないのかといったふうに、「放っておくと女の子になっちゃうそうよ。ニューハーフの娘達が羨ましがっていたわ。」俺は一片で酔いが吹っ飛んだ。早々に店を出る。急患ではないので、この時間に病院に行くことはできない。もどかしくも、一旦自宅に戻った。
 鏡の前で服を脱ぐ。胸以外は男の身体であることを確認した。取り合えず安心して、俺は蒲団に入った。
 
 
 
「そうとう進行していますね〜。」医者はそう宣告した。俺はベットの上に寝かされ、両脚を台の上に固定され、股間を覗き込まれていた。診察器具の冷たい金属が俺の股間に差し込まれていた。「膣も立派に形成されているね。このあとエコーも撮るが、子宮も問題ないよ。生理が始まれば立派に子供が産めるね。」「せ、先生。俺は病気を治してもらいたいんだ。女にしてもらいたい訳じゃない!」
 先生の手が止まった。「無理だね。」とひとこと。
 
 病院を出た。俺の手には様々な薬が持たされていた。そして「ギブスだと思って付けておきなさい。」と胸にブラジャーを巻かれた。ブラジャーは胸を更に大きく膨らますので、シャツのボタンは外したままとなった。男の恰好ではバストが余計に強調されることになる。道行く人の視線が突き刺さる。俺は自宅に駆け戻った。
 手鏡を使い改めて股間を確認した。確かにそこには男にはある筈のない裂け目が生じていた。その中に指を挿入すると、異物が侵入してきたと感じる。肉壁が俺の指を圧迫する。その圧力に逆らって指を動かすと、そこからは得体の知れない快感が生じてきた。もう一方の手がバストの先端に向かう。その硬く尖った所を弄ぶと更に快感が増してゆく。俺は女のように喘ぎ、悶えていた。
 
 
 
 朝、俺は身支度を整える。鏡に映る俺はどこから見ても女にしか見えない。いや、俺はもう女でしかないのだ。
 振り返るとそこには一夜を伴にした男が立っていた。「愛してるよ。」と囁かれる。俺は熱いキッスで応えていた。
 
 
 

−了−


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