妖精の卵



 卵が転がっていた。何の卵か知らないがそのまま放って置くことが躊躇われたので持って帰ってきた。
 そして今、僕の机の上に「卵」が在る。
 
 コンコンと卵の殻を叩いてみた。すると中から同じ様に殻が叩き返された。「ちょっと待ってて下さい。」卵の中から女性の声がした。思いもよらない展開に唖然としている僕の目の前で卵のドアが開いた。殻の表面に長方形の切れ込みが入り、まさしくドアのようにして卵の殻が開いたのだ。「どうぞ♪」という声に釣られて僕は「はい。」と答えていた。一瞬、目の前が暗くなる。次に自分が光の中にいることが判った。光は暖かく僕を包んでいた。ここは何処なのだろうか?目の前にドアの扉があった。その外側には僕の部屋が広がっていた。僕は卵の中にいる?何もかもが巨大に見えるのは僕の肉体が卵の大きさに合わせて縮んでしまったという事か?
「気分はどうだい?」頭の上から男の声がした。見るとそこに巨人がいた。見上げると、見知った顔がそこにあった。巨人は「僕」だった。「僕」は僕の意志ではなく、別の何者かによって動かされていた。「だ、誰だ!お前は?」そう言って自分の声がおかしいことに気付いた。そして自分自身を確認するように視線を落とすと、これまでグラビア写真でしか見たことのないような巨大な乳房がそこにあった。どうやら、それは僕の胸に付いているらしい。恐る恐る手を延ばしてみる。指先に温かで弾力のあるものに触れたと同時に、自分の胸に何かが押し付けられた感触があった。
「誰かって?もうお前も気付いたろう?俺はお前で、お前は俺だよ。」男は僕を覗き込むようにして顔を近付けてきた。彼の掌があっという間に僕を掴み上げた。苦しくてもがいたが、この身体は極端に非力で彼の拘束からは逃れることはできなかった。「女の子の身体も良いもんだよ。オッパイも去ることながら全身が性感帯みたいなものだからね♪」もう一方の手の指が僕の身体をなぞると、得体の知れない快感が巻き起こった。「そして、ココはもっと凄いぞ。」彼の指が僕の股間に押し付けられた。そして、ほんの僅かに擦り上げられた。「あっ、ああ〜ん。」艶かしい声が僕の喉を突いて出た。じわりと股間に愛液が溢れた。乳首が勃起する。カチリとスイッチが入ったかのように、僕の肉体は猛烈に快感を欲し始めた。腰が勝手に動き出し、彼の指の腹に股間を櫟り付けてゆく。両手が胸の先の突起を弄ぶ。「もっと、頂戴♪」僕の口は勝手な事を喋り始める。彼の掌の拘束は解かれたが、快感にとろけた僕の手足は僕の身体を支え切れなかった。僕は机の上に座り込んでいた。片手は依然乳房を揉み朶いていたが、もう一方の手は濡れそぼった股間に延びていった。指先が源泉に辿りつく。僕はためらうことなく泉の中に指を挿入していた。「ああん。あ〜〜〜ん。」更なる快感に僕は嬌声を上げていた。快感がどんどん高まってゆく。その高まりの先で僕は意識を失っていた。
 
 
 
 
 
 気が付くと僕は布団の上に寝かされていた。見たことのある柄だと思い返してみる。それは僕が座布団代わりに椅子に敷いていたクッションだった。僕の身体はまだ小さいサイズのままだった。胸に手を当てる。そこにある膨らみもそのままだった。しかし、その膨らみは今、布に包まれていた。僕は服を着せられていた。寝たままでは布に包まれているとしか判らないのでゆっくりと身体を起こした。お腹の周りが締め付けられている。大きなバストは肩に掛かる紐に連なる布に支えられている。胸元は広く開いていてバストの谷間を妖しく見せ付けていた。布の端は繊細なレースがふんだんに使われたフリルで飾られていた。腰から下も同じように飾られた布に被われている。スカートに違いなかった。足には靴もはかされていた。もちろん高い踵が付いている。這うようにしてクッションを下りた。不安定な靴だが、何とか立つことができた。机の上にあの卵は見当たらず、代わりにこれまで存在しなかった四角い鏡が置かれていた。鏡を覗き込むと、そこには今の僕が写し出された。
 
 僕は人形だった。確かにこの肉体は温かく、呼吸を必要としている。しかし、その美しさは造られたものにしか見えなかった。豪奢な金髪に縁取られた顔は小さく、長い睫の下に宝石のような蒼い瞳が大きく見開かれている。すらりとした鼻筋の下に愛らしくも小さな唇が深紅に染まっている。「これが…僕?」
 
「やぁ、起きたのかい?」ドアが開き彼が入ってきた。「その服は気に入って貰えたかな?」そう、この服がまた僕をより一層人形に見せている。棚に登ってポーズを決めていればアンティークドールそのものになってしまう。「気に入らないね。」と言い返すと彼はどこからともなく取り出した数着の衣装を振って見せた。レオタードや体操着など露出度の高いものばかりである。「どれにする?着替えさせてあげるよ。」優しげな言葉を掛けてくるが、彼の瞳は淫欲にギラギラと輝いていた。「これで良いです。」僕にはそう答えるしか選択肢はなかった。
「良いのか?他にもまだあるぞ。」彼は卵を引き寄せると、その中から別の衣装を取り出して見せた。「お前にも色々着せてやるからな。」

「僕に「も」?」彼の言葉に引っ掛かるものがあった。僕は知らず内に言葉にしていたようだ。彼の僕を見る眼が一瞬で鋭くなった。「そうだよ!俺も散々これらを着させられたんだよ。あのジジイは金に飽かせてこんな恥ずかしい衣装をオーダーメイドしやがるんだ。」彼の言うジジイが何者であるかなど想像もできないが、これらの衣装を無理矢理着せられる恥ずかしさは十分に理解できた。「順応すれば恥ずかしくなくなるだ?俺はおかまとは違うんだ。女の服を着て喜んだりできるか!お前もそう思うだろう?」彼の目が妖しく輝いていた。
「キャッ!!」僕は思わず叫んでしまった。突然、彼の指先で小突かれたのだ。僕は尻餅をついていた。スカートの裾が捲れ白いふくらはぎが晒されている。僕は慌ててスカートを直した。
「ほぅ、お前は順応が早いなぁ。」と感心している。「どういう事?」僕が聞くと彼は返事をする代わりに僕のスカートを捲り上げた。「いやっ」と僕は両手でスカートを押さえ付けた。「それだよ。」と彼。「お前の反応は既に女の子そのものだ。俺は最後まで順応することはなかったが、お前ならすぐにも女に成り切れるぞ。」「女に?」「そう。順応と言って、その身体でいると心も女性化していく。どうやらお前には素質がありそうだ。順応が進めば最後には、お前は生まれた時から自分が女だったと思えるようになるはずだ。」そんな事を言われても…とは思ったが両手でスカートを押さえ付けている姿はどう見ても女の仕草であり、僕が無意識に行っていたのだ。
「まだ時間はある。そのドレスが気に入ったのならしばらくはそのままにしておいてやる。」と、手にした衣装を卵に戻した。別に気に入った訳ではないのだがと反論する気にもなれなかった。彼が卵を持って部屋を出ていくと部屋の中は僕ひとりになった。どうする?と自問する。恥ずかしい思いが厭なら逃げれば良い。しかし、この小さな肉体でどうやって外に出れば良い?それに、外に出てどうなる?確かにあの恥ずかしい衣装は着なくて済む。が、僕にはこのドレス以外には着るものがない。ドレスが汚れてしまうと他には着るものがない。裸でいるわけにもいかないとなると、新聞紙を身体に巻き付けるのか?それはそれで別の意味で恥ずかしい。着替えを得るためにもここを離れる訳にはいかない。そうだ、あの卵の中には普通っぽい服も入っているに違いない。とにかくあの卵を取り戻す必要がある。彼は卵を持って外に出た。卵を隠しに行ったのだ。彼の出ていったドアを見る。完全には閉じていない。あの隙間を少しでも広げられれば彼の跡を追うことができる。
 僕は机の端まで来るとスカートの裾を束ね隣のベットに向けて身を躍らせた。ベットのクッションが難無く僕を受け止めてくれる。次ぎの床までも同じ位の高低差がある。まずは枕を落としクッションの代わりにする。そして先ほどと同じ様にして飛び降りた。多少痛みはあったが、僕は床の上に降り立つことができた。ドアには転がっていた鉛筆をテコにして隙間を広げた。廊下に出て彼の気配を探る。
 
 荒い息遣いが聞こえた。風呂場の方だ。床の上に僕の服が散らばっている。風呂に入るのなら裸になったのも判るが、シャワーの音もなければ湯舟に満たされた湯面の発てる音もない。曇り硝子に映る男の荒い息だけが聞こえてくる。「おっ、あっ、キターー!」男は叫んだ後しばらく動かなかった。何をやっていたのか想像に難くない。カチャリと音を発て擦りガラスのドアが開かれた。
「盗み見とはいけない娘だなぁ。」僕は彼に掴み上げられた。「お仕置きが必要だね。」僕の身体からドレスが剥ぎ取られた。下着だけの姿にされた僕は、洗い椅子に腰掛けた彼の開いた脚の間に置かれた。「先ずはお仕置きの其一だ。手を使わずにここを奇麗にしてくれ。」彼の言わんとしていることは判っていた。手を使わずにとは足でやるということではない。舌で嘗め取れということだ。そして嘗め取るのは萎えたペニスに絡み付いた精液の残滓だ。「何をためらっている?これはもともとお前のものなのだろう。」確かに彼の身体はさっきまでは僕のものだった。だからと言って自分の精液など嘗めたことはないし、ペニスに舌を延ばせる程柔らかい身体は持っていない。「早くしろ。」と彼がせき立てる。僕には彼の命令を拒絶することはできなかった。ゆっくりと近付きペニスに触れた。小さな肉体となったことで更にグロテスクさを増している。カリ首に残された残滓に顔を近付けた。舌を伸ばす。白濁した塊を掬い取るように縊に沿って舌を這す。舌の上に塊が移動する。彼の顔を窺ってみても、そのまま吐き捨てることは許されそうもなかった。僕は一旦舌を引っ込めた。白濁した塊も一緒に口の中に入る。ゴクリと喉を鳴らして僕はそれを飲み込んだ。そんな行為を繰り返していると、彼のペニスが活力を取り戻してきた。「この上に跨ってみろ。」次の命令が下された。僕は言われるがまま、彼に尻を向けペニスを胯ぎ越した。そのまま上体を前に倒される。見た目は後背位から犯されている形になる。彼もそのつもりになって腰を動かしてきた。僕が着させられている下着が適度な刺激を与えているようだ。すぐにも爆発しそうになる。「よし良いぞ。今度はご褒美をあげよう。」僕は彼のペニスから引き剥がされた。が、頭は動かないようにしっかりと掴まれている。「新鮮な俺の精液だ。有り難くいただいてくれ。」空いた手で狙いをつける。僕の顔の正面にペニス先端がたった。
 
 
 
 
 
 僕は彼の言うがままに動かされる人形だった。
 卵はこれみよがしに僕の手の届かないぎり所に置かれている。彼は卵を捨てようとも壊そうともしないが、目の前に元の自分を取り戻せる可能性をちらつかされると、僕は彼の命令を聴かざるを得ないのだ。恥ずかしい衣装を着せられ、彼に隅々まで奉仕させられる。時には他の男に奉仕させる。
 
 最初は僕の親友だった男だ。彼は僕に成り済まして親友をこの部屋に連れ込んだのだ。さも自慢げに僕を人形として紹介する。人形として紹介されている間は瞬きひとつしてはならないのだ。「良く出来ているなぁ。」親友は僕を手に取って眺めている。「肌も弾力があって、まるで生きているみたいだね。」親友の指が僕の頬を撫であげてゆく。僕は真実を叫びたい衝動に駆られる。が、それを制するように彼が言った。「生きているよ。」悪戯をしようとする少年のような目で親友を窺う。「実はこれは妖精なんだ。ひょんな事で手に入れたんだけど誰も信じてくれそうもないんで普段は「人形」と言っているんだ。」そう言って親友の手から僕を取り上げる。親指の腹でバストを刺激されながら耳元に息を吹き掛けられる。この肉体を隅々まで知り尽くしている彼の手に掛かれば即にも欲情のスイッチが入れられてしまう。「さあ、お客様にお前の淫らな姿を見せてあげなさい。」そう言われるより先に体中が疼いて我慢しきれなくなっていた。机の上に戻されるのももどかしく、僕はスカートの中に手を入れていた。彼がスカートを捲ると僕の卑猥な行いが親友の眼前に晒される。僕は拒絶するよりも疼きを収めるので手一杯だった。「あ、あ、あ、あ〜〜〜ん♪」歓喜の媚声を上げる。達することで、疼きも幾分か収まった。ようやく辺りの状況が見えてくる。親友が食い入るようにして僕の股間を覗き込んでいた。僕は洪水状態の股間に指を差し入れたままだった。慌てて引き抜いたが、今度は僕の女性自身を余す所なく晒ことになった。
「今度はお客様にご奉仕するんだ。」と新たな命令が下される。見ると親友のズボンは前が大きく膨らんでいた。僕が服を脱ぎ下着姿に、とは言っても下は着けていないのでブラジャー一枚になると、彼は僕を親友の両脚の間に運んだ。ジッパーを下ろすとペニスが飛び出してきた。僕はそれを両手で受け止めると、そのまま胸に抱いた。僕の顔の前にその先端がきている。先走りの雫が浮かんでいた。先端の筋に沿わせて舌で撫で上げる。「むむ。」と親友が呻いた。それは痛みではなく快感に刺激されて出てきたものだった。先走りを嘗めとり、僕の唾液で亀頭全体を湿らしてやる。すると媚薬でも盛られたかのように親友のペニスは一気に硬さを増した。僕は体全体を使って親友に快感を与えてやった。親友の息が荒くなってゆく。舌を思い切り伸ばし亀頭の割れ目に差し込むと、親友は歓喜の雄叫びを上げた。彼に手伝ってもらい親友のズボンを脱がすと、僕は剥き出しになった大腿に僕の股間を押し付けた。僕の愛液が親友の股間も濡らしてゆく。クチュクチュて淫靡な音がしだしたところで僕は親友のペニスを両脚の間に挟み込んだ。ペニスに腕を絡めて体に密着させる。僕の小さな体全身を使って刺激を与えた。肩を抱かれた。そのまま持ちあげられる。股の間からペニスが抜け落ちそうになる。その寸前で下に下ろされる。股の間からペニスが突進してきた。まるで僕自身が一個の膣であるかのように僕の中をペニスが出入りする。そして親友が大きく呻くとペニスの中を一気に込み上げて来るものがあった。大量の精液が僕の顔にぶち撒けられた。勿論僕は身体全体が精液まみれになってしまう。振り仰ぐとそこには満足げに恍惚とした親友の顔があった。
 
 
 
 親友を皮切りに僕は幾人もの男達のペニスを抱いた。その代償に彼は幾漠かの金額を手に入れているようであった。数日後には新しい衣装が届けられてくるのだ。中には繰り返しやってくる男もいる。僕のサイズを聞き出しているのか、自前で衣装を調達してくる輩もいる。彼らはひとしきり着せ替え人形遊びに興じた後、僕を使って自らの精処理を済ませるのだ。
 
 今日は再び親友の番であった。常連客の時は彼も席を外す。僕は親友と二人きりになった。親友は自分のもってきた服を僕に着せ悦に入っていた。僕はかねてからの計画を実行することにした。「貴方の服はどれもステキね。センスが良いわ。」とおだててやる。「ねぇ、この服に頂度ピッタリなバンプスがあるんだけど取ってもらえる?」僕としては最大級のサービス笑顔を浮かべて言った。「いいよ。」と親友は安請け合いした。僕は卵を手に入れることができた。「じゃあ取って来るからね♪」そう言って僕は卵の中に入っていった。中は光に包まれていた。光に目が慣れてもどこかぼやけていて、卵の中の全てを見渡すことはできなかったが、外から見た卵の大きさからは有り得ない広さを持っていることは確かだった。先ずは衣装の揃えられた一画に向かう。ここに来るための口実とはいえ、ここにある筈のパンプスはこの服に合うと記憶していた。そこには衣装からアクセサリーまで奇麗に整理され並べられていた。目的のパンプスも程なくして見付かった。さっそく履いてみる。近くにあった鏡に全身を写し、自分の見立てが確かであったことを確認した。
 次はいよいよ本題である。この卵が自分の肉体を取り戻す鍵となっている筈である。手掛かりがないかと家捜しを始めた。最初に目を付けたのは本棚だった。衣装類と同じに奇麗に整理されている。しかし、先程のパンプスのようにはいかなかった。それは僕自身が探しだしたいモノを具体的にイメージできていないからなのだろうか、思った以上に膨大な量の書籍に圧倒されてどこから手を着ければよいかしばし悩むのだった。トントンとノックする音に振り向くとそこにドアがあった。僕が卵に入ってかなり時間が経ったのだろう。手にした本を書架に戻すと、僕はドアを開いた。「どう?」と履き替えたパンプスを見せ付けるように脚を踏み出す。「はい?」親友はどう反応すれば良いのか窮しているようだ。
 その一瞬後、僕は目眩に襲われた。
 僕は卵を見下ろしていた。卵のドアは開いており、中には彼女がいた。そう、先程まで僕だったモノだ。そして自分自身を確かめる。僕は親友の肉体に居た。再び入れ替わりが起こったのだ。果たして思う通りに入れ替わりを起こせるものなのだろうか?僕は親友を説得し、再び卵に入ってもらった。頃合いを見てノックする。卵のドアが開く。そしてしばらくの間見詰め合う。しかし、入れ替わりは起こらない。「なにか呪文のようなものがあるんじゃないかしら?」彼女の言葉にこれまでの状況を思い出してみた。
「今度はドアを開けた時に「どうぞ」と言ってみてくれないか?」僕は彼女を卵に戻し再びノックした。ドアが開く。「どうぞ♪」と彼女。そして僕は「はい」と答えた。
 
 
 
 今僕は親友の部屋にいる。退屈ではあるが、不自由のない日々を送っている。時々、親友が卵をノックする。手にした衣装を「はい」と僕に手渡す。すると、僕は親友となり、親友は新しい衣装を手にいそいそと卵の中に入っていく。親友に女装の趣味があったとは思わなかったが、そのおかげで僕はしばらくの間だが男に戻ることができるのだ。気が向けば親友はこの肉体の性処理までしてくれる。
 しばらくすると卵の中から彼女が新しい衣装を着て現れてくる。「どお?」の問いにお世辞抜きで「奇麗だよ。」と言うと彼女は満面に笑みを浮かべる。中身が僕の親友=男であることなど微塵も窺えない程彼女は女の子そのものだった。ある日、彼女の服をどこで買ったのか聞いてみた。彼女は笑って答えた。「みんな、あたしがデザインして自分で縫ったのよ。」一瞬、彼女がその姿でミシンを駆けているところを想像したが、実際は男の姿の親友がミシンの前に座っているのだ。「人形サイズだから変に思われないのよね♪」と彼女。「いつかは普通のサイズのドレスも作ってみたいわね。」「それをこの身体に着せるのか?」と僕。その姿は絶対に想像したくなかった。「それは、あたしもご遠慮したいわ。もし魔法かなんかで、この肉体が普通の大きさになれたら、その肉体は貴方にあげても良いわよ。」
 僕は元の自分の肉体に戻ることをほとんど諦めていた。そこに突然の親友の申し出である。親友のものではあるが、男に戻れるのだ。僕は親友の気が変わらないうちにと、時間があれば卵の中の本を片端から調べる日が続いた。必ずある筈である。この肉体を人間の大きさにする魔法が…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ウェディングベルが鳴り響いていた。僕の隣には親友がいる。人間のサイズにする魔法が見付かったのだ。しかし、魔法が成功したよろこびのあまり翌朝までSEXざんまいしたのがまずかった。程なく妊娠しているのが判り、責任を取るというわけではないが僕達は結婚することにしたのだ。
 賛美歌に続いて誓いの接吻を交わす。ウェディングドレスはもちろん親友のデザインだった。ベールが上げられると親友の顔が間近に迫る。「僕の一生をかけて君を幸せにしてあげるからね。」
 アタシは「はい。」と答えて瞼を閉じていた。
 
 
 

−了−


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