放課後



 「あっ、あん♪ い、いい…」
 僕は女の子の声で喘いでいた。
「そ、そこ…、もっと来て…」
 艶かしい声がどんどん溢れてくる。
「あ、あ〜〜〜〜っ!!」
 
 僕の内で先輩のペニスが暴れ回っている。
 今の僕には先輩を受け入れるための器官が備わっている。
 一時的なものにしろ、それは本物の女性器で先輩を充分に満足させてあげられる。
 もちろん下半身だけではない。
 胸には大きな膨らみがあり、その先端の果実は先輩の指や舌で散々に弄ばれている。
 声も顔も…
 僕は先輩好みの女の子に変身しているのだ。
 
 
 
 
「今日はこれにしようぜ。」
 いつも、どこで調達してくるのか様々なコスチュームを持ってくる。
 結局は全部脱いでしまうことになるのに、なんで?って聞いてみたけれどもまともに答えてくれたためしがない。
「さぁ、やってくれよ。」
 と、僕を促す。
 僕はビンの中の薬を飲み干した。
 
 何度味わっても好きになれない薬だが、その不可思議な味にも増してその後に来るものには閉口する。
 何と言っても、男の子の肉体を女の子のそれに組み換えるのだ。特殊メイクなどではない。骨格そのものが変形してしまうのだ。
「うGU!」「Guはぁッ」
 僕はその先にある悦楽のために、必死に痛みに耐えていた。
 
 変身が完了すると、痛みは嘘のように消えている。
 ひと廻り小さくなった僕の肉体は先輩の好みそのものなのだ。
 学生服を脱ぎ、先輩の用意してくれたコスチュームに着替えてみる。
 鏡に映して変なところがないか確認してみる。
 
「どぉ?」
 愛らしい声で尋ねてみる。
「良いねぇ〜♪ 萌え萌えだねっ♪」
 早速先輩に抱きしめられる。
「ぁ、あん♪」
 先輩の唇が僕の敏感なうなじを這っていった。
 
 
 
 
「良樹!! 今日も美都先輩の所かい?」
 友人の小原幸介が声を掛けてきた。
「うん♪」と返事をしてしまったが、僕と先輩の妖しい関係は誰にも知らせないでいた。
「傍からとやかく言う筋合いのものではないんだが、巷ではお前と美都先輩が変な関係になっているってもっぱらの噂だぞ。」
「そ、そうなの?」
「お前ももう少し、男としての自覚を持った方が良いんじゃないか?」
「ぼ、僕は男の子だよ。」
「じゃぁ、なんで美都先輩の所に出入りしているんだい?それに先輩は最近可愛い女の子と忙しそうじゃないか。」
 だってその女の子が僕なんだもの…思わず口に出掛かってしまった。
 
「だ、大丈夫だよ。僕は僕でやることがあるんだから。」
 本当に今日は先輩はいないのだ。他の女の子とデートらしい。
 ふと、僕の中に悪戯心が芽生えた。
「よかったら幸介も一緒に来ないか?」
 僕はなんとか言いくるめて幸介を書庫に引きずり込んだ。
「僕は準備室の片づけをしているから、幸介は書庫の整理を頼むよ。」
 幸介を一人残し、僕は準備室で薬を飲み干した。
 
 
 変身が終わると、ロッカーから服を取り出した。
 それはコスチュームとは言い難い。先輩と始めてエッチしたときに着ていた学生服だ。
 もちろん、女生徒用のものだ。
 支度を終え、書庫のドアをノックした。
「だれ?」と幸介の声。
「あの〜…」おずおずと入っていく。
「良樹さん急な用事ができたとかで出て行ってしまったんです。あたしに小原君の手伝いをしろって…」
「へぇ、あいつ何時の間にそんな偉そうなことが言えるようになったんだろう?で、君は?」
「あ、あたしは美都静っていいます。」
「え? じゃぁ、美都先輩の?」
「従兄妹です。」
 名前を聞かれて、とっさに思い付いた事をでっちあげてしまった。
 このまま話し込んでいてはいつボロが出るかもしれない。
 僕は幸介の持っていた本を奪い取った。
「これ、あっちに運んでおきますね。」
「い、いいよ。俺がやるから。」
 そう言って僕の計算通りに手を伸ばしてくる。
「あっ!!」
 僕は意識的にバランスを崩した。
 そして幸介の胸元に倒れ掛かる。
 幸介の腕が僕を抱えるように廻される。
 その腕は確実に僕のバストに触れていた。
「あっ!!」
 今度は幸介が言った。
 慌てて腕を解く。
「ご、ごめんなさい。」
「お、俺こそごめん。」
 気まずい雰囲気が立ち込める。
 
 少しの沈黙の後、僕の方から声を掛けた。
「あの、小原君?」
「幸介でいいよ。」
「あたし達もどこか行っちゃいません?」
「?」
「良樹さんもいませんし、どのみち1日で片づくような書庫じゃありませんから。」
「いいの?」
「あたし、幸介さんのこともっと知ってみたい…」
「…そっか…」
 幸介は考えていた。ここで強引にことを進めても良いことはない。
 僕は幸介の顔をじっと見つめていた。
「それも良いか♪ そうと決まれば鞄を取ってくるね。静ちゃんは下駄箱の所で待っていてね。」
 
 
 
 今もって幸介には僕=静が良樹と同一人物であることはばれていない。
 もっとも、今の僕には良樹の面影など微塵もない。それに、体格だって違っている。
 今の僕はどこを取っても華奢な女の子なのだ。
 ゲームセンターからでてきたときには二人は旧知の間柄になっていた。
「静ちゃん。カラオケしない?」
 ボックスの中で若い男女が二人きりになる。僕の思っていた筋書き通りに進んでいる。
 幸介は僕の肩を抱くようにしてカラオケ店に入っていった。
「あたし、あんまり歌える歌ないから…」ともっぱらマイクを幸介に譲っていたが、どうしてもとせがまれ僕の知っている数少ない女性歌手の歌を披露した。
 思ったよりも楽に高い声が出たので、一気に調子付いてしまった。
 気が付くと、僕の方がマイクを持つ頻度が高くなっている。それに…
「なんか、静ちゃんの選曲って良樹と同じだね。」
 気が付くと歌っていた歌はどれも歌い慣れた男性歌手のものばかりになっていた。
 
 僕の正体に気が付かれたかと思ったが、なんとか誤魔化すことができた。
 二人の雰囲気も程よい感じになってきたようだ。僕は『悪戯』の仕上げに掛かった。
「ねぇ、幸介さん。プリティツインのデュエットしません?」
「えっ? 歌は知っているけど、静ちゃんと俺の声じゃぁ…」
 プリティツインは双子姉妹のユニットで最近爆発的にヒットしている。もちろんその歌が老若男女を問わず歌われているから、幸介に歌えない筈はなかった。
 が、やはり女の子の透明な声でのデュエットが耳についているため、男女で歌うには幸介の美学に反することは折り込み済である。
 そこで、僕はポーチから『薬』を取り出した。
「ねぇ、これを使うと女の子の声が出せるっていうのよ。使ってみる?」
「へ〜、そんなのがあるんだ。」
「これならプリティツインの歌も大丈夫でしょ?」
「そうだな、ものは試しだ。」
 何の疑いもなく、幸介は僕の手から薬のビンを受け取ると、一気に飲み干していた。
「何か凄い味だね。」幸介が空いたビンを返す。
 その直後、
「うGU!」「Guはぁッ」
 幸介が身体を曲げて呻き始めた。
 あの薬は僕と同じように幸介の身体をも変化させていった。
「大丈夫よ。すぐに収まるから。」
 僕には幸介の服の下で起きている変化が手にとるように判っていた。その変化は服の布地越しに確認できた。股間の膨らみがなくなり、胸の部分の生地を押し上げてゆく。
 骨格の変化が体型をも変え、袖やズボンの裾に余りがでてくる。
 そして変身は完了した。幸介の痛みは消えている筈だ。
「ど、どういう事だ?」
 詰め寄る幸介の声は愛らしい女の子のものに変わっていた。
 僕はしれっとして答える。
「ね、あたしと同じ声でしょ?これならプリティツインの歌を歌えるわね♪」
 
 
 
 僕は幸介の性格を見誤っていたようだ。
「う〜ん。それはそうだね。」と、簡単に納得してしまった。そして、一気にプリティツインの持ち歌を全て歌いきってしまった。
 そればかりか、
「静、あんた着替えたんだから制服もってるでしょ?」
 制服のままカラオケに行くのが厭だったので、僕は途中で私服に着替えていた。制服は紙袋に入れて持ち歩いていたのだ。サイズの合わない服を着ていては歌いづらいというのが幸介の言い分だったが、折角女の子になったんだからスカートを穿いてみたいというのが本音だろう。その証拠に予備の下着も奪われてしまった。
 幸介はマイクを離さずに女性歌手の歌を歌い続ける。もちろん振り付けも合わせている。
「なんか気持ち良いね♪」スカートの裾を宙に舞わせてはしゃいでいる。
 彼(?)がマイクを置いた時には少し息を切らせていた。
「やっぱ、女の子は体力がないのかなぁ?」ドスンとソファに座り込んだ。言葉遣いは女の子っぽくしているが、やはり座り方は男丸出しである。
「ねぇ、お腹空かない?」
 変身してからこのかた、幸介のペースで進んでいる。
「どこか食べに出ようよ。」言うが早いか、僕の答えも待たずに身支度を始めていた。
「さぁ、いくわよ。」引きずられるように外に出た。
 
「ねぇ、彼女達♪」
 直ぐにもナンパ男達が群がってきた。
 僕が何もできないでおろおろしているのを余所に、幸介は適当にあしらっては次々と追い払ってゆく。
「あんなお金もなければ不潔・不細工・ダサさの塊なんかに用はないのよ。」と言い切る幸介。
「幸介、なんか凄いね。」と、ようやくそれだけ発言できた。
「まぁね。ナンパ男の心理なんて知り尽くしているし… それより静、あたしの事を『幸介』なんて呼ばないでくれる。今のあたしは女の子なんだから『カオリ』って呼んでくれなきゃぁ〜♪」
「なんでカオリなの?」
「だって、幸介で幸子やコウなんかモロ♪ってかんじじゃない? だから、コウに『香』の字を当ててカオリにしたんだ。良いでしょう♪」
「はぁ…」僕はもう溜息しか出せなかった。
 
「静、何してんの?」
 幸介改め香に呼ばれて現実に引き戻された。既に香は少し先を歩いている。彼女の両脇には大学生くらいのカッコいい男が並んでいた。
「俺、裕司。こっちは相棒の駿だ。静ちゃんだっけ?よろしくね♪」
 裕司さんに促されて駿さんがニコっと笑う。(ドキッ♪)
 な、何を僕はときめいているんだろう。僕には美都先輩っていう彼がいるのに…
 四人はそのまま高級レストランに入っていった。駿さん達はこういう店に慣れているようで、店構えに圧倒されている僕達をしっかりとエスコートしてくれた。
 食前酒が出される。僕は私服だから良いとしても、香は制服のままである。未成年バレバレだが誰も咎めないのでクイッとグラスを傾けていた。
「あぁ、美味しい♪」とその視線を僕に向けてきた。
(あんたも飲みなさいよ)とその目が言っている。
(でも、あたしたち未成年なのよ)と視線で答えるが、
(あんた、あたしに逆らえる立場なの?)と追い打ちをかけられる。
 仕方なくグラスに唇を付けた。立ち上るアルコールの臭いだけで酔っぱらってしまいそうだった。香が僕の所作を監視しているのが判った。僕はグラスに満たされた液体を少しだけ口に中に注いだ…
 
 
 
 気が付くとそこはベッドの上だった。
「気分はどう?」駿さんがそこにいた。部屋には二人だけだった。
 起きようとしてハッとする。僕は服を着ていなかった。何も着ていない…つまり全裸…
 顔がかぁっと紅潮する。
「あぁ、大丈夫。服は苦しくないようにって香ちゃんが脱がせてくれたから。起きれるのなら僕は暫く外に出ているよ。」
 駿さんは優しさの塊のような人だった。毛布を胸に当て起き上がると、冷たい水の入ったコップが差し出された。口を付けると微かにレモンの香がした。
「大丈夫だね。じゃあ僕は席を外しているから。」
 そう言ってドアを開けて出ていった。
 
 僕はベッドを出ると、風呂場に向かった。
 シャワーを浴びる。肌を打つ水滴が気持ちいい。しかし、このままのんびりとしている訳にもいかない。そろそろ変身薬のタイムリミットの筈だ。
 案の定、股の間でムクムクと鎌首を持ち上げてくる輩がいた。
 このままでは数分で元の姿に戻ってしまう。幸介には悪いが、このままここに留まる訳にはいかない。丁度、幸介の学生服もある。女装の男よりは男装の少女の方が何かと都合が良い。僕は学生服を着てドアを開けると一気に駆け抜けていった。
 エレベータを待つのももどかしく、階段を駆け降りてゆく。
 1階の階段室は裏口に繋がっていた。
 
 一息ついた後、僕はホテルの正面に廻っていった。
 道路を挟んで反対側の路地に身を潜ませていた。
 やがて、3人の男女が出てきた。幸介(香)と裕司さん、駿さんだ。駿さんはうなだれていて、それを裕司さんと幸介が慰めているようだ。僕は(ごめんなさい。)と心の中で手を合わせていた。
 ホテルの前で幸介と二人は別れていった。駿さんを抱いて去っていく裕司さん。幸介は二人が見えなくなるまでそこに立っているようだ。
 僕は道路を渡り、ゆっくりと幸介の背後に回り込んだ。
「やぁ、幸介♪」
 二人の姿が消えてから声を掛けた。
「ひゃう?」と可愛らしい叫びをあげて振り向いた。
「良樹?! なんで?」
 そして、ようやく事態が呑み込めたらしい。
「それ、俺の制服じゃないか? それに、どうして俺の事… そうか!! お前が『静』だったんだな。」
「ご名答♪」
「あのなぁ… で、どうしたら俺は元に戻れるんだ?」
「時間が来れば自然に元に戻るんだ。」
「なら、まだ2〜3時間はこのままなんだろう?決めた。今日はお前ん家に泊めてもらうぞ。」
「え?」
「だって、着替えはお前に取られているし、もうちょっと良いことしていたいしね♪」
 幸介がすり寄って来た。腕を絡め、スッと僕の股間を撫で上げた。
「もしかして良樹、女の子の経験なんてないんじゃないか?」
 再び主導権を幸介=香に握られてしまったようだ。
「大丈夫。あたしに任せなさい♪ うんとサービスしてあげるわよ。美都先輩のことなんて忘れさせてあげるからねっ♪」
 
 
 
 
 街はまだ宵の口。
 学生服を着た男女は期待に胸を膨らませて家路を急いでいった。
 
 
 

−了−


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