僕は…



「止めて下さい!!」
 僕はそう言うのが精一杯だった。
 人気のない校舎の影でいつもの三人組が僕を囲んでいる。今日は何を命令されるのか、どんな無理難題を押しつけられるのか… そんなおどおどした態度が更に奴らを煽ることになるとは判っていても、僕にはどうしようもなかった。
「今日は良いもんを持ってきてやったぞ。」
 リーダ格の陣野が紙袋を差し出した。
「その前に裸になってもらわなくちゃね♪」
 追従するのが二瓶だ。もう一人の久遠は無口だが、その体躯から迸るパワーは半端なものではない。
「ほらぁ、さっさと脱ぎなさいよ♪」
 陣野がちらりと久遠に視線を向ける。ぐずぐずしていると久遠にひん剥かせるぞという無言の圧力を掛けてくる。僕はワイシャツのボタンに指を掛けた。
 
 脱いだ衣服は片端から二瓶が奪い取っていった。すでにスニーカも取られ、靴下が奪われていった。
「さぁ、あと一枚ね♪」
「これも?」
「と〜ぜんでしょ♪」
 僕は最後の一枚であるトランクスに手を掛けた。そして脱いだトランクスで股間を隠そうとしたが、それも叶わず二瓶に奪われてしまった。仕方なく掌で大事な所を被った。
「別に隠す程のモンでもないでしょうに♪」
「その位で止めておけ。お楽しみはこれからなんだから。」陣野が二瓶を一瞥した。「ほら。これを着るんだ。まぁ、べつに裸のまま帰ってもらっても俺達は構わないがな。」
 陣野が差し出した紙袋を片手で受け取った。そのまま、紙袋で前を隠すようにして中を見てみた。着ろと言うからには衣服には違いない。白い布や紺色の布が垣間見えた。
 気が付くと、三人組はいつの間にか姿を消していた。とりあえずほっとするが、置かれた状況には変わりはない。とにかく渡されたものが服であるなら着てみるのが先決だ。
 が、紙袋の中から出てきたのはどう見ても男が身に着ける代物ではなかった。白い布はパンティーとブラジャー、それにブラウスだった。紺色の布は女子の制服に指定されているスカートだった。紙袋の底にはピンク色のスニーカまで入っていた。
 
 チャイムの鳴る音が聞こえた。いくらここが人目につかない校舎の影だと言っても、授業が終われば誰に見つかるとも限らない。全裸を見られるのが良いか、女装姿を見られるのが良いか、究極の選択だ。
 僕の選択は女装だった。少なくとも制服を着ていれば生徒の中に紛れ込む事ができる。それだけ時間も稼げるということだ。僕はパンティに脚を通した。
 
 生徒達の群れは校門から押し出されてゆく。その中には僕が紛れ込んでいた。誰も他人のことには注意を向けていない。同じ制服を着ているというだけで彼らの意識の片隅に追いやられてしまう。彼らの頭の中には宿題や今夜のテレビ、芸能人や雑誌の話題で埋めつくされているのだ。
 僕は流れに逆らうことなく自宅に向かって進んでいた。
 やがて、人影がまばらとなる。
「よぉ、遅かったじゃないか。」
 肩を叩かれた。聞き覚えのある声。
「へぇ、結構様になってるじゃない♪」
 三人組がそこにいた。
 
 
 
 そこは小さな祠があるだけの寂れた神社だった。長い参道は更に人を寄せつけない。叫んでも杜の木々が覆い尽くしてしまう。悪事をするには申し分のない場所だった。
 僕は口を塞がれ、叢の上に四肢を付いていた。更に逃げ出さないように久遠に腰を掴まれていた。
 パンツを脱がされ、スカートが捲くられた。
「良いね、良いね。俺の息子はビンビンだね。」
 陣野の声がする。
「そのままヤルの?」と二瓶。「勿論」と答える。久遠に合図すると、ぐいと腰が持ち上げられた。
 剥き出しにされた肛門に触れるものがあった。それは僕の想像しているものに間違いはない。それが、グイっと押し入ってきた。
 引き裂かれる痛みに叫んでいるが、口の中に詰められてもので叫びが声にならない。
 唸り声だけが辺りに渦巻くだけだった。
「おお、良いぞ。締まる締まる。」
 陣野のペニスが僕の中で暴れまわっている。それに刺激を受けた僕のペニスも硬く勃起していた。
「こいつ、いっちょ前に感じているみたいよ♪」二瓶がそれを目敏く見つけていた。
 僕は首を激しく横に振りそれを否定するが、それの先端からは先走りの水が滴り始めていた。
「これも『濡れている』って言うのかしら?」
 二瓶の言葉が僕の頭を混乱させた。
(濡れている?僕の股間が?僕は女の子?)僕の股間は男のペニスを呑み込んでいる。痛みが快感に変わっている。
(あんっ、あんっ、あん!!)僕は女の子のように喘いでいた。
 陣野の動きが激しさを増してきた。僕も快感を享受するように腰を振った。
「むふっ、むふっ!!」陣野が興奮している。
 そして奴のペニスが爆発した。
 僕の中に陣野の精液が注入されてよく。ドクドクと奴のペニスから捺し出されてくる。
(あぁ〜……)膣の中が陣野の精液で満たされていった。
 そして、僕は絶頂を迎えたかのように気を失っていた。
 
 
 
 辺りはもう真っ暗だった。
 ゆっくりと身体を起こす。股間に痛みを覚え、何が行われたのかを思い出さされた。
 立ち上がると、スカートの裾が脚に触れた。
 ゆっくりと闇に包まれた参道を戻る。通りに戻っても、人影は無かった。
 誰にも見咎められることなく家に着いた。
 玄関のドアを開ける。
「何時だと思ってるの?」台所から母さんがやってきた。そして僕を見た。
「あ、あなた…」
 スニーカを脱いだ僕はそのまま母さんの胸に抱きついていた。何も言えなかった。ただ、後から後から涙が溢れてくる。そんな僕の頭を母さんの腕が優しく包んでくれていた。
 
「とにかく、お風呂に入ってらっしゃい。」
 ひと泣きして涙が枯れた頃、母さんが言った。僕は母さんから離れると風呂場に向かった。
 スカートを脱ぎ、ブラウスのボタンを外してゆく。洗面台の鏡に女の子が映っていた。
(これは『僕』?)
 袷にブラジャーが覗いていた。膨らみかけた胸を可愛らしいレースが縁取っている。
(そうだ。僕は女の子なんだ。)
 ブラウスを脱ぎ、ソックスを脱いだ。あとはパンティとブラジャーだ。
(そう。この下にあるのは可愛らしい女の子の身体なんだ。)
 鏡をみながらイメージを固定する。そしてそのイメージが失われないよう、なるべく鏡を見ないようにしてブラジャーを外した。パンティを脱ぐ時は目を閉じていた。
 バスタブの蓋を取り、手桶にお湯を満たす。暖かな湯水が僕の身体を流れ落ちていった。
 汚れは体中に貼り付いていた。石鹸を泡立ててタオルで体中を磨いていった。
 お湯で流しては再び石鹸を付ける。これを3度繰り返してようやく人心地が着いた。
 湯船に身体を沈める。
 ジワジワと熱が身体の中に染み込んでくる。
 次第に心もリラックスしてきた。
 湯船の中でうとうととしてくる…
 
「母さん…」
 ドアを開けるとバスタオルを手にした母さんが待っていた。
「何も言わなくて良いわよ。」
 優しくそう言って僕の身体を拭いていった。僕は自分の身体を見ることなくパジャマを着せてもらっていた。鏡台の前に座らされる。ブラシで髪の毛が梳かれてゆく。
 甘いコロンの香りがした。
「何も考えずにお休みなさい。」
 僕はベッドに入るとそのまま深い眠りに入っていった。
 
 
 
 
 朝…
 目覚まし時計の音に起こされた。
 台所では既に母さんが朝食の支度を終えていた。
「今日は学校、お休みにする?」その問いに何も考えずに答えていた。「行くよ…」
「昨日の服は汚れてしまってるから、別のを用意しておいたわよ。」
 畳まれていたのは白と紺色の衣服だった。白いのは下着とシャツ。紺色は勿論スカートだ。
 何も奇怪しくはない。なぜなら、僕はもう女の子なのだから。
 パジャマを脱いで、畳まれた服の一番上にあるブラジャーを手にした。胸に宛てる。昨日は少し隙間があったが、今日のは胸をぴったりと包み込んでくれている。ブラウスに袖を通す。ボタンを止める手が膨らみかけの胸に触れる。ブラジャー越しに触れ、触れられる感触を楽しんだ。
 スカートを着け、裾の位置を調整する。
「これを着けてみたら?」母さんから渡されたヘアバンドをして鏡を覗く。
 どこから見ても、僕は女の子だった。
 
 食事を終え、鞄を手に玄関に降りた。
 スニーカーではなく革靴が揃えられていた。振り返ると母さんが微笑んでいた。
「可愛いわよ。大丈夫。行ってらっしゃい。」そう言って送り出してくれた。
 表に出ると、素足に風が当たった。スカートの裾が揺れる。けれど、それは僕にとっては当たり前の事なのだ。なぜなら、僕は女の子なのだから。
 道路には通勤通学の人達が歩いている。誰も気にしない。僕はそんな人達の中に溶け込んでいった。
 神社の前でいつもの三人組が待ち構えていた。もちろん『僕』を待ち構えていたのだろう。
 しかし、彼らは僕に気が付かない。彼らが待っているのは男の子の『僕』なのだから。
 僕は彼らの目の前を素通りしてやった。
 
 教室にはもう大分生徒が集まっていた。
「おはよう☆」
 僕が入っていくと誰もが不思議そうな顔をしていた。僕は一直線に自分の席に向かった。机の上に鞄を起き、椅子に座る。鞄の中から勉強道具を取り出して机の上に並べる。鞄は机の脇に置いた。
 これらの一連の行動がごく自然にできたためか、次第に皆の視線が僕から離れていった。
 始業のチャイムと同時に三人組が教室に飛び込んできた。
「お、おめ〜…」二瓶が僕を認め近付いて来ようとしたとき、担任の先生がドアを開けた。
「起立っ!礼っ!」日直の声に合わせて皆が立ち上がる。
「「おはようございます。」」
 そして担任が出席を取り始めた。僕の番になる。出席番号は男女別になっているが、僕は男子の方で呼ばれた。「はい」と返事をした時担任の視線が僕に止まる。そして教室内の三人組に視線を移した。しかし、担任の行動はそこまでだった。腫れ物に触らないように、出席の続きを取っていった。
 
 
 
 
 
 休み時間、三人組よりも先に女子学級委員の御崎さんがやってきた。
「ちょと付き合ってくれない?」そう言って僕は教室を連れ出された。やってきたのは女子トイレだった。一瞬躊躇するが、御崎さんに背中を押され始めての空間に足を踏み入れてしまった。
「久遠くん達の所為なんでしょ?」真っ直ぐに僕を見ている。
「ねぇ、もし良かったらこの格好で通い続けない?」
「どういう事?」
「この格好でいれば、あなたはあたし達…女子の仲間ということになるわ。そうすればあたし達は久遠くん達からあなたを庇ってあげられるわ。現に、あなたは今ここにいるでしょう?」
 洗面台の鏡に僕と三崎さんが…二人の女の子が映っていた。
「それとも、あなたは女の子として扱われるのは厭?」
(そんなことはない。なぜなら、僕はもう女の子なのだから。)
「良いの?」
「もちろんよ。じゃぁ、あたしとあなたはもう友達ね。」
「御崎さん…」
「皆と同じに由美子とかゆっちゃんとか呼んでね。」
 
 教室に戻ると僕は女の子達の輪に囲まれていた。三人組はなにも手出しできずにいる。
 放課後も彼女達の包囲網は崩れなかった。真っ直ぐに家に帰ろうとしていたが、御崎さんを筆頭に駅前の商店街に連れられてきた。アクセサリー店になだれ込み、ワイワイ言いながらいくつかのマスコットが買われ、それが僕の鞄に付けられた。見る間に僕の鞄は女の子の持ち物らしくなっていった。
「お友達になったお祝いだから、気にしない、気にしない♪」
 その後ハンバーガーショップでジュースを買った。皆はテレビやタレントの話題に興じている。もちろん、僕はそんな話題にはとても付いていけないが、彼女達の仲間の一人として輪の中に埋もれていた。
 
 
 
 
「最近、明るくなったわね。」晩御飯の支度をしながら母さんが言った。
「そう?」僕は母さんの隣で台所に立っていた。
(女の子ならお料理も…と言いたい所だけど、なにもできないからお手伝いくらいはしなくちゃね。)
 僕は今日買ってもらったエプロンを着けている。
 今日はそれだけではない。たくさんの洋服も買ってもらった。スカート、ワンピース、ブラウス、カーディガン。もちろん下着も揃えた。ブラジャー、ショーツ、シミーズ、キャミソール。ルーズソックスも忘れない。それから、大人ぽいパンストも買ってもらった。
 僕は箪笥の中を整理して、地味な男の子物はみんな処分してしまった。部屋の中も大分変わっている。壁には男性アイドルのポスターが貼られ、本棚にはファッション雑誌が積まれている。友達からもらったぬいぐるみが枕元に転がっている。
 休みの日はちょっとお化粧もしている。手足の爪を塗り、唇にもピンクのルージュを塗っている。友達からもらった入門書(小学校高学年向けの学習雑誌の付録らしい)が役にたった。
 由美子(御崎さんのことね♪)をはじめ、こんなにも多くの友達を持ったのは始めての経験だった。皆が優しく接してくれる。久遠達が理不尽な事をすれば、皆で糾弾する。(もちろん、その中には僕も含まれている。)女の子達のパワーには物凄いものがある。そんな訳で最近は三人組も鳴りを潜めている。
 家では学校の出来事を毎日のように母さんに話している。女の子の中にいると話題が尽きることがない。それをまた母さんに話すこともまた楽しかった。
 
 僕は女の子だ。
 呪文のように毎日繰り返す。家でも学校でも、僕を女の子として扱ってくれている。けれど、僕は女の子じゃない。トイレで「アレ」もってる?と聞かれたとき、彼女も僕もハッとした。僕が本物の女の子ではないことを思い出してしまう。
 夜、ベッドの中で繰り返す。
(僕は女の子だ。僕は女の子だ…)
 ショーツの中に手を入れる。想像上の肉体に沿わせて指を立てる。男の人に抱かれる所を想像する。
(僕は女の子だ。僕は女の子だ…)
 じわりと合せ目が湿り気を帯びる。指先を押し込むと濡れていた。
(あっ、あぁ…)
 喘ぎ声が漏れる。男の人の愛撫を受けて乳首が硬くなる。指先が敏感な所に触れた。
(あんっ♪)
 愛液が満ちてくる。ここに男の人のオチンチンを受け入れるのだ。
 胸の奥がキュンと熱くなる。
(来てっ♪)
 甘えた声でおねだりする。はしたないけれど、股間を広げ待っている。
 男の人がゆっくりと僕の上に被さってくる。
(良いんだね?もう元には戻れないよ。)
 僕は首を縦に振った。
 股間に男の人のモノがゆっくりと埋め込まれる。
(あぁ、いい…)
 僕はギュッと男の人を抱き締めた。
 
 
 
 
 朝…
 いつもより気分が良く目覚めた。
 洗面台で顔を洗って鏡を見た。そこには僕が映っているが、何か違う。
「おはよう☆」母さんに声を掛ける。「あらっ?」母さんも何か気が付いたようだ。
「何かあったの?」聞かれても「さぁ?」としか答えようがない。
 朝御飯を食べ、身支度を整えて出掛けにトイレに入った。
「!!♪」
 僕はうれしくて水も流さずにトイレを飛び出していた。
「母さん♪ 僕、女の子になったよ♪」
 スカートをたくし上げ、綺麗な股間を晒した。
「何です、はしたない…」
 母さんの目に涙が浮かんでいた。
 
 
 
 
 ウエディングベルが鳴っていた。
 僕は父さんに腕を引かれ、バージンロードを歩いている。
 向こうで彼が待っていた。
 
(幸せになるんだよ)
 僕の耳にあの夜の男の人の声が聞こえた。
(はい☆)
 僕は神様の前で誓った。
 
 僕は皆の前で彼に抱き締められ、熱い口づけを交わしていた…
 
 

− The Happy End −


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