×××の国のアリス



「ねぇ、面白い事してみない?」
 いつになく酔いが廻っていた俺はスナックの女の子の提案に何も考えずに頷いていた。
「じゃぁ、両手をテーブルの上に置いてくれる?」
 俺は言われるがままに掌を広げて置いた。
 女の子はポーチから小さな壜を取り出した。
 壜の蓋には刷毛が付いていて、壜の中の液体が絡められていた。
 刷毛が俺の爪にその液体を塗り付けてゆく。
「心配しなくて良いのよ。あとで綺麗に取ってあげるから。」
 俺の爪は紅く染め上げられた。
 液体が乾くとその上から銀色のペンでそれぞれの爪の上に異なった文様を描き込んだ。
 彼女が呪文を唱えると、俺の肉体がみるみる変化していった。
 俺の指が紅く染められた爪に相応しく細く、白く変化した。
 胸が膨らみ、ワイシャツの生地を押し上げる。
 下腹部が熱を帯び、あり得ない箇所から吹き出した汗のようなものが股間を湿らせている。
 手鏡を渡された。
 頬に触れていたのは長く伸びた俺の髪の毛だった。
 伸び掛けの髭は姿を消していた。
 顔の輪郭が変わっていた。
 鏡の中には愛らしい女の子が映っていた。
「ねぇ、これに着替えてみて。」
 女の子が営業用のドレスを差し出した。
「お客さんいないから、ここで着替えられるわよ。」
 俺は言われるがままワイシャツのボタンを外していた。
 
 
 
「いらっしゃいませ♪」
 俺はみどりさんに倣ってお客を迎え入れていた。
「新顔かい?」
「は、はい…」
 俺の声も女声になっていた。
 首を振ると耳元でシャラシャラとイアリングの発てる微かな音が聞こえる。
 グラスに氷を入れ、ウィスキーを注ぐ。
「名前は?」
 俺が答えられないでいると、みどりさんが助け船を出す。
「アリスよ。正真正銘、今日が始めてのお店なの。ご贔屓にしてあげてね。」
「おぅ。みどりちゃんに頼まれるまでもないよ。アリスちゃんはワシの好みだ。」
 水を注いで掻き混ぜる。
「よかったらこのままどう?」
 話が振られて手が止まる。
「何事も経験よ。行ってらっしゃいな。」
 俺は彼女の指示には逆らえない。
「すべて社長さんに任せていればいいわ。私と同じように社長さんの言う事をよく聞くのよ。」
 俺は小さな肩を社長さんに抱かれて、タクシーに乗らされていた。
 近くのホテルに入った。
 広いベッドを前に俺は立ち尽くしていた。
「始めてなんだろう?」
 社長さんの言葉に俺は首を縦に振っていた。
 逞しい腕にしっかりと抱き締められた。
 唇が合わせられる。
 俺の唇を割って社長さんの舌が入ってきた。
 ふっと意識が遠退いていった。
 
 
 
 俺はベッドの上に寝かされていた。
 衣服は全て脱がされていた。
 寒くはなかった。
 肉体の内側から熱気が漏れてくる。
「綺麗な身体だね。」
 社長さんが俺の脇に腰を降ろした。
 指先が頬に触れる。
「瑞々しい肌だね。」
 指先が動いてゆく。
「張りのある乳房。引き締まったウエスト。」
 俺の肉体をなぞる指先が股間に達する。
 指先が何も無い股間に触れる。
 いや、何も無くはない。そこには女の性器があった。
 割れ目に押し当てられた指の腹が敏感な突起を捉えた。
「あぅっ」
 俺の喉から吐息が漏れる。
 ジュン!!
 熱くなった股間から吹き出されてきたものがあった。
 社長さんの指がソレを絡めとる。
「よしよし。愛液も出てきたね。」
 社長さんの指が俺の肉体を本格的に責め始めた。
 
 
 
「あん。あぁ、ああん♪」
 俺はベッドの上で女のように悶えていた。
 いや、この肉体は女そのものなのだから、それは当然の事ではある。
 が、俺の意識はまだ男のままであった。
 男に責められ快感を覚えている現実に俺は歯痒さを感じながらも、俺はその快感に酔い痴れていた。
 俺の股間は俺の産み出した愛液で洪水のようだった。
 俺は俺の股間が快感を感じつつも、物足りなさが存在している事に気付いていた。
 俺の股間が何かを欲しがっていた。
 それが何であるかは充分に認識していたが、俺はそれを認めたくなかった。
 しかし、社長さんの言葉に俺は逆らう事ができなかった。
「アリスちゃんのココは何かを欲しがっているみたいだねぇ。何が欲しいのかな?」
「し、社長さんの…」
「ワシの?」
「…ペニスです…」
「そうかい。じゃあ、もっと脚を広げなさいな。」
 俺は膝を曲げ、脚を開いていた。
 俺の股間が社長さんの前に晒されていた。
「じゃあ、アリスちゃんの処女をもらうよ。」
 社長さんの腰が俺の股間に割り込んできた。
 脚を抱えられ、ペニスの先端が俺の股間を彷徨っていた。
 膣口に当たった。
 ゆっくりと侵入してくる。
 男では感じる事のできない被挿入感。
 充分にほぐされた股間は痛みを覚える事はなかった。
 社長さんの股間が俺の股間に密着する。
 俺の膣の中に社長さんのペニスが入っているのだ。
 
「動くよ。」
 膣の中からペニスが引き抜かれてゆく。
 それは最後まで行かずに再び膣の中に戻ってきた。
 股間の肉襞がペニスに絡みつく。
 愛液が音を発てていた。
 ペニスの動きは次第に激しくなっていった。
 と、同時にそこから新たな快感が生まれてきた。
 
 リズミカルに股間が打ちつけられる。
「あん、あん、あん♪」
 そのリズムに合わせて喘ぎ声が漏れる。
 快感が高まって行く。
「良いぞ、良いぞ♪」
 社長さんの声に合わせて高みへと昇ってゆく。
「い、行くぞ!!」
 その声と同時に俺の膣の中でペニスが膨れた。
 ペニスの先端から精液が迸る。
 俺は膣の奥でそれを受け取った。
 と、同時に快感がピークに達した。
 俺は無意識の内に叫んでいた。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 
 
 
 
 
「どうだった?女としてのSEXは。」
「何か、言葉に出来ないね。」
「病みつきになりそう?」
「遠慮しておくよ。」
 俺はみどりさんのマンションに送り届けられていた。
 気が付いたのは翌日の朝だった。
 シャワーを浴びてからマニキュアを取ってもらっていた。
 爪からマニキュアが消えていくに従い、俺本来の姿を取り戻していった。
 髪の毛が短くなった。
 手足に太さと浅黒さが戻ってきた。
 胸が平らになった。
 そして、最後に左手の小指が残されていた。
「これを取ればあなたは完全に男に戻れるわ。で、どうする?」
「どうするって?」
「最後のこれを取るのはあなたの意志に任せようと思うの。リムーバ液の残りをあなたにあげる。そうすれば好きな時に男に戻れるわ。」
 俺はもういちど自分の肉体を確かめた。
 顔も手足もすっかり男に戻っていた。
 未だなのはただ一カ所…
 俺のペニスは未だ復活していなかった。
 そこには女の性器が残っていた。
「ねぇ、気持ち良かったでしょ?」
 
 
 
 俺はみどりさんのマンションを後にした。
 ポケットにリムーバを入れて…
 
 
 

−了−


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