無題2



 目が覚めた。
 そこは見知らぬ場所だった。
 ホテルの一室のようだ。
 僕はベッドに寝ていた。
 隣に寝息がひとつ…
 
 悪友の逸見大悟だった。
 彼も僕も全裸だった。
 ようやく、昨夜の記憶が蘇って来た。
 
 僕は大悟に抱かれ、オンナのように喘ぎ、悶えていたのだ。
 彼に導かれ、幾度となく絶頂を迎えたのだ。
 
 彼の男性自身の迎え入れた名残が僕の胎の芯に疼いている。
 僕はベッドを抜け出した。
 バスルームでシャワーを浴びる。
 愛液と体液にまみれた身体を洗い流す。
 外し忘れた鬘の長い髪が僕のなにもない胸に垂れ掛かる。
 
 僕は胸に掌を充てた。
 彼の愛撫を思い出す。
 それは一通り乳首とそのまわりを弄ぶと、下に降りて行った。
 うっすらとした茂みを指先がかき分ける。
 その先に彼を迎え入れた場所がある。
 
 昨日の朝には威勢よく自分を誇示していた僕自身がいなくなり、オンナの証がそこにある。
 僕は合わせ目に指を這わせた。
 昨夜の彼の感触を思い出す。
 ゆっくりと指先を挿入する。
「あっ…」
 愛らしい吐息が僕の喉を衝いた。
 
 シャワーの音が直ぐにそれを消し去っていった。
 
 
 
 
「長かったね。」
 バスルームを出ると既に大悟は身支度を終えていた。
「む、向こう向いてて…」
 僕は慌ててショーツを穿き、パット入りのブラを付けた。
 着て来たワンピースに身を包む。
「ね、ねぇ。チャックを上げるのを手伝ってくれないか?」
「いいよ」
 にやつきながら彼が振り向く。
 その「にやつき」の理由が判った途端、
「えっち!!」
 と僕は叫んでいた。
 向こうを向いていても、そちら側の壁は一面が鏡になっているので、大悟は僕の着替えを余す所なく観ていたのだ。
 そう叫んだ口を大悟は自分の唇で塞いだ。
 ジッパーを上げ終わった手を腰に廻す。
 僕は彼の首に腕を掛けた。
 
 ゆっくりと唇が離れる。
「化粧はできるか?」
 その問いに僕は首を横に振って答えた。
「そこに座って。」
 指し示されたスツールに腰を降ろすと、大悟はいつの間にか取り出したブラシで僕の髪を梳き始めた。
「良い具合に馴染んでいるね。」
 長い髪は僕の自毛と融合していた。
 梳かれる度に髪の毛の一本一本が僕のものになってゆく。
「本格的な化粧はできないけど…」
 と言いつつ、口紅を塗ってくれた。
 耳にピアスが飾られ、鏡の中に一人前の「女」が写し出された。
 
 
 
 高いヒールによろめきながら、夜明けの街を歩く。
 隣で大悟が支えてくれる。
 彼の腕に自分の腕を絡める。
 早出のサラリーマンとすれ違う。
 うらやましげにあたし達を見て通り過ぎる。
 マンションの前に着いた。
 大悟はあたしの額にキスをして別れた。
 
 部屋の戻る。
 「あたし」から「僕」に戻る。
 夢から覚めたように魔法が消える。
 
 身支度を整え、僕は「日常」に戻って行った。


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