目が覚めた。
そこは見知らぬ場所だった。
ホテルの一室のようだ。
僕はベッドに寝ていた。
隣に寝息がひとつ…
悪友の逸見大悟だった。
彼も僕も全裸だった。
ようやく、昨夜の記憶が蘇って来た。
僕は大悟に抱かれ、オンナのように喘ぎ、悶えていたのだ。
彼に導かれ、幾度となく絶頂を迎えたのだ。
彼の男性自身の迎え入れた名残が僕の胎の芯に疼いている。
僕はベッドを抜け出した。
バスルームでシャワーを浴びる。
愛液と体液にまみれた身体を洗い流す。
外し忘れた鬘の長い髪が僕のなにもない胸に垂れ掛かる。
僕は胸に掌を充てた。
彼の愛撫を思い出す。
それは一通り乳首とそのまわりを弄ぶと、下に降りて行った。
うっすらとした茂みを指先がかき分ける。
その先に彼を迎え入れた場所がある。
昨日の朝には威勢よく自分を誇示していた僕自身がいなくなり、オンナの証がそこにある。
僕は合わせ目に指を這わせた。
昨夜の彼の感触を思い出す。
ゆっくりと指先を挿入する。
「あっ…」
愛らしい吐息が僕の喉を衝いた。
シャワーの音が直ぐにそれを消し去っていった。
「長かったね。」
バスルームを出ると既に大悟は身支度を終えていた。
「む、向こう向いてて…」
僕は慌ててショーツを穿き、パット入りのブラを付けた。
着て来たワンピースに身を包む。
「ね、ねぇ。チャックを上げるのを手伝ってくれないか?」
「いいよ」
にやつきながら彼が振り向く。
その「にやつき」の理由が判った途端、
「えっち!!」
と僕は叫んでいた。
向こうを向いていても、そちら側の壁は一面が鏡になっているので、大悟は僕の着替えを余す所なく観ていたのだ。
そう叫んだ口を大悟は自分の唇で塞いだ。
ジッパーを上げ終わった手を腰に廻す。
僕は彼の首に腕を掛けた。
ゆっくりと唇が離れる。
「化粧はできるか?」
その問いに僕は首を横に振って答えた。
「そこに座って。」
指し示されたスツールに腰を降ろすと、大悟はいつの間にか取り出したブラシで僕の髪を梳き始めた。
「良い具合に馴染んでいるね。」
長い髪は僕の自毛と融合していた。
梳かれる度に髪の毛の一本一本が僕のものになってゆく。
「本格的な化粧はできないけど…」
と言いつつ、口紅を塗ってくれた。
耳にピアスが飾られ、鏡の中に一人前の「女」が写し出された。
高いヒールによろめきながら、夜明けの街を歩く。
隣で大悟が支えてくれる。
彼の腕に自分の腕を絡める。
早出のサラリーマンとすれ違う。
うらやましげにあたし達を見て通り過ぎる。
マンションの前に着いた。
大悟はあたしの額にキスをして別れた。
部屋の戻る。
「あたし」から「僕」に戻る。
夢から覚めたように魔法が消える。
身支度を整え、僕は「日常」に戻って行った。