実験台



 僕の彼女は何にでも凝り易い。
 それもヘンなモノに凝るのだ。
 今、凝っているのは「催眠術」だ。
 
 僕は彼女の「実験台」となった…
 
 
 
(……)
「…ぁ、気がついた?」
 女の子の声にあたしは瞼を開いた。
 どうやらベッドに寝かされていたみたいだ。
「どぉ?気分は?」
 掛けられていた毛布を剥がし、起き上がった。
(?!)
 何か、違和感を感じる。
「成功したみたいだよ。」
「なにが?」
 そう言ったあたしの口から、聞き慣れない声が出ていた。
「な、何なの?」
 あたしは胸に手を当てた。
 そこにある筈の膨らみはなかった。
 ジーンズの股間にある筈のない膨らみが……
「大丈夫?」
 そう言われて、始めてその女に注意が向いた。
 その顔…、その声…、
「あ、あたし?」
 そう。あたしに声を掛けてくれたのは、あろう事かあたし自身だった。
「成功したんだよ。僕達は入れ替わったんだ。」
 あたしはサイドテーブルに置かれた手鏡を覗き込んで確認した。
 確かに、この顔はあたしの恋人の後藤慎児だ。
 
「じゃあ、始めようか?」
 そう言うなり、あたし(慎児)はあたしの前に跪くとズボンのベルトに手を掛けた。
「な、何をするのよ!!」
 どうも、男の声だとオカマっぽくて迫力に欠ける…
「何って?君が言いだしたんだぞ。身体を入れ替えたら直ぐに試してみるって。」
 あたしが?
 ……思い出そうとすると妙な白い靄に記憶が閉ざされてしまう。
 そうこうしているうちに、あたし(慎児)はズボンとパンツを剥ぎ取っていた。
 あたしの股間に慎児のが勃っている。
 あたし(慎児)は躊躇いも無くソレを口に入れた。
 濡れた口蓋が先端に当たる。
 唇が閉ざされ、ソコだけが温かく包まれる。
「あンッ」
 あたしの口から野太い喘ぎが漏れる。
 彼女の舌があたしの先端を刺激する。
 繊細な指先が袋の合わせ目を撫で上げる。
「ああ〜〜ッ」
 それだけで、あたしは「爆発」してしまった。
 彼女の唇が離れる。
「大丈夫?」
 彼女の瞳が妖しく輝く。
 舌が伸び、唇の周りに付いた白い粘液の残滓を嘗め取った。
「今度はあなたの番ね。」
 彼女は見せつけるように、着ていた服を一枚づつ剥ぎ取ってゆく。
 あたしの股間も復活していった。
 彼女(慎児?)はあたしと入れ替わりにベッドに入るとあたしを誘った。
「きて。」
 あたしは残ったトレーナを脱ぎ捨て、彼女の上に身体を重ねた。
 
 
 
 
「あなた、慎児じゃないでしょう?」
 一通りの痴態を興じた後で、あたしは気にしていた事を確認した。
「よく判ったわね。」
「だって、あなたの言動のどれをとっても男の子には見えなかったもの。」
「うんうん」
「男の子が女の振りをしても、どうしてもどこかでボロが出るものよ。」
 あたしは脱ぎ捨てた服の山から男物のパンツを取り出して穿いた。
「それが、あなたにはなかった。」
 ベッドの向かい側の椅子に腰を降ろした。
 彼女は上半身を持ち上げた。
「せーかい。良く出来たわね。」
 彼女の下半身はまだ毛布の中だ。
「そう、あたしは沙也香。催眠術で身体を入れ替えるなんてもともと無理があるものね。」
(え?!)
 彼女の言葉にあたしの思考が凍り付いた。
 そこに、彼女が追い打ちをかける。
「じゃぁ、あたなは誰でしょう?」
 あたしは自分の事を「沙也香」だと思っていた。
 が、「沙也香」は目の前にいる。
「ど、どういう事?」
「あたしはあなたに催眠術を掛けた。それは判るわね。」
 あたしは頷いた。
「あなたは自分の事を沙也香だと思い込んだ。」
 二度三度と首を振る。
「目の前のあたし=慎児と身体を入れ替えたと思っていたら、実はあたしは沙也香のままだった。」
 彼女は立ち上がった。
「それでは正解を言います。」
 彼女は全裸のまま、壁にもたれて立った。
 その指先があたしを指し示す。
「あなたは、あたしの双子の妹。亜也香です。」
(そ、そうだったんだ。)
 あたしはほっと胸を撫で降ろした。
「あたしは今回の実験で、催眠術が肉体に与える影響を確認しようとしたのです。」
 沙也香はゆっくりとあたしに近づくと優しく抱いた。
「実験は十分に確認できました。」
 さぁ。とベッドに誘った。
「術を解きます。身体を楽にしてね。」
 あたしは姉さんの指示に従った。
「これからゆっくりとあなたの身体を元に戻していきます。」
 彼女の掌が体中を撫で廻してゆく。
「あなたの本来の姿を頭の中で鮮明に思い出してご覧なさい。」
 あたしは言われる通り、あたし自身の姿を思い描いた。
 双子の姉さんと寸分違わない綺麗な身体…
 
 
 
 沙也香の掌があたしの胸の上に在る。
 豊満なバストを思い出す。
 胸が熱くなる。
 体中の余分な血肉が胸に集まって来るような気がした。
 彼女の掌が上に上がるのに合わせて、ゆっくりとバストが盛り上がっていった。
「イメージして。」
 沙也香の声に同調する。
 自分の胸の形を思い描く。
 乳輪の大きさ、乳首の形、色…
 ピンク…、そして白い肌
 バストの色に全身の肌の色、肌理が同調してゆく。
 
 彼女の掌が全身を巡って、股間に到達する。
 そこに女のコの証をイメージする。
 それはあたし自身…
 淡い茂み…
 深く切れ込んだクレバス…
 その奥にある肉襞…
 
「あつい…」
 既にあたしの声は元に戻っていた。
 あたしの下腹部が一旦どろどろに溶け、そこから再生していくイメージを繰り返す。
 そこに発する高熱に、あとどれくらい耐えられるのだろうか?
「がんばって」
 沙也香の声が和する。
「あ、あ、あ〜〜〜っ」
 あたしは限界に達していた……
 
 
 
 
 
 
 コンコン
 ドアがノックされた。
「だれ?」
「わたし、亜也香。」
 ドアの向こうから声がした。
(亜也香?)
 あたしの中で疑問が膨らんでいく。
 
 そう、沙也香には妹がいた。
 双子ではなく、歳の離れた…
(では、あたしは誰?)
「お茶。ここに置いとくね。
 それと、お姉ちゃん。
 あんまり慎児クンをオモチャにしていると、後で泣きをみるわよ。」
 
 ぱたりと扉が閉まった。
「じゃぁ、ここまでみたいね。」
 沙也香はふぅと溜息をついた。
「今度は本当に術を解くわね。慎児クン。」
 

 パン!パン!パンッ!!


 彼女の掌が大きく三度叩かれた。
 「僕」は覚醒した。
 今なら自分が誰なのか、はっきりと認識できる。
 記憶の靄も取り払われた。
 僕は後藤慎児。
 沙也香の恋人。
 僕は彼女の催眠術の「実験台」となっていたのだ。
 
 
 僕はベッドから身体を起こした。
 (?!)
 胸に違和感を感じる。
 見ると、そこにはバストがあった。
 そして、パンツの中に手を入れた…
 (‥;)
「沙也香さん。どうするんですか?」
 僕の目が沙也香の目と合う。
「大丈夫よ。寸法は同じだから、服も下着もあたしのを使えば良いのよ。」
「そ、そういう問題じゃないでしょ?」
 沙也香の瞳が一瞬宙を舞う。
 そして…
 
「それよりも…見せて!!」
 沙也香は体当たりするように僕に詰め寄ると、僕のパンツを一気に引き降ろした。
「やったね。」
 彼女は嬉々としてそこを弄り始めた。
「や、やめて…」
 僕の声はか細い女の声に変わっていた。
 沙也香の執拗な責めが続く。
 僕の制止は何の役にも立たない。
 呻きは喘ぎに…
 
 それがオンナの嬌声に変わるのには大して時間はいらなかった。
「あっ。あ、あ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
 
 
 
−了−


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